最新の植物研究について
今回のテーマは植物。植物が独自のネットワークで情報を伝えるとか、植物が動物を誘導するとかいう話であり、最近になって進んだ研究結果であるが、NHKでも以前に「超・進化論」で紹介された内容でもある。
植物が神経を持ってコミュニケーションもしていた
まずは植物とは脳も神経を有していないはずなのだが、動物とは異なるメカニズムで痛覚のようなものを伝えているという報告である。埼玉大学の豊田正嗣教授によると、葉が虫に囓られると数分以内に苦味物質であるポリフェノールを合成するのであるが、その情報がどうやって伝えられているのかが明らかになったのだという。植物の葉に流れる電気信号を観察したところ、葉を切ったときに電気信号が広がっていくことが観察されたのだという。植物の信号は栄養供給のための師管にカルシウムイオンによる電気信号が流れるのだという。これは動物の神経にも類似している。
また人が触れただけでも植物の成長が変化するという。成長過程の植物の葉に1日3回手で触れただけで、30日後には大きく成長に差が出るという実験結果が得られている。これは防御反応のためにエネルギーが使用されるからだという。
さらに他の植物ともコミュニケーションをとっているという。瓶の中にトマトの葉と虫を入れて、その瓶につないだチューブをシロイヌナズナを入れたシャーレにつなぐと、シロイヌナズナが反応を示した。トマトの葉が発した臭いをシロイヌナズナが感知して、昆虫の消化を妨げる苦味物質(ポリフェノール)を合成するのだという。植物では種を超えてのコミュニケーションが行われているということである。植物によっては害虫に対する天敵を呼び出すことで駆除するというものまでいるとか。
植物の強かな生存戦略
また植物は動物をコントロールするという。花は昆虫を利用して花粉を運搬させて繁殖するための器官である。人間の目から見ると単純に見える花も、昆虫が見える紫外線で見てみると蜜のある花の中心部が目立つようになっているという。また根も微生物をコントロールするようになっている。トマトの根はトマチンという化学物質を分泌することで様々な微生物を退けているが、トマチンを分解するスフィンゴビウム属細菌を集める。根の周囲での濃度は20倍にもなり、これが根を保護するのに作用しているという。また我々霊長類の先祖は果実を食糧としたが、果実は哺乳類の進化と共に大きくなり、霊長類の進化と共に分布を広げたのだという。また霊長類の色覚である赤色は熟した果実を見わけるためのものでもあるという。
そして植物と人間の関係と言えば、日本人にとってはやはり稲である。稲は実っても種子が穂についたまま残るというのは本来は植物にとってはあり得ないことだという。というのは生育範囲を広げると言うことを考えると、実った種子は迅速に穂から分離して散らばらないといけないからである。稲がこのようになったのは人に栽培されてその姿が変わったのだという。最初の稲は実った種はすべて地面に落ちる脱粒性を持っていた。しかし野生稲の脱粒させる3つの遺伝子に突然変異が起こり種が落ちない種が誕生し、それが人を魅了して人の力を使って大繁殖したのだという。
もっとも人類も利用されるだけではない
しかし人類も利用されるだけでないという。身体に良いとされているポリフェノールだが、そもそもは植物の防御物質であり、人体にとっても細胞レベルでは危険物質であるという。これらを体内に点滴などで直接に体内に大量に取り込むと、たんぱく質などと結びついて機能障害を起こすとのこと。ではなぜ健康に良いかだが、これは腸がわずかしか取り込まないからだという。そしてそのわずかに取り込んだポリフェノールが抗がん作用などをもたらすのだという。実際にEGCCというポリフェノールはガン細胞の表面に結合してアポトーシスを起こさせることが明らかになった。人体は毒成分を有効に健康に利用するしたたかな構造になっているのだという。
なおポリフェノールそれだけでガンを防ぐというのは量的に無理な話なのだが、複数の物質を組み合わせることで効果が数倍になるとかの効果はあったりするとのこと。ちなみにカテキンの抗がん作用をさらに強める研究なんかも現在行われているとか。
以上、基本は上に上げたNHKスペシャルの内容を踏襲です。ちなみにこのNHKスペシャルに関しては、私は植物に対してそういう視点は持ってなかったので、結構目からウロコでした。もっとも番組自身は無駄な寸劇とかが加わって下品な作りなのが気になりましたが(それとこの番組には出演出来なかった香川照之の影がちらついて「なんだかな」って感じでしたが)。
つまりは植物も完全に受け身ではなくて、実は強かに動物に働きかけてますよということと、自然界は(人体も含めて)ネットワークで構成されていて、何か一つだけが優位性を主張するようなことがあったらバランスが崩れることになって危険ですという近年の考え方が反映しているわけです。今回にも話がチラッと出ましたが、微生物の世界で何かの微生物だけが大繁殖して他を駆逐してしまったら、何かの時に大絶滅に繋がりかねないから、互いに自身の領分は主張しつつも妥当なところで折り合いをつけているということのようです。
そうして見ていくと、ひたすらに我欲が異常に強くて、他を絶滅させてでも自身の利益の最大化を目指すという人類というのは自然界から見たら異端の破壊因子ということになり、いずれは生態系存続のために排除される可能性も・・・なんてSF的な考えがちらついたりすることになるわけです。
忙しい方のための今回の要点
・植物は葉を囓られたりすると、師管の中をカルシウムイオンの働きで電気信号が流れ、その伝達によってポリフェノールなどの虫に対抗する物質を合成することが分かった。
・さらには臭いを発することで、周囲の別種類の植物にまで警告を発することも確認された。
・また植物は受粉に昆虫を利用するために、花は昆虫が見える紫外線で見た時に蜜の位置が分かりやすくなるように模様が入っている。さらに根に特定の微生物が増殖するようにするなど、動物などに対して働きかけを行っている。
・また日本人とは切っても切れない関係にある稲は、元々は実った種子が地面に落ちる脱粒性があったのだが、突然変異で脱粒しなくなったことで人に栽培されるようになり、その結果として人に栽培されて生息域を広げることに繋がった。
・人にとって健康に有効とされているポリフェノールは、本来は細胞レベルでは有毒成分である。人はそれを微量腸から吸収することで、ガン細胞の制圧などに利用している。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・ここからさらに一歩進んで、実は「すべての生態系の黒幕は植物」というようなSFもあったりします。あさりよしとおの「宇宙家族カールビンソン」にも、外惑星から飛来した侵略的生物は、実は植物が知的生命で自分達の拡大のために昆虫を駆使していたって話がありましたね。
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