教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/9 BSプレミアム ヒューマニエンス「"左と右"生命を左右するミステリー」

右と左の謎

 今回のテーマは「ミギとダリ」・・・でなかった、身体の左右の問題です。そもそも身体には上下、前後など様々な方向があるが、上下軸は重力で定められて明らかに違いがあり、前後も目が前についているなど明確な違いがあるのに対し、左右はそんなに大きな違いがない。そこにどういう意味があるのかという話。

右でも左でも良いようなものだが・・・

 そもそも生物に左右が出来たのは、口と肛門が出来て消化管が出来て以降だという。最初の原始生命は単細胞のようなものなので、方向性は全くなかったのだが、消化管が出来ることで口のある方が前となったのだという。そして積極的に餌を取得しようと思うと口のある前に向かって動くようになり、そのためには背と腹がある方が都合が良い。そうなった時に結果として右と左が生まれたのだという。

 宇宙には左手型のアミノ酸と右手型のアミノ酸があるが、その分布は銀河系の中で偏っているのだという説がある。そして地球は左手型のアミノ酸で生物が出来ている。化学反応では両手のタイプが出来るはずなんだが、地球ではなぜか左手型のみなのである。

 

 

右利きと左利きの意味

 5億年前の三葉虫の化石を見ると右側が欠けている例が多く、これから左側に逃げることが多かったのではと言う。しかしどちらかに特化するのは生存に不利なんだという。鱗食魚という魚から鱗をはぎ取って食べる魚がいるが、この魚は口が歪んでいるので、最初から例えば左利きが決まっているのだという。しかしそうなると魚はその攻撃になれてしまい、捕食がしにくくなってしまうのだという。だが中には右利きの魚もいて、今度はこれが攻撃すると魚は逆側からの攻撃に慣れていないことから、まんまと捕食に成功するのだという。これがあることから鱗食魚の右利きと左利きの割合は50%前後に保たれている。左利きの個体と右利きの個体がつがいになりやすく、結果としてその子孫は両方が生まれてくることになるのだとか。

 さてヒトの場合であるが、ヒトは一般的に右利きが多いとされ、右利きと左利きの比率は概ね9:1だという。しかしこの比率がずっと保たれてきているというのが、生物として考えたときに謎なのだという。しかしこれが対戦型競技のアスリートの世界になると、右利きと左利きがほぼ拮抗する傾向があるのだという。弱肉強食の世界では右利きと左利きは半々になるのだという。なお左利きに繋がる遺伝子が存在するという研究報告があるという。

フェンシングの選手は約半数が左利きだとか

 

 

右利きが多数派になった理由

 ヒトが右利きが多い理由については、ヒトは道具を使うことから同じ道具を使うのに都合が良いので自然に右利きが増加したという説がある。また壁画の類いを調査した結果でも時代に関係なく右手に道具を持っている例が多いという。

 さらに言語は主に左脳が司っていることから、左脳が鍛えられてこれが制御する右手が発達したのではという説もある。しかしこれは左利きの人でも多数は言語中枢が左脳にあることから説明がつかないという。なお織田裕二氏は元々は右利きと左利きは拮抗しており、道具などへの対応のために右利きが多くなっているのではとの説を唱えていたが、これは私の考えと一致である。と言うのは私自身が本来左利きにも関わらず、習字やはさみなどが左手では出来ないことから無理矢理に矯正され、結果として現在両利きのような状態になっているからである(実は文字は右で書くが滅茶苦茶悪筆で、実は左でそれ以上に上手く書けないわけでもなく、さらに現在マウスは両手で使用している)。私が子供の頃などは「左利きは間違っている。マナー違反だ。」とまで言う右利き原理主義のような差別的な教師までいて、無理矢理にいろいろ矯正されたが、私は箸だけは頑としてそれに応じなかったことから、現在も箸は左手で持っている。

 

 

顔にも利き顔がある

 また顔にも左利きと右利きがあるという。多くの肖像画などが左側を前にして描かれているが、実際に顔の表情を比較した時に顔の左半分の方が表情が大きく現れるのだという。感情の表出は脳の右側が司るので、大抵の人は左側の方が表情筋が動きやすいのだという。なお織田裕二氏は左半分の表情は演技で作れるが、右半分はコントロール出来ないと言っているが、実は同様のことは私も感じている。なお面白いのは肖像画でも「偉い人が権威を見せつけるような肖像画(なんとかアカデミーの会員とか)」は右を前にして描いているという。

 左利きは10%と言ったが、この10%が未だに10%で生き残っているというのも実は謎なのだという。本来なら条件が対等なら、少数派の左利きは消滅するのが自然界の掟だという。つまりは少数派が生き残るには何らかの要因があるはずだという。琉球列島に生息するカタツムリは右巻なのであるが、これを捕食するセダカヘビはそれを狩るために特化した歯を保有しているという。しかし突然変異による左巻の別種のカタツムリが存在し、これを先ほどのセダカヘビが捕食しようとすると上手く行かずに逃げられる例が増加するのだという。そのためにセダカヘビが存在する環境では左巻変異が起こりやすくなっているという。

 

 

 ではヒトの場合は何が働いているかだが、それは今ひとつハッキリしない。だから私が言っている「道具で強制されている」という説である。番組でも織田裕二氏以外にも、ゲストの専門家の一人もその説に賛意を示してた。実際に私自身が左利きであるから、特に日本のような「多数派が正義」という空気の強い社会では「右利きであれ」という強いプレッシャーに常にさられていることを感じている。

 社会の様々なものが右利き用に作られており、左利きの者は無理矢理対応を強制されているというのが事実である。ゲストの松尾貴史氏が「自動改札の切符を入れにくい。お玉で味噌汁を入れるときに入れにくい。」との発言をしていたが、それはまさに左利きが虐げられている例。なお文字自身もあからさまに右利き用に作られており。ペンなどを持った時、右利きなら「線を引く」ことができるが、左利きだったら「線を押す」ような形になるので書きにくくて仕方ないようになっている。だから左利きだったレオナルド・ダビンチなどは左利き用の鏡像文字で文書を記していたという。

これが完全に右利き前提なんです

 

 

忙しい方のための今回の要点

・右と左が誕生したのは、生物に口と肛門が出来たことによって、前後が誕生し、捕食のために移動するには背と腹がある方が都合が良いことから、それに付随して左と右が誕生した。
・自然界ではどちらかに特化するというのは生存にとって決して有利ではないので、例えば鱗食魚の場合、右利きと左利きの比率は大体50%前後になるようになっているという。
・これに対してヒトは右利き:左利きの割合は大体9:1であり、右利きが優位である。
・この理由として、道具を共用するために右利きが増えたという説があ。
・さらには言語中枢が左脳にあって発達したことから右利きが増えたという説もあるが、これは左利きの人も多くが言語中枢が左脳にあることを説明出来ない。
・また実は顔にも利き顔があり、一般的に左側の方が表情筋が動きやすいという。
・ヒトの左利きが常に1割程度の比率で存続してきたことは謎だという。右巻のカタツムリを捕食することに特化した天敵の蛇の存在によって、左巻の別種のカタツムリが生存したという例があり、環境要因に原因があれば少数派が有利になることはあるが、ヒトの場合には当てはまらない。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・というわけなので、私は潜在的な左利きは実はかなり多いと見ている。今でも多くの親が子供が最初に箸を左手で持ったら「そっちじゃないでしょ」と矯正していると思うので、それが原因という考え。ちなみに私はひねくれ者だから、両手で箸を持ってみたところ、明らかに左手の方が使いやすかったからずっと左手である。

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