コロナワクチンで注目のmRNAワクチンとは
コロナウイルスに対するワクチンの接種が始まっているが、その中のファイザーやモデルナのワクチンはmRNAワクチンという新技術が投入されたものである。ただ新技術であるだけに安全性などに不安を感じている者も少なくない。そう言うわけでmRNAワクチンとはどのようなものであるかを紹介するという。
まずmRNAとは何であるかだが、細胞内のDNAの情報をコピーし、リボソームでタンパク質を合成するのがmRNAである。mRNAワクチンはコロナウイルスの表面の突起を合成する情報のRNAを用いている。これを体内に取り込むと、細胞内でウイルスの突起部分が大量に生産されるので、それを異物と判断した免疫系が攻撃をかけることになる。
その時にまず最初に攻撃するのがB細胞。これが抗体を作る。ここまでは従来の普通のワクチンだが、このワクチンはさらに樹状細胞に作用し、そこから情報が伝わることでキラーT細胞、及びそれを指揮するヘルパーT細胞なども活性化するという。なおこれら免疫細胞の学習には「はたらく細胞」をお勧めする(笑)。
インフルエンザワクチンよりもかなり効果が高い
なおワクチンは2回接種することになっているが、3週間後に2回目接種した1週間後ぐらいらに抗体の量が増加することが分かっているという。
東京大学の石井建教授によると、今回のワクチンは90%以上とかなり効果の高いものであるという。重症化を防ぐ効果は確認されているという。従来のインフルエンザワクチンはキラーTやヘルパーTの作用は弱いので、効果の低い場合は20~30%ぐらいの効果しかないことがあり、それに比べるとこのワクチンはかなり効果が高いという。なお副反応については単なる免疫の通常反応であるとする。なお自分の遺伝情報が書き換わるというようなこと、そもそも人体は通常からウイルスと猛烈なDNAのやりとりを日頃からやっているので、これでDNAが書き換わってしまうなどと言うことは考えられないとする。
技術自体はかなり昔から研究されていたmRNAワクチン
さてmRNAワクチンの開発だが、今回のワクチンは1年ほどで登場しているが、その技術自体はかなり以前から研究が進んでいたものである。mRNAを利用して薬の成分などを体内で合成させるということは以前から考えられていたが、実際に外部からmRNAを導入しようとすれば、細胞は激しい炎症を起こして死んでしまうので、今まで不可能であったという。
それを回避する方法を発見したのがBioNTechのカタリン・カリコ博士とペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授である。彼等は細胞から取り出したRNAを別の細胞に与えて観察したところ、tRNAだけが炎症を起こさないということを発見したという。そこでtRNAを調べたところ、RNAを構成する物質であるウリジンが化学修飾されていることが分かったのだという。これが目印ではと考え、化学修飾されたウリジンを使用したmRNAを用いたところ炎症が起きなかったのだという。この論文は2005年に発表され、さらに2008年にはウリジンをシュードウリジンに変えることでタンパク質が10倍も得られることが分かったという。その後、カリコ博士はBioNTechで開発を続けていたが、今回のパンデミックに際して、コロナウイルスの遺伝子が公開されると直ちにワクチンの開発に着手、ファイザーと提携して大規模な臨床試験を実施することで1年で実用化にこぎ着けたのだという。
最後は国産ワクチンの話が出てくるが、来年度に実用化されるのではというのが石井氏の見解(彼自身が開発に携わっているらしい)。なおmRNAワクチンはガンワクチンなどにも適用されるのではとのこと。
以上、mRNAワクチンについてですが、現在問題となっているのは効果の持続性です。番組ではデルタ株でも抗体が反応するので重症化抑制の効果があるとしているが、その抗体の増加が半年程度で消えるという指摘が出て来ており、そうなると半年ごとに接種する必要がある可能性があります。だとしたら、一番最初に接種した高齢者達はそろそろ効果が切れてくる頃ということになる。効果を持続させるとなると、体内でもっとmRNAが安定化するようにするということになるが、そうなると今度はmRNAが居続けることによる良くない副作用というのが懸念されることになる。番組でもmRNAは不安定ですぐに分解されるから悪さをしないという言い方をしていたので、それが効果の持続時間とトレードオフだったら結構いやらしいことになる。
なおワクチンの接種については賛否両論があるのでそれは個人の選択によることになります。とりあえず私は今月中に1回目を打つ予定になってます。ワクチン副反応の危険性と、感染した場合の危険性を考えると、私の場合は感染時にはかなりの高確率で命を落とすことが懸念されるからです。一方で若くて持病のない人とか、子供などがワクチンを打つべきかどうかは判断が難しいです。
忙しい方のための今回の要点
・コロナワクチンとして注目されているmRNAワクチンについて紹介。
・mRNAとはリボソームにタンパク質を合成させる能力を持つ。コロナウイルスの表面の突起を形成するmRNAを注射することで、体内でコロナの突起のみを合成させ。それを免疫系に反応させる。
・従来のワクチンのように抗体を作るB細胞だけでなく、樹状細胞を通してキラーT細胞やヘルパーT細胞も活性化するので効果が非常に高い。
・またmRNAは不安定で体内で長期残存すると言うことがないので、長期的な悪影響はほとんどないと推測されている。
・mRNAワクチンの原理自体はかなり以前から注目されていたが、合成したmRNAを細胞内に取り込むことが出来なかった。しかしカタリン・カリコ博士らがRNAを構成するウリジンを化学修飾することで細胞に取り込ませることに成功した。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・まあmRNAワクチンについては、新技術だけに賛否両論あって当然で、今回の大規模接種は人体実験という批判もあるのは当然でしょう。ただ現在までに私が目にした反ワクチンの情報については、素人目に見ても科学的考察が滅茶苦茶なものが多いので、反ワクチンがカルト宗教的になってきているのが心配です。
・とは言うものの、政府が強調している「ワクチンさえ接種すればそれでコロナは収束」というのはあまりに希望的観測が強すぎて、これも非科学的です。
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