教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/17 サイエンスZERO「関東大震災100年 映像記録と実験で迫る 飛び火火災」

100年前のフィルムに残っていた火災拡大の原因

 今から100年前に東京を壊滅させたのが関東大震災。その時の映像をカラー化すると共に、その時に火災を広げた原因となった飛び火火災について検証する。とのことなのだが、当時の映像のカラー化については別の番組で使用するためのものであり、それの紹介についてはオマケのようなものである。

関東大震災後の惨状

 当時の映像のカラー化であるが、元のデータは白黒の35ミリフィルム。しかし実はこれはかなり情報量が多く(デジタルよりはアナログの方が情報量は絶対に多い)、4K映像を超えるものだという。それを最新鋭のフィルムスキナーを使用して取り込み、AIを使用してカラー化に挑んだとのこと。ただ服の色などは判断しようがないので、これは人間が当時の資料などを参考に人の手で着色したとのこと。その映像をチェックしていたら風速10メートルの強い風に煽られて飛ぶ大量の火の粉が映っていたという。

 

 

火の粉が火災を劇的に広げる

 こうやって飛んだ火の粉が地震で瓦の落ちたむき出しの屋根に延焼したのではという。実際に実験で再現したところ、揺れで1/3の瓦が崩れ落ち、数メートル先の木組みから火の粉を飛ばしたところ、数分後には屋根の檜板が燃え始め、やがて屋内にも火が侵入して室内は数千度まで温度が上昇して消火が困難な状態になったという。当時は130箇所の火災が発生し、その内の半分は住民などによって消火されたが、残りの70箇所からの飛び火で240の飛び火火災が起こったという。なお飛び火の距離は隅田川を越えたとの記録もあり、2~300メートルは飛んでいるという。

 現在は防火対策が様々行われているが、それでも大規模な飛び火火災がつい最近に起こっている。それは2016年の糸魚川市での大規模火災である。あっという間に燃え広がり、147棟が焼失した。このメカニズムを解析したところ、火災発生から1時間後に飛び火火災が発生し、そこからさらに飛びする状態になり5時間後には15箇所で飛び火火災が発生し、4万平米が焼失した。ここまで火災が広がったのは、屋根瓦のわずかな隙間に火の粉が入り込んで飛び火火災が起こったと推測されるとのこと。実際に実験でも、瓦の表面では火の粉は弾かれるが、わずかな隙間から火の粉が入り込むことが確認された。

 

 

火災を防ぐためのポイント

 ここでポイントは、糸魚川市は決して大規模火災の危険性が高い地域とは考えられていなかったことだという。そこでどのような防火改修が必要かの研究となる。糸魚川の火災をシミュレーションで再現し、そこに外壁と窓などを防火改修したという条件を加えると、燃え広がる速度は半分になって燃えた面積は2割になったが、それでも5時間で2箇所に飛び火したということ。そこで壁だけでなく屋根にも防火改修を行ったという条件でシミュレーションしたところ、飛び火火災はなくなって延焼面積も1割に留まったという。外壁と屋根を改修することで耐火性を増す上に飛び火自体を減らすのだという。防火改修には自治体などの支援も期待されるところであるという。

 なお地震の際には建物の倒壊などで内部がむき出しになることで耐火性が下がるということも問題だという。また地震の際は電気の復旧に伴う通電火災も恐ろしいところだという。このために地震の時には揺れで切れるブレーカーなども必要だという。また最近の子供などは火を触ったことがないものもいるので、実際に火を体験することで火の扱いを習得するなどの試みも必要とか。


 以上、飛び火火災について。なお実際に夜に火災の現場などに行くと、火の粉が燃えながら辺りに飛び散っているのを目撃することが出来ます。これが思ったよりも遠くまで飛んでいくのが恐ろしいところです。元々日本建築の瓦屋根も塗り壁も本来は防火対策として行われたものですが、これだけでは未だに万全ではないし、老朽化などをしてくるとさらに防火力は衰えるということで、町丸ごとの根本的な防火対策が必要なようですが、こういうことにはなかなか予算を使わないのが日本だったりします。これこそがまさに一番重要な「国防」なんですが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・関東大震災では飛び散った火の粉による飛び火火災が火災を広げることになった。
・飛び火火災は地震で瓦が落ちて板がむき出しになった屋根に火の粉が延焼することで発生した。
・しかし近年でも糸魚川市で大規模火災が発生し、この時には15箇所も飛び火火災が発生し、4万平米が焼失した。
・これは屋根瓦のわずかな隙間に火の粉が入り込み、そこから延焼したと考えられる。
・防火対策として壁と窓を耐火性のものにしてシミュレーションしたところ、焼失面積は2割になったが飛び火火災を完全には防げなかった。さらに屋根にも防火対策をすることで、飛び火火災を防いで焼失面積も1割となった。
・地震の際は建物の倒壊で燃えやすい内部がむき出しになったり、通電火災の発生などにも注意が必要である。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・昔のドキュメントフィルムって、予想外の情報が撮影されていたりするものです。こういうのがデジタルではまず存在しない。この辺りがアナログを侮れない理由でもある。
・糸魚川の火災は私も驚きました。今の消防能力でも対応が不可能だったというのはショッキングです。この時はかなり広域から消防隊をかき集めたはずなんですが。

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