教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/25 TBS系 世界遺産「マオリが守った3つの火山」

ダイナミックな自然の世界遺産

 ニュージーランドのトンガリロ国立公園は3つの火山によるダイナミックな風景が広がる。ここは自然遺産であるのみでなく、マオリの文化の聖地としての文化遺産でもある。


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 南北に3つの火山が連なるが、最も北が公園の名でもある標高1967メートルのトンガリロである。火山灰や溶岩で覆われた山肌はまるで異世界である。内側の壁が赤い火口はレッドクレーターと呼ばれる。今も活動を続ける活火山で、最近は2012年に噴火しているという。また上から見下ろすと火山の物質が溶け込んだエメラルドグリーンの湖がいくつもある。

トンガリロのエメラルドレイク

 その南には標高2287メートルのナウルホエ。斜面には溶岩の流れた跡が生々しく残っている。最も南が標高2797メートルのルアペフ。ルアペフは北島の最高峰になる。山頂にはエメラルド色の火口湖がある。これらの山は自然遺産となっている。

ルアペフ山

 

 

マオリの文化の象徴としての文化遺産でもある

 国立公園近くにはマオリの集落があり、彼らの文化を伝えている。南太平洋の島から何千キロもの距離をカヌーをこぎ続け、800年前にここにやって来たのが彼らの先祖である。彼らはこの地をマオリ語で「アオテアロア(白くて長い雲のある地)」と呼んだ。この火山の島で何度も噴火の火山灰で埋もれながら、山を神聖なものとして見て生きてきた。

 マオリの神話ではピハンガは女の山で、男の山が彼女をめぐって争った結果、トンガリロが彼女と結ばれたのだという。またマオリの首長は亡くなるとトンガリロの秘密の聖地に埋葬される。マオリでは山岳信仰と祖先信仰が結びついている。このマオリ文化によりトンガリロは1993年に自然と文化の複合遺産と認められた。

 しかしこの地も危機に瀕したことがあった。19世紀半ばにニュージーランドがイギリスの植民地になり、キリスト教が布教され、イギリス人は森を切り開いて牧場にし、マオリの多くの土地が奪われた。トンガリロの自然が破壊されることを恐れたマオリの首長・テ・ヘウヘウ・トゥキノ4世は、イギリス女王の下で保護されることを条件にトンガリロの地を国に献上する賭に出る。1894年、トンガリロはニュージーランド初の国立公園となり、その自然は守られることになった。そしてマオリの人々はマオリの文化を取り戻そうとするに加えて、自然の復活にも取り組んでいる。マオリに返却されたトチにはマヌカが植えられている。現在は西洋から持ち込まれたミツバチによる養蜂が行われている。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ニュージーランドのトンガリロ国立公園は3つの火山からなるダイナミックな自然遺産である。
・同時にトンガリロはこの地に暮らすマオリの聖地でもあり、マオリの文化を象徴する文化遺産にもなっている。
・かつてニュージーランドがイギリスの植民地になってトンガリロの自然も破壊される危機に瀕したとき、マオリの首長が保護を条件にこの地を国に献上したことでニュージーランド初の国立公園が制定された。
・マオリの人々は現在、かつてのマオリの文化を取り戻す(一時代前に強引に同化政策が図られた)ことに加えて、自然の再生にも取り組んでいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・なんか説明自体はあっさりしてましたが、マオリにも白人侵略者に迫害された歴史画ありそうな雰囲気でしたね。なんせ当時はヨーロッパの連中が世界中で悪逆非道なことを行ってましたから。
・キリスト教の布教がされたってのが1つの鍵です。当時のキリスト教の布教というのは、現地の在来宗教や文化を徹底して破壊することを意味しているので。