教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

3/10 BSプレミアム ヒューマニエンス「"嘘"ウソで分かる人間のホント」

脳が発達すると嘘をつくようになる

 今回のテーマは嘘。人間は様々な嘘をつく生き物であるが、なぜ嘘をつくようになったかということである。

 まず人間はいつ頃から嘘をつくかだが、これは4才ぐらいから急増するのだという。実は嘘をつくのは子供の知能の成長と社会性の発達と密接な関係があるという。実際にどのように嘘をつくかというのを実験している。それは動物の鳴き声を聞かせて(その動物のぬいぐるみが背後に置いてある)何の声をかを当てさせる。そして正解したらやや大げさに褒めてやる。そして次の問題というところで出題者が急用で席を外す。その時に「後を見ないで」と言い残して席を立つ。そして子供が一人になった時に、聞こえてくるのは今まで聞いたことのないような音(およそ動物の声とは思えないピヨーンというような音)。好奇心に駆られた子供が背後を見る。そして戻ってくる出題者「後を見なかった」と聞いた時に子供が正直に答えるかというもの。

 4才の子供は後を見た挙げ句に「見ていない」嘘をつき、さらに何の鳴き声か聞かれると「キリン」と答えていた。しかもどうして分かったか聞かれた時に「テレビの戦隊ものであった」などとつじつま合わせの嘘までついている。一方7才の少女は見ようとする葛藤に何度か耐えた結果、結局は見てしまって「横の方を見ていた」とか誤魔化して答えており、やはりなぜ分かった聞かれると適当に帳尻を合わせていた。このように子供は成長してくると普通に嘘をつくようになるのだという。この時に嘘をついたのは4才以上だったのだが、6才の男の子は振り返ったことを最初はとぼけたが、結局は正直に白状しているので、性格の問題もあるだろう(織田裕二氏が「この子に共感する」と言っていたが、私もこのタイプだ)。4才から嘘が増えるのはこの時期に相手の気持ちを推測する能力などの社会性が発達するからだという。

 

 

善意から来るホワイト・ライ

 また嘘には種類があり、ホワイト・ライと呼ばれるものがあるという。これは相手のことを慮ったりしてつく嘘らしい。子供と写真を取り合う実験をした時に、仕掛け人はわざと鼻に口紅を付けた状態で「このまま写真を撮っても変じゃないかな」と聞く。子供は変だと思っているが、指摘しても悪いと慮って嘘をつくのだという。年齢が上がってくるにつれてこういう優しさが正直さを超えてしまうのだという。

 大人は様々な嘘を織り交ぜて生活している。大学生にどんな時に嘘をついたかの嘘日記を付けてもらったところ、頼まれたことを忘れていたのに売り切れだったと嘘を言ったとか、友人が連れてきた女の子があまりかわいくないのに「かわいいじゃん」と言ったなどが出てくる。相手のことを慮ったり、場の空気を壊さないための嘘が多かったという。そして一週間平均から1日当たりの嘘の回数は男性が1.57回、女性が1.96回となったという。つまりは組織の人間関係の軋轢を避けるために意図的に嘘をつくようになっているという。

 さらにその嘘に気づくかだが、相手に嘘をつかれたと気づいた回数は男性0.36回、女性0.36回と、先の嘘をついた回数に比べると極端に少なかったという。つまりは人は相手の嘘に大抵は気づかないのだという。人間がこのようになっているのは、集団生活を行うためには互いに信頼するということが重要であり、社会生活をする人間はそういうように進化してきたのだという。嘘に鈍感だからこそ社会を発達されられたのだという。

 

 

嘘に対抗するためには

 もっとも嘘に鈍感すぎると現在のような悪意をもった嘘を流布する者がいる状況では危険である。ここで嘘に乗せられないようにするにはどうすれば良いか。基本的に相手の嘘を見抜くには疑うにたる理由が必要である。人が嘘と感じる理由には状況証拠や相手の人物に対する知識などに基づいているという。相手が落ち着かないなどの態度で判断できた例はほとんどないという。しかしそれで嘘を見抜けているかと言えば、実は嘘を見抜く正確さは54%しかなく、まぐれ当たりとほとんど変わらないレベルとのこと。つまり基本的に嘘を見破れないのだという。ではどうするかだが「懐疑の精神」を持つのが重要だという。これは相手の主張の反対側を考えると言うことだという。人間は確証バイアスを持っているので本来はこれが苦手なのだが、意識して懐疑の精神を持つのだという。例えば「合格者の80%がこの参考書を使っていた」と言われると「不合格の奴もこの参考書使ってたのでは」と言うのが反対側だという。そして実際に不合格者の80%もこの参考書を使っていたというデータが出れば、この参考書は合格には関係ないということになる。まあ今の時代には不可欠の精神ではある。自分にとって好都合な情報ほど飛びつかずに疑ってかかれというのは常識ではある。

 

 

嘘をついた時の身体の反応

 では我々が嘘をつく時の脳の状態はどうなっているかだが、側坐核という脳の褒賞系が関連していて、ここが働くほど嘘をつきやすくなるという傾向が見られているという。だから例えば「お釣りが多かった」というような金銭的な魅力がある場合などに正直に申告するか、そのままネコババするかという時に嘘をつきやすくなるとのことで、これはまあ理解できるところである。欲の強い奴ほど嘘をつくということである。なお番組出演者はお釣りが多かった時にはためらわずに返すという回答だったが、それは彼らがその程度の小銭には強い魅力を感じないという生活水準の問題も影響していると思う。実際に織田裕二氏も「もっと強い魅力だったら分からない」と答えているが、まあそれが人間ってのだろう。

 最後は嘘発見器ことポリグラフ。これは実は嘘を見抜いているのではなく、記憶があるかどうかを調べているのだという。ポリグラフは汗、心拍数、脈波、呼吸数などを観察しており、汗が増え、心拍数や呼吸、脈波などが落ちているというのは典型的な隠した時の反応だという。つまりは呼吸は意図的にコントロール出来るので、呼吸を整えることで脈や心拍数を制御しているが、汗だけは制御できていないのだという。これがそれが重要な記憶だと感じている時に出る反応だという。なおポリグラフは90%の精度があったという。つまりは人間は嘘を見抜けないが、生体反応には出ているということか。


 今回は嘘について。確かに優しさから来る嘘というのは日常的にあるものであるが、中には某権力者のように自身の保身のためにスラスラと嘘をつくという輩もいる。だから特に権力を相手にした時には懐疑心というのは常に必要であろう。

 論理展開的に「嘘は見抜けない」と言っていたのに、最終的に「生体反応には出ている」というのは興味深いところであった。それと「欲が深いほど嘘をつきやすくなる」という極めて当たり前の事を脳を調べて科学的に示していたのも面白いところ。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人間は社会性の発達と共に嘘をつくようになるという。子供の場合、4才頃にその能力が急速に発達するので、その頃から嘘をつくようになるという。
・ただしこの場合の嘘は相手の立場を慮っての優しい嘘などが多く、これらをホワイト・ライという。
・人間が嘘をつくようになるのは社会を保つためだという。人間は集団生活のために軋轢を避ける嘘をつく。だから基本的に人間は嘘を見抜くのが苦手である。
・しかし特に現代は悪質な意図を持つ嘘をつく者も多い。それらを見破るには常に懐疑の精神を持つ必要がある。方法としては相手の主張の反対側を考える。
・なお脳の褒賞系である側坐核の働きが強いほど嘘をつきやすい傾向が現れている。つまり嘘をつくことで得られるメリットが大きいほど嘘をつきやすいという謂わば当たり前の結果でもある。
・嘘発見器ことポリグラフは、被験者がその記憶を持っているかを見るもので、本人の無意識に出る生体反応を観察しており、的中率は90%はあるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・優しい嘘の話で始まりましたが、実際の世の中は悪意のある嘘に満ちています。最初は共同体を保つための嘘だったようですが、最近は己個人の利益のために共同体を危機に陥れようとする嘘まであります。こういう輩は側坐核が異常に発達しているんでしょうか。国会で何百回も嘘をついたあの人物の脳内は側坐核ばかりなんでは。

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