教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/5 NHK あしたが変わるトリセツショー「お酢の新世界!美味健康ワザ連発SP」

味覚を覚醒させる酢の効果

 酢と言えば言わずと知れた酸味調味料であるが、今回はそのような通常の酢の使い方とは全く違う酢の使い方を紹介するとか。酢を加えることで料理が根本的に変わるのだという。

酸っぱくするだけではなかった酢の効果

 まず酢の効果であるが、実は味覚を研ぎ澄ます効果を持っているという。そこで毎度の街中実験だが、出し汁にある野菜を加えてそれが何かを当てることが出来るかというもの。実はトマトを加えていたようだが、そのままの条件だと被験者22人中5人しか正解しなかった(しいたけという回答があった模様)。しかしここに酢を3滴加えると正解者が続出。結果として、先程不正解だった17人中13人が正解したという。酢を加えることで一気に味が立ったと被験者は語っている。

 

 

我々の御先祖には重要な能力だった

 なぜこのようなことが起こるかだが、酢には味覚の覚醒パワーがあるのだという。番組ではゲストが実際に食塩水に酢を一滴加えて実験しているが、やはり味の輪郭が際立つとのこと。もっとも酢の量がポイントでこれ以上酢を増やすと酢の味が強くなりすぎてしまうとのこと。だから一滴ずつ落とせるようにプッシュ式の醬油差しに酢を入れている。

 なお医学的な分析においても、酢を加えることで味覚の信号が強く、さらに持続時間も長くなっているという。加えて動物の実験でも、チンパンジーに甘い液体を与え、片方に酢を加えてどちらを選ぶかを試したところ、8回中7回も酢を加えた方を選んだそうな。つまりはこの効果は少なくとも類人猿には共通でありそうである。

 で、このような仕組みを持つことになった経緯だが、野生において果物などを食べる時、熟れていない実は酸っぱすぎてとても食べられない。しかし完熟を待っていると他の動物に横取りされる可能性が高い。そこで若干熟れ方が半端で酸味が強くても、その時に甘味などの他の味覚を強く感じるメカニズムを持つことで、そのような実でも食べられるように進化したのだとか(あくまで一つの説だが)。

我々の御先祖が生き残るには重要な能力だったらしい

 

 

料理への応用と酢の健康効果

 と言うことが分かったところで番組では毎度のごとくのお料理編に突入。酢メーカーを取材して酢の味を判断する味確認室なる面々を紹介しているが、まあそんなことは実はどうでも良く、要はメーカーも酢をいろいろな料理に使用するという用途を勧めているらしい。で、実際にプロの調理人(中華に和食にカクテルまでが登場)の中にも酢を隠し酢として味を際立たせる仕掛けとして使用している人がいるということを紹介。後はお約束で番組ゲストがやきそばからアイスクリームまであらゆる料理に酢を加えて食べて「全然違う」というお決まり展開。で、この隠し酢の使い方の詳細は例によってHPでとのことだが、要は酢の酸味をあからさまには感じないレベルで使うことがポイントなので、料理全体の量に対して0.5~1%というのが目安だが、実際には3~4滴ぐらいから確認しながら調整するしかない。なお酢は酸であるので、金属や木の容器は不可。容器を移したら冷蔵庫保管(一週間ぐらいが目処)で劣化しないうちに使い切って欲しいという当たり前の注意。

 後半はこれまたお約束の健康効果の方に入る。トマトの苗での実験だが、酢を与えると乾燥に強くなるのだという(と言っても食酢をトマトの苗にドバドバかけると枯れるが)。研究の結果、植物が乾燥を感じると体内で酢を合成することが分かったとか。実際に酢を使って高温乾燥地域の農業に応用する試みもなされているという。動物でも肝臓で酢が合成されているという報告があり、酢を取ることで脂肪燃焼のスイッチが入り太りにくい体になるのではとのこと。もっとも現在はマウスでの報告であり、人間の場合は不明。

 

 

ノンアルコールビールをクラフトビールにする万能調味料

 お酢のさらなる効果としてノンアルコールビールをクラフトビールのような味にするという貧乏人向けのネタ。これに使うのは酢に砂糖を加えて煮詰めた特製の調味料(濃い甘酢のように思えるのだが・・・)。番組では昔からの醸造所を取材しているが、これまたどうでも良いような内容。要は酢を作るにはまず酒を造ってから酢酸菌で酸化させているという話を紹介。つまり酢にはうまみが加わっているので、それを感じられるようにしたのが先の調味料になるそうだ。フランス料理では大量の酢を煮詰めて旨味を凝集させるという手法を使うのでそれを参考にしたらしい。作り方は穀物酢(がお勧めらしい)200mlに砂糖大さじ2杯を加えて加熱して酢の成分を飛ばし(石原さとみ氏が実演しているのだが、ここで大量に酢酸が飛ぶのでむせている)、色がついて粘りけが出だしたら水を加えてさらに2分、再び粘りだしたら火を止めて粗熱をとって完成とのこと。ノンアルコールビールだけでなく、いろいろな料理に使える(鳥カラなんて甘酢なんだから当然だわな)万能調味料だとしている。トーストにかけているのには驚いたが、蜂蜜トースト的な使い方らしい。


 以上、お酢の使い方について。まあこの番組らしい実用本位の内容ですわ。相変わらず番組構成に回り道と無駄が多いのは若干気にはなったが。

 なお酒から酢を作るというのは当然なんだが、あの酢酸菌は酒造所にとっては天敵で、あれが繁殖してしまうと酒が酸味を帯びてしまって大失敗になるというたちの悪いものでもある。まあ厳密に言えば清酒の元と酢の元は若干違うが。

 また最近の私はやたらに酢蛸を体が求めるということがあって、妊娠でもないし(笑)何があったんだと思っていたが、夏バテで食欲低減していたから体が備蓄した脂肪をエネルギーに使用しようと自衛反応だったんだろうか? 

 

 

忙しい方のための今回の要点

・酢を酸味調味料としてではなく、味を引き立てる隠し調味料として使用する方法を紹介。
・人間の味覚は酢の刺激があることで、甘味など他の味に敏感になる性質がある。これは類人猿がやや熟が足りない果実でも食べることができるように、進化した性質だと推測されている。
・酢を酸味を感じない程度(0.5~1%)加えることで、あらゆる食品の味を引き立てる効果がある。
・なお高温乾燥に遭遇すると、植物の体内で酢が合成されるという報告があり、動物でも肝臓で酢が合成されることで脂肪燃焼のスイッチが入るという。
・最後には酢を使った万能調味料を紹介。これでノンアルコールビールがクラフトビールの味になるとか。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・例によっての料理に健康というこの番組のパターン。健康の方は話半分で聞いておくとしても、料理の方は試してみる価値はあるかも。
・確かにこのまだ夏バテが残っている時期は、酸味のあるようなものの方がスムーズにのどを通るんだよな。そう言えば最近はやたらに寿司食ってる気がする。

次回のトリセツショー

tv.ksagi.work

前回のトリセツショー

tv.ksagi.work