教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/14 サイエンスZERO「そうだ!電車に乗ろう"鉄道技術"最前線!」

鉄道の脱炭素への取り組み

 今回のテーマはNHK内にもオタが多い電車に関する情報。

 最初に登場するのは開発の最新の電車・ヒバリ。この電車はパンタグラフがなく、燃料電池で走行するのだという。水素タンクから水素を供給して発電するので、水しか出ないというのが売りの一つ。さらにバッテリとのハイブリッドとのことで、Hydrogen+Hybrid=HYBARIだとのこと。ハイブリッドカーのように起動時はバッテリーで補助し、速度に乗るとバッテリーに充電をするということのようだ。

HYBARI(出典:

https://www.andemagazine.jp/2022/11/17/sdgs-hybari.html

 1回の水素補給で140キロ走れるとのこと。140キロというと神戸から米原ぐらいの距離(東京からなら富士駅の手前ぐらい)なので、長距離列車としてはやや心許ないが、都市近郊などなら可能か(山手線一周が40キロとか)。2030年頃には営業運転したいとのこと。もっとも営業的メリットは、架線がいらないことだから、都市の電化区間ではなく活躍の場は地方の非電化ローカル路線だろう。キハ100系や110系の置き換えだろうか? もっともその場合は試作のヒバリと違って、運転台をワンマン運転対応型にする必要があるが。

 水素エネルギーの電車は海外でも採用されており、日本よりも法的規制が緩いところでは大型の水素タンクを積んで1000キロ走るものもあるとか。また中国では水素バスなどの導入も進んでいる。

 

 

鉄道の電力活用のための技術革新

 さらには電車を走る発電所として利用しようともされている。電車は加速時には電気を使うが速度に乗ると電気を切って惰性で走行する。そして減速時にはモーターで発電をする(いわゆる回生ブレーキってやつ)。この電気は架線を通して他の車輌に使用されるが、他の車輌が近くにいない時は無駄になるので、これを駅などで使用しようという考え。これで3割ぐらいが回収出来るとのことで、一般家庭100軒分ぐらいの電気が出るという。

 なおこのために重要な技術がパワー半導体。インバーターに使用されており、消費電力を減らす効果があるという。これはシリコンカーバイトという電気の損失の少ない材料が使用されている。製造時に、炭素中にイオンを打ち込んだ後での高温の加熱時に、表面が焼けたり不良品が出やすいという問題があったが、表面を炭素の膜で保護することで元素の抜けを防ぐことが出来、シリコンカーバイトを使用したパワー半導体の実用化に成功したのだとか。

パワー半導体(出典:富士電機HP)

 

 

 以上、電車のエネルギー絡みの話。最後は日本が優位にあるというパワー半導体の話が登場。この話、以前にドローンの時にも登場したなと思ったが、番組でもチラリと触れていた。なおその時のバックナンバー(23/11/5)をチェックしたら、その時に紹介していたのは窒化ガリウムだったのだが、今回はシリコンカーバイトが登場。どうも技術革新がつい最近あったのではという印象。

tv.ksagi.work

 脱炭素の関係で電車を活用するなら、もう少し路面電車についても触れるべきなんだが、そっちに行かずに水素燃料電池ばかりだったのはやや不満。やはり都市の未来型交通機関としては路面電車を除外しては考えられないと思うのだが。路面電車で移動出来るコンパクトシティーというのが、環境だけでなく住環境などを考えた場合でも、あるべき都市の姿というのが私が以前から考えている地域中核都市構想の肝の一つ。と言うわけで、私の考えでは実現のための最初の一歩は肥大化しすぎた東京の解体になるのだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・脱炭素社会を目指して水素燃料電池電車の開発が進んでおり、日本でも燃料電池とバッテリーを組み合わせたヒバリが開発中。2030年の導入を目指すという。
・また電車の回生ブレーキで産み出される電力を、電車だけでなく駅やその他の施設で使用しようという試みも考えられている。
・省エネのための電力制御に重要なのがパワー半導体。最近になってシリコンカーバイト半導体が実用化されたことで、多いな効率アップが期待されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・NHKって結構鉄オタが多いという印象だが、今回の内容はあまり鉄オタ臭くはなかったような(笑)。まあこの番組は科学番組ですから。
・鉄道設備を考えた時、架線が不要というのはメンテ費用などを考えても有利です。実際に架線の維持は大変で、ローカル線などでは採算が合わないとか。九州新幹線開通で在来線が切り離されて三セクの肥薩おれんじ鉄道ができましたが、あそこなどでは架線の維持の費用をなくすために、電化路線であるにもかかわらずあえて気動車を走らせているぐらいなので。

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work