教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/21 BSプレミアム ヒューマニエンス「"死の迎え方"ヒトの穏やかな死とは」

人の死とは

 今回の内容は本来11/21に放送されたのですが、実は放送途中にあの役にも立たないJアラートで放送がぶち切られたので、実際は再放送の内容を見て記しています。何か国内の問題から目を逸らそうと大騒ぎしたが、実際は打ち上げたの人工衛星でしかも事前通達ありだというから、どう考えても意図的な空騒ぎであり、こっちはいい迷惑である。

 日本人の死因は1.ガン、2.心疾患、3.老衰とのことであるが、この老衰は1割程度なんだが、実際には他に死亡の原因のない高齢者の死亡とのことで、何とも曖昧なところのある死因である。なお最近は寿命が延びていると言われているが、1963年では100歳以上の高齢者は153人しかいなかったのが、2022年には9万人以上もいるという。

誰もが最後に絶対避けられないのが死

 ヒトはどのように死を迎えるかであるが、最近はそれをいかにソフトランディングさせるかということが考えられているという。無理矢理な延命ではなく、自然にケアを引き算していくのだという。通常は身体が弱っていくと水分や栄養分などが点滴などで補給される。しかしそれらをむしろ減らしていくのだという。死亡の数ヶ月前から食事や水分の摂取量が急激に減少するということがあるが、実はその数年前からBMIは徐々に減少しており、これは身体が最早栄養を使用出来なくなっているということだという。BMIは一般的に12を下回ると生命維持が困難とされるが、死亡の数ヶ月前からこれを下回るようになるという。そのような状態では水分の摂取でさえ腎臓の機能の低下によって体内に水が溜まり、腹水やむくみなどの原因となり、さらには肺水腫を起こすなど高齢者の身体にとって負担となるという。さらに胃ろうなどによる栄養補給を行ってもBMIが回復しないという。このような情報に基づいてケアを決めることがそのヒトのソフトランディングにつながるという。

 

 

老化のメカニズムと死の瞬間

 我々の身体はなぜ老化するかだが、それは幹細胞の老化であるという。幹細胞は細胞分裂を行う新陳代謝の要だが、これが老化することで分裂が出来なくなり、新陳代謝が衰えてくることが老化につながるという。この老化の鍵を握っているのはリボゾームRNA遺伝子であり、この遺伝子は同じ配列が多く並んでいるので紫外線や活性酸素によって破壊されやすいのだという。これが破壊されるとリボソームが正常に合成されずにたんぱく質が合成出来なくなるのだという。実際に老化したマウスの遺伝子の変化を酵母菌に取り込んだところ、その寿命が短くなったという。人間の場合、幹細胞の老化で臓器の新陳代謝が低下する上に、老化細胞は炎症性サイトカインを分泌して周囲の細胞の老化を促すのだという。実際に年齢と共に臓器の重量が減少することも確認されているという。

 死の瞬間に何が起こっているかであるが、死の直前によく起こるのが下顎呼吸だという。これは下顎を動かしてパクパクと呼吸しようとするのだが、息が吸えなくて苦しそうである。しかし実はこの時、脳内麻薬であるエンドルフィンが分泌されており、穏やかに気持ちでいるのではないかという。

 

 

いかに死を迎えるか

 なお死を意識することが心を成長させるというのが、ガン患者と向き合ってきた医師の話である。これはPTG心的外傷後成長と言われ、自身の人生を見直すようなことが発生し、人生への感謝や家族との関わり合いの変化などを迎えるという。人生観の変化として、1.人生に対する感謝、2.新たな視点、3.他者との関係、4.人間としての強さ、5.精神性的変容などが起こるとのこと。

 最後にはガンの緩和ケア担当の医師が登場して、死ぬまで精一杯生きるということを紹介する。ガンで亡くなる直前までゴルフを楽しんだり、家族に見送られて最後を迎えたりなど様々な人がいるという。彼らは最後には積極的な治療を辞め、死を迎えることにしたという。末期ガンの患者が苦しむものの一番は痛みであるが、それを緩和するのがオピオイドという麻薬の一種だという。このオピオイドは脳に働いて痛み信号の伝達を抑制するのだという。患者の状態に合わせてこれの処方を調整するのが緩和ケアの働きであるという。患者が満足して死んでいくのが成功だという。


 自分の死を孫に見せるのが爺ちゃん婆ちゃんの仕事という言葉もあったが、やはり人は「死とは何であるか」と考えることは重要ということでもある。私も若い頃は自分の死については考えることがなかったが、やはり年を取ってきて、目の当たりに衰えというものを感じずにはいられなくなると、どうしても死というものを意識せざるを得なくなってくる。もっとも私の場合は責任を持たないといけない妻子がいないせいか、生に対する執着もいささか薄いところがある。そもそも今の人生自体が、何の罰ゲームだと言いたくなるぐらいのろくでもないものだったので、精一杯生ききったというよりも、生きるのに疲れたという感覚の方が強い。だから私は死とは、その世界と別れることと言うよりも、次のもっとまともな世の中に生まれ変わるためのものと捉えている(笑)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトの死をソフトランディングさせるという考え方が出てきている。死を迎えたヒトは栄養や水分などを補給してもそれを受け付けず、逆に本人に苦痛を与えてしまうことがあるという。死の数年前から栄養や水分を与えても身体に利用されずにBMIが徐々に減少するという傾向が見られており、終末医療の考え方が変わりつつある。
・ヒトの老化の原因は幹細胞のリボゾームRNA遺伝子が傷つくことで正常なたんぱく質合成が出来なくなることによるとされている。
・またヒトの最後には下顎呼吸が発生する事が多く、これは空気を十分に吸えていない状態であるが、そのことによって脳内麻薬のエンドルフィンなどが大量に分泌されて、苦痛を緩和していると考えられている。
・またヒトが死を意識することによって精神的に成長するPTG心的外傷後成長というものも見られている。
・ガン患者の緩和ケアに携わる医師によると、医療用麻薬などを使用して苦痛を和らげることによって、最後まで満足して生きるということを重視しているという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・誰もがいずれは避けて通れないのが死ですから、まあ苦痛なく満足して死にたいというのは誰もが望むところでしょうか。もっとも満足して死ねるかはそれまでの人生が大きく影響しており、私などはろくでもない人生だったのでその点での満足はまず無理でしょうから、せめて苦痛なく死にたいところです。

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