教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/24 BSプレミアム ヒューマニエンス「"親と子""ギリギリ"の子育て戦略」

親性脳は性別も血縁も関係ない

 またも漠然としたテーマが来たものです。今回のテーマは親と子。親子の関係は動物によって様々。ほとんど生み捨てに近い場合から、かなり密に世話をする場合まで。そのような親子の関係について考える。

 育児の負担が母親に偏りがちなことは今日では問題視されているが、それはある点では哺乳類の宿命だという。そもそも母親が子供を胎内で育てて、母乳を与えて育てるのは母親には負担であるが、それは子供の生存確率を高めるための戦略だったという。しかしそのために母親が常に子供に付き添って育児を行うことになってしまったという。しかし最近の研究では、実は育児に関わる「親性脳」は母親に限ったものでなく、父親どころか血のつながりのないものにも存在するという。

 親性脳に関わる脳の部位として、直感的な情動的処理(赤ん坊の泣き声が聞こえたらすぐにあやそうとするとか)を司るのは脳の内側の前部帯状皮質や扁桃体で、客観的で論理的なメンタライジング(子供がコケた時などに、すぐに起こさずに少し様子を見ようと考えるとか)は前頭前野や上側頭溝などの大脳皮質がある。これが連携してよりよい選択をしようとするのだという。なお研究の結果、父親でも母親でも同性カップルでもいずれもこれらの部位が連動して働いており、これが親性脳ネットワークが働いていたという。そしてこの親性脳ネットワークの働きに影響するのは育児時間だという。育児時間が長いほど親性脳が働き、これには血縁は関係ないのだという。だから親経験が全くない男子学生でも育児体験をすると、体験後には脳の反応が強化されたという。

男性でも育児経験で親性脳が進化する

 

 

社会で子育てを行うシステム

 しかし子育てを母親が担当することは重い負担となる。樹上生活をする小型哺乳類のマーモセットは大抵双子を生むが、子供は自分で移動出来ないために母親が双子を背負うとろくに動くことも巣に入ることも出来なくなる。そこでマーモセットでは父親や兄弟や他のメスなどが子供を母親に代わって背負って、その間に母親が餌を取りに行ったり一休みをしたりするという。これを共同養育といい、生息環境によっては群れで子育てをする動物もいるのだという。

 なお子育てに関わる脳の部位を調べたところ、マウスの脳の視床下部にあるcMPOAという部位が子育てに関わることが分かったという。子育て忠のマウスのcMPOA細胞を取り除いたところ、他の行動はほとんど変わらなかったのに子育て行動だけを取らなくなったという。なおこのcMPOAは父親や子育てに関係ないメスでも働くのだという。ちなみに大人のオスは子供をいじめたりするが、子育て経験を持つと働くようになるのだとか。

 子育ては本能というのに現実には育児放棄も起こる。そのメカニズムにもやはり脳が関わっているという。脳のBSTという場所は不安などのネガティブな感情を扱う部位であり、これがcMPOAとトレードオフの関係があるようであるという。つまり親自身がその生存が脅かされるような環境にいる場合、現在の育児を放棄して次の繁殖の機会にかけるというギリギリの選択をするようなメカニズムが存在するのだという。もし人間も同じメカニズムがあるなら、親が危機的状況に陥らないようにするのが重要だということになる。

親が精神的に追い込まれると育児放棄につながる

 

 

子供の成長に影響する親子の関係

 また親子の関係が子供の成長に影響する場合があるという。最近は友達親子といわれる親とべったりの子供が増えているが、思春期には異なる価値観に触れることが大切なのだという。親子の価値観の一致度が高い子供ほど、挑戦意欲が低いという調査結果が出たという。親子が近すぎると子供が自立しにくくなるということであろう。

親子がべったりすぎると子供の挑戦心が減少する

 また子供の行動が極端になることが成長を止めてしまうことがあるという。例えば野球部の男子生徒が成長期に負荷をかけた筋力トレーニングをやりすぎたせいで、身長の伸びがが止まってしまった例があるという。またかつては順調に伸びていた足の長さが、近年では徐々に縮みつつあるという。これは睡眠不足による成長ホルモンの不足が原因なのだという。足が伸びる年代があり(中三~高校らしい)、この時期に寝不足になると足が伸びなくなるのだという。

思春期の夜更かしは短足の元

 

 

 親性という言い方は比較的最近にされるようになったのだが、オスにも親性があるというのがまあそうだろうなと思いつつも面白いが、一番興味深いのは子供との血縁関係は関係ないということ。養子でも育児に関しては実子と変わらないということである。また母親を孤立させるというのが育児放棄の原因になるというのは納得出来るところ。実際に子供を虐待死させたような母親も、孤立したギリギリの育児を強いられるうちに、ある時点から子供が全く可愛くなくなり鬱陶しくなったというようなことを証言している。要は親をそのような状態に追い込まない社会的フォローが重要ということだろう。

 なお睡眠不足が足の長さに影響するという話は非常に身に染みて理解出来る。そうか私は子供の頃から慢性の睡眠不足だったせいで、足が短いのかと今更ながら納得した。今も睡眠不足のせいで認知症が早く来そうである。

 また子供の頃に異なる価値観に触れる必要性というのは、要は社会を知って自己を確立しないと自立出来ないということだろう。思春期にネット世界に籠もって、ネトウヨ思想とかに染まってしまったら、そのまま自立出来ずにヒッキーになるってパターンがもろにそれのように思えた。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・哺乳類では授乳などの関係から育児は母親が担当する例が多いが、実は育児に関する親性脳はオスでも育児経験のないメスなどでも存在している。
・親性脳の発達は育児時間と比例しており、育児経験のない男子学生でも育児体験をすることで親性脳の機能が向上することが確認された。
・また育児を司る親性脳が働くには、血縁は関係ないことも確認された。
・マウスの脳内には育児を司るcMPOAという部位があり、その細胞を除去すると育児を放棄することが確認された。また不安などを司るBSTとトレードオフの関係にあり、不安の増大などでBSTが強化されると、cMPOAが抑制されて育児放棄につながることも分かった。
・これは親自身が生存が危うくなるような状況に追い込まれた時、今回の育児を放棄して次回の繁殖の機会にかけるという選択を促すメカニズムだと考えられる。
・親との価値観などの合致度が高く、思春期に異なる価値観との接触などがない子供は、挑戦心が低くなる傾向があることが分かったという。
・また思春期に寝不足になることで、近年は足が短くなってくるという傾向が現れているという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・番組中で何度か出ていたが、「所詮は親と子供は他人」ということが重要です。そこのところを弁えずに、何でも自分の思い通りにしようとする親が子供にとっての毒親そのものです。キチンと躾と監視はしつつ、干渉はしすぎずに自立を促すというのが、あるべき親の姿のようです。

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