教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

10/22 サイエンスZERO「人類の未来を変える"ミラクル生物"線虫 驚異の能力と可能性」

線虫の驚異の能力

 今回の主人公は微小生物の線虫。しかしこれが人類の未来に大きな影響を与えるかもというのである。

 線虫とは地球のあらゆるところに住んでいる体長1ミリほどの生物である。世界に50万種ほどいて、体長は0.1ミリ~数メートルのものまでいるという(気持ち悪!)。なお環形動物であるミミズとは種が異なり、線形動物に属して大腸菌などを餌にしているという。なお鯖の寄生虫で有名なアニサキスも線虫だという。そして地球上の線虫の総重量は数百億トン(人類は約3.5億トン)で動物最大なのだとか。

 線虫がそこまで大繁栄した理由の一つが解明されたが、マルハナバチに飛び乗って移動していることが発見されたという。マルハナバチの静電気を利用してジャンプして生息域を拡大しているのだという。さらには数十匹の塊で飛び乗ることもあるという。さらにシベリアの永久凍土中から発見された4万5千万年前の線虫が動き出したという報告もあり、強靱な生命力を有しているという。トレハロースを使用して細胞内やDNAなどを凍結での破壊から保護していたのだという。凍結にも乾燥にも非常に強い生命であるという。

 

 

人間の医療研究に利用出来る線虫

 さらに線虫は神経細胞のネットワークで脳のような働きを持ち、知性があることも分かっているという。線虫に対してある特定の温度で餌を与えるということを繰り返していると、線虫がその温度が「好き」になり(連合学習)、次にその温度の場所に移動するようになるのだという。この時の線虫を観察すると、食事を与えていた温度に近づくとAFDという神経細胞が反応するのだという。さらにこのAFDの記憶を元に、AIYという神経細胞が運動神経を制御して好きな温度の方に向かうように働くのだという。つまりは線虫が知性を持つということである。なお線虫の遺伝子の70%は人間と共通であり、線虫のことを理解することは、人間の理解につながるという。

 なおAFDを切断すると、新たなところから神経が生えてバイパスが出来ることが確認されており、再生しないとされていた中枢神経が再生させられる可能性が示唆されているという。

 さらに線虫を使って筋力低下を防ぐ方法の研究もなされている。宇宙の無重力状態下では線虫も筋力が衰えて動きが鈍るのだという。これにはドーパミンが関与しているのだとか。無重量状態ではドーパミンが減少して、これが筋力低下を促すことが分かったという。そこでそれを抑制するには、線虫のいる中にビーズを入れてみると衝突した刺激でドーパミンが分泌されていることが分かったという。今後、この結果を人に適用することも考えられている。

 また線虫を使った寿命延長の研究もなされている。線虫のdaf-16という遺伝子が飢餓状態などのストレス下にさらされると活性化して、2割ほど寿命が伸びることが分かったという。なお人にも同様の働きをするFoxOという遺伝子があることが分かっており、ここに変異が入ることが長命化に影響するのではないかと見られているという。

 

 

 今ひとつ存在感が強いと言えない線虫という生物が、人間に対する医薬研究に有効であるということを示したのが今回。確かに線虫の方が人間のように複雑でないだけに理解しやすいだろう。また実験動物の使用が倫理上の問題が指摘されている今日、いよいよもって線虫を利用しての研究とかが有効になりそうである。さすがの自然保護団体も、線虫に対する実験に対して倫理上の問題とは言わんだろう(それを言い出すようなら、病原菌を薬剤で根絶することまで倫理上の問題を指摘する羽目になる)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・線虫は地球上のあらゆる場所に生息しており、その総重量は数百億トンと動物最大である。
・それだけ生息域を広げた理由は、マルハナバチなどに静電気を利用して飛び乗って拡散することが可能だからだという。
・また4億5千万年前の永久凍土の中から再生したという記録もあり、凍結や乾燥でも破壊されない強靱さを持っているという。
・さらに実はその遺伝子の70%は人類と共通であることから、各種の医療用の研究がなされている。
・線虫の神経を観察することで、中枢神経の再生の可能性が示唆されたり、また筋力低下の防止のための研究などもなされている。
・さらには線虫のdaf-10遺伝子が活性化すると寿命が延びることから、人類にある同様のFoxOという遺伝子が長命化の鍵を握っていそうなことも分かってきた。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあぶっちゃけ、見ていてあまり気持ちの良い生物ではありませんが、これが人類の将来の医療の鍵を握っているかもとは・・・まあ今回は驚いたな。

・線虫の医療応用と言えば、がん細胞からの分泌物の臭いを線虫に感知させてガンの診断をするという技術が実用化されたはずだが、この話は出なかったな。

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