教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/20 NHK ガッテン「慢性痛しびれが改善!逆子も治る!?東洋の神秘"はり治療"SP」

 近年増加しているのが鍼灸院。現在も国家資格取得のために修行中の鍼灸師が多数いるという。最近では鍼灸院の数はコンビニよりも多いとか。効果があったという報告などがある一方で、どうも胡散臭いと考えられているのが東洋医学の代表であるはり治療。今回はそのはり治療に科学の観点から迫るという。

はり治療の効果とは?

 番組では中国のはり治療の権威に取材しているが、はりの効果については「エネルギーの通り道が云々」というどうも胡散臭い話になってしまう。また針を手足に打ったら心臓につながるエネルギーの通り道が赤く浮き出したなんて写真まで紹介されているのだが、やはり「ホンマかいな?」という疑問は拭えないところである。

 さすがに番組の方もこれでは胡散臭すぎるのは十二分に承知なのだろう。次に実際にはり治療が効果を上げている例を紹介する。ここに登場した女性は、ストレッチをしていたら首が「グキッ」となって回らなくなってしまったのだという。彼女の首を見た鍼灸師は「ああこれですね、当たりですね」と針をチョイチョイと刺す。すると先ほどまで首が回らないと言っていた女性の首が見事に動くようになるという内容。これが「やらせ」でないとすれば(かつての「あるある大辞典」のような番組だと一番にこれを疑う必要があるが、私は「ガッテン」についてはそこまでは疑ってません)針の効果についての確かに劇的かつ明らかな証拠ではある。

 

世界的に認められつつあるはり治療

 はり治療については近年は世界的にも広がっており、2010年のハイチ地震では満足に医療を受けられない被災者に対し、痛みの除去のためにはり治療が施されたとのこと。また2006年には国際的にツボの位置を統一するための会議が開催され、361カ所の世界共通のツボが決定されたとのこと(実際のツボはこれ以外にもあるそうだが、要するにこの361カ所が世界公認ツボ)。

 ではそもそもツボとは何なんだ。と言うわけで番組では再び中国取材。それによるとツボの始まりと言われているのは、ある人がつまずいて転んで足に怪我した時、持病の頭痛が治ったという現象があり、それ以来体のあちこちに針を刺してどのような効果があるのかが長年に渡って研究されたのだという(要するに人体実験じゃん)。その集大成が今日に他伝わるツボだとか。なおツボというのは、元々人体にあるというよりも、何か体に調子の悪いことが起こった時に出来るものなのだという。これが次の実験の伏線になる。

 

科学の目で見るツボの正体

 次に番組は針がツボに到達した時に何が起こっているかをエコーで観察している。それによる針が何やら白い層を貫通した時にツボに到達している。ではこの白い層は何かだが、これが筋膜だという。筋膜は筋肉を包む膜であるが、無理な姿勢などを続けることによってこの筋膜に皺が入る。これが痛みの元になるのだが、ここに針を刺して小さな傷を付けると、修復のために血流などが良くなることで筋膜の皺が治るというのがツボの効果に対する有力な説の一つらしい。この筋膜の皺が筋肉痛などの原因になるので、これを修正するストレッチを行うというのは近年は西洋医学の観点からも言われている最新情報なので、なかなかに説得力のある話。ただこれを見ていると「だけど内臓などから離れた位置にあるツボの説明が付かないじゃん」というツッコミを入れてしまうのだが、このツッコミは番組も想定内の模様。次の話に移る。

 次は妊婦の逆子を治すのに足のツボを使うという方法。実際に足に針を打った途端に胎児がバタバタと動き始めて子宮内で回転する様子がエコーで観察されている。要は足の神経が脊髄を通してつながっているということのようだ。また最近の研究では足の筋膜が首の筋膜までつながっており、この筋膜のネットワークがいわゆる経絡と合致しているとのこと。NHKスペシャル人体でもやっていた体内ネットワークの話がつながってます。

 

慢性痛治療に利用されるはり治療

 またはり治療が西洋医学では効果の出にくい慢性痛などに効果があるという研究もある。番組では脊柱管狭窄症の手術後に足にしびれが出た患者が針でしびれを改善させる例や、全身の筋肉が硬直して痛みの出る難病の患者が針で筋肉の痛みを緩和する(病状を抑えるために多数の薬を服用しているため、痛み止めを服用できないらしい)例などを挙げている。一般にはり治療は自費診療だが、神経痛やリウマチ等で医師が必要と判断すると保険が適用できるようになるので、これは医師と相談とのこと。

 なお最後に登場するのは驚きの例だが、ヒマラヤで発見された5000年前のミイラであるアイスマンの入れ墨の位置が腰痛のツボの位置と合致することが分かったとか。中国のはり治療の歴史は1800年と言われているようだが、もしかしたらそれよりも遙か昔にツボの概念があったかもとのこと。


 以上、はり治療について「科学の観点」から紹介しました。はり治療は最新研究で大分エビデンスが出てきてますが、東洋医学には未だに効果のハッキリしないものがあります。ただその中には明らかにインチキくさいものも多数ありますので注意してください。特に要注意は気功。体の気を整えて云々の内気にはまだマッサージ効果やらある程度の意味のあるものがありますが、体外から気を送るとかいう外気になるとこれは完全にサイコキネシス、テレパシーのバビル2世の世界ですから、およそ信じない方が良いです(かの「あるある大辞典」はよりによってこれの宣伝をしちゃったこともあります)。ちなみに自称気功師というのは、詐欺師の定番の一つでもあります。

 とにかく科学は万能できないので、確かに科学で説明の付かないことというのは存在します。ただし同時に「大抵のことは科学で説明が付く」ということも忘れないでください。ですから最初からいきなり「科学では説明できないが」とことわりがつくようなものは、眉につばをタップリ付ける必要があると言うことです。また一見科学で説明が付いているように装ったものも、実はその内容が滅茶苦茶というのが多いですから(最近の健康食品やサプリにこういうのが多い)要注意です。

 


忙しい方のための今回の要点

・はり治療の効果については、筋膜に出来た皺を針で刺激することで血行を改善して修正するという説が近年最有力である。
・また針の刺激が神経を経由して伝わることの効果もあり、足に針を刺して逆子を治すなんてことも行われている。
・さらに筋膜のネットワークを経由して針の刺激が伝わるという考え方もある。
・神経痛やリウマチなどでは医師が治療に必要と判断すると保険の適用も可能。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・何でも科学で説明できるという科学万能論は危険ですが、実は科学は何も説明できないと考える科学不要論のようなものはもっと危険なんですよね。この手の考えにはまった者は大抵は怪しいオカルト商品にダマされてカモられます。とにかくあまり極端な考えには走らないこと。さらに常に客観的かつ論理的に考える習慣を持つということが大切です。健康食品や医療に限らず、たとえば「確実に儲かる方法があるのなら、人に伝える前に自分が借金をしてでもそれに投資するはず」と考えれば投資詐欺なんかにダマされることも防げます。

 

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