教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/7 BSプレミアム ヒューマニエンス「"体温"熱して冷ます生存戦略」

実はほぼ一定な体温

 我々は37度以下と言われる体温を保っている。しかしそもそもなぜ人間は体温を保つ必要があるのか。

体温は人により様々だが

 よく我々は、自分の平熱は36度だとか、低体温なので35度台だとか言うが、ここでの体温は被殻温と呼ばれる皮膚表面の温度であり、だから人によってばらつきがあるのだという。しかし鼓膜の温度を測った深部体温は、37度前後で個人差は大きくはないのだという。さらに少し運動をしたりしても、この深部体温はほとんど変化しないという。つまりは37度になるように調節されているのである。深部体温が大幅に下がるのは命の尽きるときであり、だから死亡時間の特定に使用出来る。この深部体温は脳の温度で規定されているという。37度は脳細胞が一番活動しやすい温度なのだという。そのために身体全体が37度にチューニングされているのだという。

実は鼓膜で測った深部体温はほぼ37度で一定

 

 

身体が体温を保つ理由

 動物の中には常に体温を保っている恒温動物と、体温を保たない変温動物が存在する。その違いは細胞内のミトコンドリアの量だという。恒温動物は多くのミトコンドリアを持つので自ら熱を発することが出来るが、これが少ない変温動物では自ら熱を発することが出来ないのだという。だからトカゲなどで日光浴で体温を38度ぐらいに上げてから、森の中で餌を探す。しかしその内に深部体温が下がって32度ぐらいになると活動が低下するので、再び日光浴で体温を上げる必要がある。恒温動物のメリットは、長時間活動出来るのと、周辺環境に左右されずに広く生息することが出来ることだという。

 オカダトカゲという伊豆諸島に生息するトカゲの深部体温について調査した研究によると、島によってトカゲの活動時の深部体温が大きく異なることが分かったという。伊豆大島では36度に対し、三宅島では32度と4度も違いがあった。それに影響しているのが伊豆大島には蛇などの天敵がいることだという。体温の高いトカゲの方が走るのが速く、その差は3倍もあったという。また体温を高めることで脳の機能も高まり、生存競争に勝つのに有利になるのだという。

 体温を保つことにはメリットしかないようにも感じられるが、実は害もあるのだという身体の大きさと寿命が関係しているという説があり、実際にマウスは寿命は2年ほどしかない。しかし我々の祖先であるモルガヌコドンはマウスと同じような大きさにもかかわらず、寿命が14年とマウスよりも遥かに長いことが分かったという。その理由はモルガヌコドンがは虫類のような変温動物だったからだという。実際に変温動物の方が寿命は長く、ゾウガメは同程度の体重の恒温動物なら寿命20年程度だが、190才の長寿の亀が生息している。体温を産み出すためには高い代謝が必要であり、そのことによって酸化ストレスにさらされることになって寿命が短くなるのではと言う。

 

 

実は37度では困ることもある

 深部体温は37度で保たれているが、実はそれだと困る器官もある。それが脳だという(最初の話と矛盾するようだが)脳は活動するときは37度でよいが、定期的に休ませて記憶の整理やら老廃物の処理をする必要があるので睡眠するのだが、それが37度だとうまく行かないのだという。睡眠時には1度ほど温度を下げる必要があり、手足の末梢血管を開いて体温を1度程度低下させるのだという。それによって脳の代謝が落ちて情報整理や老廃物の処理が出来るようになるのだという。

 さらに37度だと困るのが精巣。だから精巣は陰嚢に包まれて体外に出ているのだという。陰嚢は熱を発散するように出来ており、これは冷却のためだという。精巣の温度は34度ぐらいになっており、これが温度が上がると精子が作れなくなるのだという(インフルで高熱になると種なしになるって言われるのはこれか)

 さらに動物の中には冬眠するものがいるが、これはエネルギーを節約するためだと考えられる。代謝を極限まで下げることでエネルギー消費を減らすのである。しかし冬眠を誘発するQニューロンは人間を含むあらゆる動物が有しており、その点では人間も冬眠出来る可能性があるのだという。実際に我々の50万年前の先祖は冬眠していたのではという研究報告がある。また六甲山で遭難した男性が冬眠状態で20日間を飲まず食わずで生き延びたという事件も最近にあった。

 

 

 以上、体温について。最後は体温から睡眠にいって話が冬眠にまで飛躍したが、冬眠が体温コントロールと密接に関わっているのは確かである。冬眠とはまた違うが、ひどい怪我をしたときに氷冷で深部体温を下げることで仮死状態のようにして、脳の損傷を防ぐという治療法もあったはずだ。やっぱり体温が高いというのは、身体にとって無理がかかる部分もあるということなんだろう。ただそれだけの犠牲を払いながらも、機動力や環境適応力が高くなるというメリットはそれを上回ったので、哺乳類は恒温動物へ進化したということのようだ。ちなみに最近の研究では、恐竜もトカゲの仲間よりも、実は鳥の仲間であって恒温動物だったという説がかなり有力になってきてます。恐竜があの図体で高い機動力を持っていたら、そりゃもう陸の王者で向かうところ敵なしだわ。

 ただ体温を保つためには酸化ストレスという障害だけでなく、その体温のために十二分なエネルギーが必要という制約があるので、体温上昇での食糧確保の効率化がデメリットを上回らないと進化は破綻していたはず。結局は実際にメリットが上回ったってことなんだろうな。人間が変温動物だったら「今日は雨が降っていて体温が上がらないので、会社休みます」なんてこともあっただろうな。のんびりと日向ぼっこしているイグアナとか見たら、羨ましく感じることがないでもないが。

 結局はここでも酸化ストレスは寿命を縮める。高い活動性は寿命を縮めるってことで、やっぱりアスリートが若くしてポックリ逝く例が多いのはこれだろうな。実際に亡くなってなくても、野球選手とかを見ていたら年齢に対して老化が早いことは感じる。やっぱりスポーツは職業にしたら駄目で、趣味でやってるぐらいが一番良いんだろう。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトの深部体温は37度ぐらいで安定しており、運動などをしてもほとんど変化しない。この温度は脳細胞が活発に活動出来る温度に合わせていると考えられる。
・恒温動物が体温を保てるのは、細胞内にミトコンドリアを大量に保有するから。これが少ない変温動物は、自身で熱を生成出来ないため、太陽光などで身体を温める必要がある。
・体温を高く保った方が運動能力が上がるため、伊豆諸島のオカダトカゲは、天敵の蛇がいる大島と、いない三宅島で平均体温が4度も差があった。
・しかし体温を高く保つことは、酸化ストレスにさらされるというデメリットもあり、実際に恒温動物よりも変温動物の方が寿命が長い傾向が見られる。
・さらに脳が記憶の整理や老廃物の代謝のために睡眠を取るには、体温が37度では不都合であり、末梢血管を拡張することで深部体温を36度まで下げて、脳の代謝を落とす必要があるという。
・また精巣も37度では温度が高すぎるので、陰嚢に包んで体外に出すことで冷却をして、温度を34度ぐらいに保っている。精巣の温度が38度になると、精子が作られなくなるという。
・動物の中には冬眠するものもいるが、冬眠をコントロールするQニューロンはヒトを初めてしてすべての動物に存在するため、ヒトも実は冬眠が出来る可能性がある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・被殻温はヒトによって異なるが、深部体温はほぼ同じと言うことは、ヒトによって身体の断熱性能が違うということだろうな。私は年齢が上がるにつれて平熱が低下してきたが、これは代謝が落ちたということよりも、自前の断熱材のボリュームが増したせいか?

次回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work

前回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work