教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/8 サイエンスZERO「五感のかけ算!?"クロスモーダル現象"」

五感が脳に左右されるクロスモーダル現象

 今回のテーマのクロスモーダル現象というのは、五感が他の五感に影響を与える現象だという。

 まずは井上咲良が被験者となっているが、バーチャルで太鼓を叩く時にアバターがスーツ姿の時よりも、法被姿の方がノリが良くなるということがある。これは視覚が行動に影響を与えている例だという。

 また違う音楽を聴きながら同じチョコを食べたら味が変わるということも体験している。いかにも甘やかな音楽(ショパンのノクターン2番)と非常に不快な音楽(不協和音バリバリの騒音みたいな曲)の2種で、前者の時にはチョコを甘く、後者の時には苦く酸っぱく感じたのだという。同じチョコだということを聞いてからテストしてもやはり味が違って感じられたというからかなりのものである。これは過去の記憶などが影響しているのだろうという。快適な記憶は甘い幸福感を呼び起こし、不快な記憶は酸味や苦味につながるのだという。脳の機能である感情が感覚を制御しているのだとのこと。

 

 

複雑な脳の仕組み

 人間の感情と感覚の関係はさらに奥深いものがあるという。手に球が当たる映像を見せながら、手には球が当たる触覚刺激を与えたという。この触覚刺激は常に同じ強さなのだが、これで見せる映像の球の速度を速くしたら刺激を強く感じる・・・と予想して実験したら、さにあらずで逆に触覚を弱く感じたのだという。

 視覚のイメージと触覚が逆になっているのだが、この理由としてはまず視覚情報が先行していることから、速い球が来た時には「これは強い触覚刺激が来る」と脳が予測することで触覚の感度を下げているとの仮説を立てている。脳というものは常に予測をするので、例えば同じ重さの箱でも小さい箱よりも大きい箱の方が軽く感じるのだという。これを対比効果の大きさ-重さ錯覚というらしい。一般的に大きいものほど重いので、重いと予測して身体が備えることで軽く感じるのだという。

 

 

バニラは速くてレモンは遅い?!

 さらに複雑なクロスモーダル現象が2021年に日本で初めて見つかったという。それは「レモンは遅くてバニラは早い」のだという。これは嗅覚とスピード感の関係を調べた実験で、白い点が放射状に広がる映像を見てもらいながら、レモン、バニラ、無臭の状態で点の広がる速度をどう感じるかをテストしたのだという。その結果、レモンを嗅いだ時には同じスピードでも遅く感じ、バニラは早く感じたのだという。

 これの原因について、脳の視覚野の中で動きに関わるhMTという領域の血流量を調べたところ、速度を判断しにくい映像を見た時にレモンの匂いを嗅ぐと血流量が減り、バニラの匂いを嗅ぐと血流量が増えたのだという。これは人間はスピードの判断に迷った時に嗅覚も使用して判断しようとしているのだという・・・のだが、この説明に関しては私は今ひとつスッキリ来ない。特にhMTの血液量が減ると遅く感じるというのがシックリこない。私が思うには、レモンは脳にとって刺激のある匂いなので、脳が覚醒した結果としてゆっくりに感じる(バニラは逆に脳がリラックスすることで速く感じる)のではと考えるのだが・・・。

 なおクロスモーダルを使った研究として、好きな物の映像を見せることでそれを食べたように感じさせたり、クッキーの大きさを変えて満腹感を感じさせるとかの研究などもなされているとか。ダイエットとかに効果が期待出来るとか。

 

 

 以上、五感が他の五感や脳の影響を受けるという現象であるが、そりゃあるだろうなということは理解出来る。そりゃ同じ料理でもそこらのおばさんが作った物よりも、可愛いあのコが作ってくれた物の方が美味しく感じそうである。なお逆に五感が感情や記憶に影響を与えるというのはごく普通にあることでもある。私は美味い夕食にありつけた町では良い町だという記憶が残るし、朝食が美味かったホテルは良いホテルになる(笑)。だから私が良い町と言っている町は、基本的に飯が美味い町である。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・他の五感や感情などが五感に影響を与える現象をクロスモーダル現象という。
・例えば同じチョコを食べても、その時に聞く音楽で味が違って感じられるという。これは記憶などから来る脳の感情が味覚に影響を与えているという。
・また球が手に当たる映像を見せながら触覚刺激を与える実験では、球が速いほど触覚刺激を弱く感じたという。これは強い刺激が来ることを予測した脳が、事前に触覚の感度を下げたと推測出来るという。
・さらに嗅覚とスピード感のクロスモーダル現象が2021年に日本で発見された。これによるとスピード感の判断に困った時、レモンの匂いを嗅ぐとゆっくりに、バニラの匂いを嗅ぐとゆっくりに感じられるのだという。
・現在はクロスモーダル現象を利用して、好きな物を食べたり、多く食べたように感じさせるなどの研究が進められているという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・そりゃ味覚なんて記憶から露骨に影響受けるのは昔から公知です。忘れられない味などもあるし、その時の感情によっては、どんな美味いはずの料理でも砂を噛むように感じられたりなんてこともあることもしられている。それをさらに発展させたのが今回の研究のようで。
・食べてないのに食べた気になって腹が膨れるなら、それはダイエットには実に効果的な気がしますが・・・実際に人間ってそこまで単純なんでしょうか?

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work