教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

12/16 BSプレミアム ヒューマニエンス「"時間"命を刻む神秘のリズム」

 今回は生命と時間の関わりについて。

体内時計の調節中枢

 まず登場するのは東京大学の上田泰己教授だが、彼の研究が驚いた。マウスの細胞から色を落として、透明のネズミを作ったというのである。これの目的はマウスの全細胞を観察すること。その結果、生物の体内時計について分かってきたことがあると言う。

 体内時計は体の至る所にあるのだという。マウスの脳の3Dマップからは、目の奥の視交叉上核が体内時計において非常に重要であることが分かったという。ここが各体内時計を調整する中枢時計なのだという。ここが元になって体中の臓器の体内時計が同期して作動するのだという。その結果として各臓器が24時間周期で動作し、病気のリスクなども決まってくるのだという。例えば心拍数が上がりにくい午前中は心筋梗塞や脳梗塞が増え、血圧の上がる夕方以降は脳出血のリスクが上がる。

 なお時計遺伝子というのが細胞内にあり、それがリズムを刻むのだという。朝遺伝子が昼遺伝子を活性化し、昼遺伝子は夜遺伝子を活性化する。そして夜遺伝子は朝遺伝子を不活性化するのだという。すると朝遺伝子が活性化すると昼遺伝子が活性化し、すると夜遺伝子が活性化されるので、朝遺伝子が不活性化される。すると昼遺伝子が不活性化し、そのことで夜遺伝子が不活性化したら、抑圧がなくなった朝遺伝子が再度活性化するというようなメカニズムが一例とのこと。

 

 

環境に合わせて調整される体内時計

 フランスで洞窟を使った実験では時計のない状態で洞窟内で過ごした被験者は、洞窟内で30日を過ごしたと思っていたが、出てみると40日経っていたという。我々の時間感覚はかなり変化するというのだという。

 地球が生まれてから1日の時間は実は大分変わっている。実は生命の体内時計もそれに応じて変わってきたのだという。30億年前に登場したシアノバクテリアでは、24時間の体内時計を有しているという。我々の体内時計は太陽の変化に応じて調整する能力を持っており、だから視界からの情報が入ってくる視交叉上核が中枢なんだという。さらに体内時計は季節の変化にも対応しているのだという。また時差ボケなどもあるが、マウスの実験では時差ボケを解消するのには7日ぐらいかかるという。なお体内時計には対応力があるが、あまり時差ボケを繰り返していると早死にするという動物実験の結果があるという。

 さらに社会と時間の関わりを考えていくと、社会の高度化と共に時間が必要になってきたのだという。また日本人は時間にシビアな民族とされるが、実はその変化は大正時代に起こったもので、江戸時代までは非常にルーズなものであったという。大正時代に時間に正確になろうという運動があり、これが今日の日本人につながっているという。

 

 

「今」とはどれだけの時間か

 最後は「今」とは何かという問い。大阪大学の北澤茂氏によると、人は今を基準にして過去及び未来に時間を広げていったとする。ちなみに認知機能に障害を起こすと時間が過去から未来につながっているという感覚が失われるという。だから今自分がどこにいるかが分からなくなるのだという。今、ここを認識するのが我々の認知の基本だとのこと。大脳内にある楔前部が「今」を作り上げる脳内ネットワークの中枢だという。

 なお脳にとっての「今」とは0.1秒ぐらいだという。両手の指先に時間差をつけて刺激を与えた時、どちらが先かを判断するテストを行った時、正解率がほぼ100%になるのが0.1 秒だという。なおこれを手をクロスさせて行うという複雑なものにした時、脳が混乱して最初は正解率が低下し、それが収拾していくのは0.2秒を過ぎてからだという。ここから「今」は0.1~0.3秒で、この間に脳は現実を編集しているのだという。例えば視線を動かした時、その中間は省かれていて意識に残らない。これが編集なのだという。だから人間は0.1秒以下の時間では反応できないという。

 

 

 生物学的な話から最後は「時間とは何か」という半哲学めいた話題にまで飛躍していったのが今回。人間は0.1秒単位で現在を把握しているという話があったが、これは脳波のアルファ波の周期に合致しているのだという。この範囲内なら人間にとっては「同時」ということらしい。

 体内時計が光でリセットされているということは知ってはいたが、そこに進化のメカニズムが絡んでいるという壮大な話までは考え及んでいなかった。なお洞窟の中で時計無しで暮らすという実験は大分昔に「トライ&トライ」で山川アナが被験者となって数人で実施していた記憶があるのだが、その時はさすがにアナウンサーという時間感覚が重要な職業の者らしく、実験時間は数日だったと思うが、時間のズレ自体は意外と大きくなかったという結果になっていたはずだ。なおその時に、光の刺激がない状態では人間の体内時計は25時間周期になる傾向があるという話があり、毎日それを光刺激でリセットしているんだと言うことを説明していた記憶があるのだが、この辺りについては今でも考え方は変わっていないんだろうか?

 

 

忙しい方のための今回の要点

・体内のあらゆる臓器は独自の体内時計を持っているが、そのままではバラバラになる各時計を同期させる中枢時計は視交叉上核にあるというのが、透明マウスの観察で判明した。
・人間の体内時計とは硬直した絶対のものではなく、光の刺激で調整をしている。だから目に近い視交叉上核が中枢時計なのだという。
・なおいわゆる時差ボケの解消には7日かかるというのがマウスでの実験結果だという。
・人間が過去、今、未来という時系列のつながりを判断するのは脳の楔前部の働きであり、認知症などでその機能が阻害されると、時系列を理解できなくなり、今がいつであるのかという認識がなくなってしまう。
・また人間の「今」の認識については、刺激に対する反応などから0.1秒~0.3秒の範囲だと考えられるという。人間はこの範囲内の出来事は「同時」と認識する。またこの0.1秒は脳のアルファ波の周期とも合致する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・時間とは何なんだ、人間にとって今とは何なんだとか考え出したら、必然的に哲学的な話になってしまいます。人間は未来を認識することが出来るから絶望もすれば希望を持つことも出来るという話が暗示的でした。未来予測というのは高度な脳の働きによるもののようです。もっとも最近は明らかに見えている未来から目を背ける現実逃避の輩が政界を中心に増えていますが。

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