教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

12/26 BSプレミアム ヒューマニエンス「"土"生命の星の小宇宙」

地球にしかない土

 今回のテーマは前回の植物の時にチラッと宣伝が入った土について。言うまでもなく、あらゆる生命体はこの土が存在するから生きてゆけるのである。実際に太陽系の中でも土があるのは地球だけである。

土がなければ木も生えない

 そもそも土とは何なんだが、土について研究している森林総合研究所の藤井一至氏によると、世界には大きく分けて12種類の土があるという。この中でチェルノーゼムと言われる土が「土の皇帝」と呼ばれるもっとも肥沃な土であり、北米や東ヨーロッパに分布して小麦を栽培される大穀倉地帯をなしている。一方日本に多いのは黒ボク土と呼ばれる火山灰に枯れ葉などが混ざった黒い土であり、酸性のために元々は農業に適していなかったが、長年をかけて堆肥などで土壌改良し、いろいろな作物を栽培出来るようにしてきた。また南米などのオキシソルという養分の少ない赤土は農業には向かないが、アルミや鉄などが多いことからスマートファンのボディなどに利用されているという。人は土に合わせた生活スタイルを確立してきたのだという。酒造会社によると同じ酒米を使っても土が違ったら風味が変わるのだという。特に下層部分の土の質の違いが味に反映するのだという。

 

 

土の中身

 土を作る因子としては、母材(何岩が元になっているか)気候、生物、地形、時間などがあり、これらが違うと全然別の土になるという。さらに土が出来るのに何年かかるかは土地によって異なるのだという。日本の場合は黒ボク土が3割ほどで、これは火山に由来するのだという。酸性のために植物に有害なアルミニウムが溶け出すので、農業に向かないのだという。チェルノーゼムは密度の高い重い土であり、オキソシルは硬い土である。

 土は岩が砕けた砂に栄養分が加わらないと出来ないので、火星には土は存在しない。また地球で土が産まれたのも5億年前だという。地衣類(藻類と菌類が共生している)が地上に進出して、陸地に栄養分の有機物をもたらしたのだという。さらに土の中には1000万種を超える大量の微生物が存在しており、これらも土の成分である。これが生物の死骸などを分解することになる。また土壌の微生物が変化することで土壌中の成分が変わり、それによって作物の育ち方などが変わってくるという。

最初に地上に進出して土を作ったのは地衣類

 土壌中の微生物については分かっているのが1000万種ということで、実際は1兆種類ぐらいいるのではという研究者もいるという。その中で培養可能なのは1%ほどであり、それらは医療メーカーなどによって利用されているという。これらの微生物は互いに生存を競っているが、適当なところでバランスを取ることによって一人勝ちは避けるのだという。

 

 

団粒が果たす重要な役割

 土の中には塊である団粒が存在するが、これの内部は実は半分ぐらいが隙間であるという。この隙間は微生物にとって様々な環境を与える機能を果たしているという。またマイナス電気を帯びていることから、雨で流れ出したカリウムなどのプラスイオンを留める効果もあるのだという。またこの中にミクロ団粒がさらに含まれており、何段階もの団粒が存在することであらゆる微生物が生息環境を得ることが出来るのだという。また団粒は有機物の形で炭素を固定しているので、これは温室化効果の抑制にも効果があるのだという。

 さらに最近は耕さない農業というのも考えられている。土を耕すことは土壌の微生物にとっては生息環境が破壊されることになるからだという。実際に耕していない土の中には先ほどの団粒が多く見られる。そこで畑を耕さない不耕起栽培が世界中で模索されている。その中の1つ、カバークロップを用いる方法は、ライ麦を密集して育ててから道具で一方向に倒して土の表面を覆わせることで雑草を防ぎ、種や苗はライ麦をかき分けて植えるのだという。これで微生物が元気なので作物の生長が良く、農薬や除草剤も抑えられるので、経費も削減出来るという。従来の農法で育てたトマトと味を比較したところ差はないという。

従来の農業で不可欠だった耕し作業をしない

 

 

 要するに土については農業の基本でもあるのだが、科学的にはまだ未知の部分が多いと言うこと。実はかく言う私も比較的最近まで土は単なる鉱物の破片だと思っていて、そこに有機物が加わることで土になるという基本のところをキチンと理解してしませんでした。だから「火星の土」とか平気で言ってしまった気がする。正しくはあれは「火星の砂」なんですよね。有機分が植物の成長に必要という認識はあったのだが、それが土に対する認識と結びついていなかったようです。この辺りは所詮は座学の限界かな。

 耕さない農法というのは興味深いです。そう言えば最近はあえて雑草は除去せずにそのまま農業するってのもありましたが、今まで収量一辺倒でしたが最近は耕作のためにかける労力の方が問題となってきて、収量が少々落ちても労力減らせたらその方が総合的にはプラスってことになりつつあります。もっとも耕さない農法は手間減らしでなくて、むしろ手間がかかって仕方ないようですが。

 将来は月面や火星に移民なんて構想が出て来ますが、結局は一番ネックになるのは水の確保、そして継続的に居住するならこの土壌の生成でしょうね。月面や火星に畑が出来るのは果たしていつの話か。全部水耕栽培ってわけにもいかないだろうし、それだけだと長期的に見たときに欠乏する栄養とかが出てくる気がしてならないんです。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・生物の生存には土が不可欠であり、太陽系でこの土が存在するのは実は地球だけである。
・土は鉱物の破片に有機物が混じり合ったもので、そこに多数の微生物が生存することで生成している。
・地球に土が出来たのは5億年前、地衣類が地上に進出し、酸で鉱物を砕くと共にその死骸が有機分として土を生成した。
・土の中には団粒と呼ばれる粒があるが、それがその隙間に様々な微生物が成育出来る環境を確保としている。
・土壌中の微生物を生かすために、あえて土を耕さない不耕起栽培が模索されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・たかが土、されど土ってところでしょうかね。実際に農業を行っている方は、この土を作るのに何年もかけたりします。荒れ地の開墾なんかをしても、この土が出来るまでに時間がかかるのですぐに収穫が出来ません。その辺りを理解していない人が多いようで、食糧が不足したらそこらを耕したらすぐに芋が出来るように考えている政治家なんかも多いようです。

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