空飛ぶクルマ(有人ドローン)の開発最前線
今回のテーマは空飛ぶクルマ・・・未来の移動機関などとも言われるが、維新の万博のせいで何やら胡散臭い印象までついてしまった代物である。
まず前半は現在開発進行中の空飛ぶクルマ(というが、実際にはクルマと言える物はなく、すべて大型ドローンである)を紹介。構想自体は実はかなり以前からあったが(1962年にアメリカ陸軍がエアジープなるものの開発を進めて失敗している)、当時は駆動機関がエンジンであったために細かい出力制御に難点があり、頓挫したという経緯があるという。それがモーター動力にして電力をコンピューターで細かく制御するようになったことで実用化になったらしい。
中国で開発されているのが、定員2名のEH216。現在日本でも試験飛行を繰り返しているという。8個のローターで飛行するまさに大型ドローン。巡航速度は130キロまで出るというが、飛行時間はたったの21分であり、本格的な交通機関としてはやや物足りない感がある。操縦は遠隔操縦と自立飛行の組み合わせだという。沖縄の離島を結んで物資輸送手段として期待されているという。積載重量は250キロとのこと。導入した企業によると将来は空飛ぶタクシーを目指しているというが・・・どうだろう?
日本が開発中のドローン
東大発ベンチャーが開発したのはTetra Mk-5。機体の前後から横に伸びた2枚の羽に32個のプロペラがついているのが特徴の1人乗り機、水平飛行の際は翼を使うことで電力消費を抑えて移動距離を稼ぐことを狙っているという。アメリカで個人を相手の販売を狙っているという(どう見ても現状では富豪の道楽玩具だが)。
現在開発に携わっているのは全国で200社あるが、目下のところまだ実用品までは行っておらず、先行受注を受けている状況らしい。現状では価格はウン千万円~ウン億円というところなので、富豪のオモチャ(富裕層と言っても単にタワマンに住んでますレベルではなく富豪レベルでないと無理)か新たな事業を目指している者向けである。
ドローン開発で注目される日本の技術
必要技術としてはバッテリー、モーター、制御系などだが、ここで日本の技術が注目されているという。特に重要なバッテリーで注目されているのは、関西大学で開発されたリチウム硫黄(イオンではない)電池なるものがあるという。軽量で高出力が特徴であり、従来のリチウムイオン電池の10倍の能力が理論的にあるらしい。ただ硫黄は導電性がないのでこれをそのまま電極に使用するのは不可能なのと、電気が流れると電解液中に溶け出すことがもんだったという。そこでカーボンを電極に用いて、その表面に2ナノメートルの穴を開けてそこに硫黄を入れることで溶出を防止する方法を開発したという。実用化の開発をやっている企業(ハッキリとYuasaと出ていたが)によると、従来のリチウムイオン電池の2~3倍のエネルギーを持っているという。さらに硫黄は資源として安価(火山国の日本では硫黄は昔からほぼ無尽蔵に近い)であることが優位な点であるという。目下の問題点は寿命だそうな。
さらに注目される技術は出力を細かく制御するインバーターだという。姿勢制御のために瞬時にモーターをコントロールする電流を変化させる役割を果たす。高出力の電流を制御するために重要なのはパワー半導体だという。この分野は窒化ガリウムなど、元々日本が優位なジャンルであるので、今後の開発が注目されているという。
またこれらが普及した時に問題になるのは管制技術。現在の飛行機とは桁違いの数が飛行することになるから、人による管制はほぼ不可能。そこで開発中なのがD-NETというシステムがあるという。元々は災害時の報道ヘリなどを管制するためのE-NETから発しており、飛行計画などに基づいて接触危険の警告などを行うシステムだそうな。番組では万博の2025年に本格運航を「目指している」と宣伝しているが、これはほぼ頓挫が確定である。なお空中的に仮想的な空の道を作るという考えがあるが、私もこれが一番現実的だと思う。マニュアルで好き勝手に飛ぶバカがいたら、どんな管制機構があっても無意味。結局はマニュアル飛行は、特殊な免許を持つ者以外にはメカニック的に禁止するしかないのではと思う。
この時期に空飛ぶクルマというテーマだと、露骨な万博提灯企画と見られかねないが、それをギリギリ科学番組の範疇に収めたかなという印象。一応はチラッと万博の宣伝的なものを加えて、維新が後から因縁をつけてこないように配慮しているのが覗えたが。
ところで空飛ぶクルマだが、技術的な問題はいずれ解決されると思うが、やはり誰でもが自由に自転車のように操縦する(吉村はそうなると馬鹿げたことを言っていたが)のはどう考えても無茶である。そんなことになれば空中衝突が多発して、交通事故死者数が2桁は増える未来が見えている。やはり空の道のようなものを作る必要があるが、重要なのはそれをルールとして作るのでなく、機械的にそこしか飛べないように規制してしまうことである。たとえルールとして作っても、今でも珍走団のような馬鹿はいるわけだから、空の珍走団がバカな飛び方をして大事故を起こすのは見えている。だから機械の装置的にそういう飛行は出来ないようにする必要があると言うこと。そして自由に飛ぶためにはそれようの免許を取得した特定の操縦者が、それようの専用のドローンを使って運用するという形にするしかない。と考えると、やはり最終形態は機体に操縦システムをつけずにすべて自律飛行というパターンか。
なおバッテリーとしてリチウム硫黄バッテリーの紹介があったが、あれが実用化されたら、実際にはドローンよりも電気自動車のニーズの方が高いだろう。なお資源的には確かに硫黄は圧倒的に有利であるが、問題はリチウムの方。実はこっちもかなり切迫している。
忙しい方のための今回の要点
・世界中でさまざまな有人ドローンの開発が進んでいる。
・実用化のためには鍵を握る技術としてバッテリの技術がある。現在、リチウム硫黄電池が高出力で軽量な電池として注目されているが、目下は寿命の問題がある。
・また電流制御のためのインバーターで用いるパワー半導体は日本の得意分野ではある。
・さらにドローンが増えた場合には管制の問題が生じるが、それにはコンピューターを導入したシステムの開発が進められている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・まあどう考えても日本では、クルマの代わりに空飛ぶクルマなんて時代はこないと思う。いくら垂直離着陸が出来ると言っても駐車場よりも広いスペースが必要だし、将来的にこれが安価になる頃には、電気自動車の方がはるかに安価になっていると思う(ほとんどの技術は電気自動車と共通である)。
・それにどう考えても台数が増えすぎると事故の問題は避けられない。今の東京のような超過密な都市でこれが無秩序に上空を飛び交ったら・・・って考えただけでゾッとする。私の唱えている日本中核都市構想が実現して、人口がもっと各地に分散したら話は少しは変わるが。
前回のサイエンスZERO