2023年度のノーベル賞特集
今年も年末はノーベル賞に対する解説だとのこと。生理学・医学賞はmRNAワクチン関連とのことで、これはコロナ絡みで散々やっているので省略して、化学賞と物理学賞を紹介するという。
まず化学賞は量子ドットの発見と合成で3人の研究者が、物理学賞はアト秒パルス光を発生する方法の開発で3人が受賞とのこと。
生理学・医学賞のmRNAワクチンはここで登場
光学デバイスに応用出来る量子ドット
まずは量子ドットであるが、これはもう既に液晶テレビに応用されているという。量子ドットテレビは青色LEDの光を赤と緑に変換するので効率が良いとのこと。で、量子ドットだが、これはナノメートルサイズにした半導体微粒子のことらしい。さらに面白いのがこれが粒子サイズによって色が変化するということらしい。半導体をナノサイズの粒子にすると、光を当てただけで電子の励起が起こり、これが再び落ちるときに発光するのだという。この時に粒子サイズが大きいと波長が長く、粒子サイズが小さいと波長が短くなるので、粒子サイズをコントロール出来たら自在に色を変えられるということになる。
なかなか面白い現象であるが、化学屋の私からしたらこの粒子サイズの制御というのが難しいように思うのだが、その合成技術も開発されたらしい。カドミウムを300度近くまで加熱して融解させ、セレンを注入して攪拌すると量子ドットが生成するという。この加熱時間を変えるとこのセレン化カドミウムの粒子サイズが変わるという(思ったよりも簡単な方法であるが、それだけに実用性が極めて高い)。なおこれを使用して体内のガン細胞に量子ドットを光らせて発見するという方法が研究されており、マウスの実験では成功したという。ただ現状ではカドミウムなどの有毒物が使用されているので、人には使用が無理であり、無害の量子ドットの開発が必要とのこと。今は重金属を使用するので、他の無害な金属を複数組み合わせての合成が研究されているという。また電子デバイスへの使用なども期待されている。
電子を直接観察出来るアト秒パルス光
後半はアト秒パルス光であるが、アト秒とは10の-18乗秒ということで、0.00・・と0が18個並ぶ短い時間であり、この時間だけチカッと光るレーザーらしい。今までこれの1000倍のフェムト秒までのレーザーはあったが、これ以上はレーザーの分割では不可能だったとのことである。それが今回、強力なレーザーをアルゴンに照射するとパルス光が発生することを発見した学者がいて、さらにこれがアト秒パルス光であることを証明した学者がおり、さらにそのアト秒パルス光を単独で取り出した学者の3人が受賞したとのこと。
アト秒パルス光の意味であるが、これだけ短い照射時間の光になると、電子を直接観察することが可能になるのだという。このパルス光でネオンを観察するといわゆる電子のローブが6方向に出ているのを直接観測出来るという。これを使うと化学反応中の電子の状態などを直接観測出来る可能性があるということが化学屋の端くれとしては興味があるところ。
以上、今年のノーベル賞について。昨年の量子もつれとかの話と違って、まだ理解しやすい内容で助かった(笑)。ただ最近はやはり全てが量子関係にリンクした発見になって来ているようである。
化学屋としてはどちらも興味があるところである。確かに粒子径だけで発光を制御出来るというのは極めて興味深いし、アト秒パルスでの解像度で原子の真の姿を見ると言うところも非常に興味津々。前者は工学系デバイスの開発に、後者は化学反応の精密解析へ応用出来そうである。今まで化学反応は経験則で「見てきたようなもっともらしい説明」を付けていたのだが、それが直接的に観察出来たら「百聞は一見にしかず」である。
忙しい方のための今回の要点
・今年のノーベル賞の化学賞と物理学賞に注目。
・化学賞は量子ドットの開発で3人の研究者が受賞した。
・量子ドットとは半導体のナノ微粒子を合成すると、光を当てたときに粒子のサイズに応じて異なる色の光を出すというものである。
・既に高効率の液晶テレビに実用化されているという。
・物理学賞はアト秒パルス光で3人が受賞した。
・アト秒とは10の-18乗秒のことであり、従来のフェムト秒レーザーよりも1/1000の短い時間の発光となる。
・このレベルの時間になると、電子を直接観察することが可能となる。実際にネオンの原子を見ると、6方向に伸びるP軌道が直接に観察出来る。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・なんか年々すごい話が出て来て、理系の私でもついていくのが段々としんどくなって来てます。時代の最先端は私を放置して、勝手にどんどんと先に進んでいるようです。
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