教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/23 BSプレミアム ヒューマニエンス「"記憶"未来を切り拓く源泉」

記憶とは脳内のネットワーク

 人は記憶があるからこそ、自分が自分であることを認識する。そういう記憶についての話である。

 まず記憶とは脳にあると言われているが、それがどのように作られているのか。それは今までは良く分かっていなかったが、最新の研究でそれが明らかになって来つつあるという。テキサス大学サウスウエスタン医学センターのアシスタントプロフェッサーの小川幸恵氏は利根川進氏らとの共同研究で記憶のメカニズム映像化に成功したという。マウスにある経験をさせた時の記憶がどうやって残るかを調べたのだという。マウスに嫌な刺激を与えた時、脳内に無数の輝点が現れており、これが神経細胞の活動を示しているという。視覚野には視界からの情報が、接触については感覚野が、臭いは嗅球が反応している。これら光った神経細胞全てが記憶の材料になるのだという。そしてこれらが海馬に送られて記憶として統合されるのだという。海馬でこれらの生情報がバラバラに持ち込まれるのだが、それらが線で結ばれてネットワークを形成しており、これが記憶なのだという。どのようなネットワークが出来るかはその人によるという。

脳の中で出来るネットワークが記憶

 一方、その記憶に「嫌だ」などの感情が伴うと海馬だけでなく、扁桃体が反応するという。扁桃体には情動に関する記憶が蓄積されるのだという。海馬には事実だけが、それに伴う感情は扁桃体という区分になっているのだという。なお脳細胞は1000億個なので、それだけだと記憶の上限にすぐ行き当たりそうだが、ネットワークが記憶なのでその1000億個の組み合わせとなることで実質的に無限大に等しいという。なお記憶は海馬から大脳皮質に移されるが、そこで記憶の選別もなされるとのこと。

 

 

記憶違いの発生メカニズム

 記憶にはすぐに忘れるものと、いつまでも忘れないものがある。その差はネットワークの線の太さが影響するという。太ければ鮮明に細ければ曖昧な記憶になるのだという。そしてその太さを決めているのはたんぱく質が働いているという。神経のシナプスを通じて何度も信号が送られると、受け手側のシナプスがたんぱく質の働きで大きくなるのだという。この大きくなった状態が鮮明な記憶だという。さらに積極的に記憶を消す仕組みも存在するという。ミクログリア細胞がシナプスを食べてしまうということが分かってきたという。余計な記憶はこうやって消去されるという。余計な記憶を排除して、重要な記憶を鮮明化するのだという。

 また記憶が改竄されるというか、記憶間違いというのは誰でも起こること。これは脳内のネットワークが別のネットワークにつながってしまうことによるという。これは問題があるようであって、実は優れたところであるという。記憶がアップデートされることで、全く同じシチュエーションではなく、状況が微妙に変化した状態に応用が利くようになるのだという。例えばある条件で猛獣に出くわすという危険に遭遇した時、次以降は全く同じ状況でなくても、いくつかの共通点などがあったときに「何となくヤバい」と感じるようになるのだという。というわけなので、記憶が書き換わるのは「仕方ない」と諦めるしかないとのこと。

 

 

 なんて言っているが、確かに記憶間違いが出るのは仕方ないとして、記憶改竄となると穏やかならんように感じる。例えば政治家などは記憶改竄のプロである。まあ確かに奴等の記憶改竄は生存戦力ではあるのだが。

 なお記憶というのは1度思い出したときに弱くなるのだという。思い出すことを繰り返すと記憶は強くなるのだが、思い出した瞬間は1度弱くなるのだという。そこでこの時に間違いが起こり間違った記憶が定着してしまうことになるという。昔の記憶が美化されるなんてのもそういうメカニズムだとか。

 さらには記憶を人工的に操作するというやばい話も出て来た。マウスを丸い部屋で過ごさせた後に、四角い部屋に移して軽いショックを与えて「嫌だった」という記憶を作る。すると海馬に四角い部屋の記憶があり、扁桃体に「嫌だった」という記憶があって結びついているのだが、これをオプトジェネティクスという技術で丸い部屋の記憶と「嫌だった」の記憶を結びつけたところ、マウスは丸い部屋で怯えたという。将来的には人でも可能となり得るので、PTSDの治療などにつかえるのではという話・・・だが、人の記憶を改竄するとなってきたら、その人物のアイデンティティの問題になってくるので、倫理上の問題は多いように思われる。

 

 

身体で覚えるには忘れることが重要

 よく「身体で覚える」と言われるが、このメカニズムには忘れるメカニズムが重要なのだという。運動に関する記憶は小脳に蓄えられるが、マウスの実験で忘れることに関与するグリア細胞が働くなくしたマウスでは、繰り返し運動の正確性の上達が止まってしまうことになったという。失敗した動きは積極的に忘れることで、習得出来た動きを自動化するのだという。だから忘れることがが出来なくなったら上達がしなくなるのだという。

 さらに過去だけでなく未来も記憶が関係する。脳にとっては過去も未来も区別がないのだという。PETで未来のことを具体的に考えてもらった時に脳の働く部位を調べると、よく働いていたのは思考を司る前頭葉の先端部分に加え、海馬と楔前部いう記憶に纏わる部分が活性化していたという。なお楔前部は空間イメージや思い出の再生を司る場所だという。さらに過去のことを思い浮かべてもらった時にもほとんど同じ部位が働いていたという。

 まあこれは納得のいくところで、人は過去の記憶に基づいて未来を想像するので両者が類似するのは当然のように思われる。なお番組では創造も全く過去からの連続がなしに行うことは不可能なのではという話も出ていた。

 

 

 以上、記憶について。まあ記憶こそがその人をその人たらしめるものなので、それを人為的に操作出来るとなったらとんでもないディストピアの出現が予測出来る。「攻殻機動隊」などに出ていたゴーストをハックされたような状態になれば悲惨そのものである。自分のこれまでの人生や家族の記憶などが実はすべて偽者であったら・・・と言う世界である。

 同様に記憶を操作することでPTSDの治療をという話もあったが、これも気をつけてやらないと少なくとも性格に大きな影響を与えることになると推測出来る。トラウマになるような強烈なネガティブな記憶も含めてその人の性格が形成されていると思うので、その記憶を除去してしまうと必然的に性格は変化するだろう。それが好ましい方向に行くなら良いが、好ましからぬ方向に行く可能性もある。例えば自身の慎重さに欠ける行動がとんでもない大失敗につながってトラウマになってしまった人物から、その失敗の記憶を除去したら、慎重に考えることなく無謀な行動をするようになるなんてことがあり得る。やはり完全除去でなく、トラウマレベルになって精神に問題を与えるレベルから、客観的に教訓として考えることが出来るレベルまで落とすという辺りが妥当か。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・記憶のメカニズムが明らかになりつつある。最新の研究によると、脳のあちこちの情報が海馬内に移ってネットワークを形成することが記憶となる。
・海馬の記憶はあくまで事実についてのみであり、それに伴う嫌悪などの感情は扁桃体に記憶される。
・記憶にはすぐに忘れるものと忘れないものがあるが、それはネットワークの太さが関係する。その太さにはたんぱく質が働いてシナプスを大きくすることによるという。
・一方でミクログリア細胞がシナプスを食べることで、不必要な記憶を消去するメカニズムも存在する。
・記憶間違いは記憶のネットワークが別のネットワークにつながってしまうことで起こる。しかしこのように記憶が変わることで、応用性が生じるのだという。
・記憶を人為的に操作する研究も進んでおり、既にマウスでの実験レベルでは成功している。将来的にはPTSDの治療などに応用出来るという。
・身体で覚えるという記憶は、運動を司る小脳が働いており、不要な動きの記憶を忘れるということで行動の精度を上げる働きがあるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・記憶を操作出来るなんてことになるとかなり危険性もあるので、恐らくこの分野も研究が進んで具体的になってくるにつれて、倫理規定の問題は大きくなってくるだろう。それにしても科学の進歩がいよいよ人間の根本を左右する時代になってきたのを感じる。

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