教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/11 BS11 歴史科学捜査班「龍馬暗殺の真相 元刑事が徹底捜査!」

 今回のテーマは龍馬暗殺。その真相を元刑事の吉川祐二氏が捜査すると言うものなんだが・・・。

 しかし番組が始まるやいなや、幕末維新史研究家が登場して「犯人は京都見廻り組しかあり得ない」と断言している。京都見廻り組とは、旗本などで構成された京都の治安維持のためのエリート集団である。はぁ? 何か先に結論が出ちゃってるんですが・・・。

 

 とりあえず吉川氏は「事件は現場に行くことが重要」と京都を訪問しているのだが、なぜか最初に訪れたのは龍馬と中岡慎太郎の墓。あのー、そこは事件現場ではないんですが・・・。

 で、次に向かったのが龍馬が近江屋で暗殺される1年前に伏見奉行所の捕り方に襲撃された寺田屋。ここで龍馬は襲撃を受けるのだが、お龍の機転で直前に事態を察知してピストルで応戦、捕り方を2名射殺しているという。そして同行者である槍の名手であった三吉慎蔵の活躍もあって、辛くも窮地を脱出している。この時点で龍馬は謂わば指名手配人物となっているのだという。

 ここで冒頭で登場した幕末維新史研究家の菊池明氏が再登場して、そもそも見廻り組の今井信郎が後に新政府の取り調べで龍馬暗殺についての状況を証言しているというのである。それによると襲撃したのは見廻り組の7名で、桂早之助、渡辺吉太郎、高橋安次郎の3名が2階に上がったのこと。なんか吉川氏と全く無関係に決定的事実というものが次々と出てきます・・・。

 吉川氏はこの後、現場である近江屋に行くが、近江屋は今は看板が残るのみで「かっぱ寿司」になってしまっている。で、仕方ないので幕末維新ミュージアム霊山歴史館に行って、近江屋の模型を見たり、副館長の話を聞いたり。これによると、龍馬は即死の状態だったが、中岡慎太郎は襲撃の後2日ほど生存していたので、事件当時の証言が多々残っているとか。中岡の証言等では襲撃者は2名で龍馬は額を5寸ほど切られてこれが致命傷になった由。

 また桂の持っていた刀も残っており、これが龍馬を斬った刀と言われているという。刀にはさびが生え、刃先には刃こぼれが起こっている。近江屋の室内は狭かったために桂が使用したのは小刀で、桂はこれを使った剣術の達人だったとのこと。何か吉川氏には全く無関係に勝手に犯人が決まってきているのですが・・・。

 

 番組はこの後、掛け軸に残っていた血痕から龍馬暗殺の状況を推測するとして、科学捜査の専門家なども登場しているが、再現実験までしての結果は「龍馬を切りつけた刀は一度龍馬のこめかみ部分に当たって、そこでスピードが落ちてから振り抜かれている」。いやー、だからこれがどういう意味があるの?

 後は近江屋の室内をCGで再現して吉川氏がその時の状況を再現したりするんだが、これはあまり意味がない。そしてこの後にゲストで日本近代史研究家の町田明広氏が、「伏見奉行所は京都所司代の配下にあり、見廻り組も京都所司代の配下。しかも彼らの領域内を暗殺の前日に龍馬が永井尚志と密談するために訪れている」とのことを説明し、だから足取りを補足されて見廻り組に襲撃されたのではとしている。

 で、これらを受けて吉川氏の結論が「龍馬を暗殺した実行犯が誰かは断定できないが、京都見廻り組の犯行に間違いない」というもの・・・。しかしこの番組の内容的に吉川氏の登場の必要があるのか? ハッキリ言って吉川氏自身は特に何もしてないうちに勝手に回りで結論が次々に出てきていて、これでは吉川氏がすごくマヌケに見えるんですが・・・。

 結局番組が何をしたかったのかが分からん。京都見廻り組による犯行という説はかなり有力な説なんだからそれを紹介するのは良いが、元刑事を登場させる意味が・・・。現場も残っていない、関係者に直接聞き込みできるわけでもない、物的証拠をDNA鑑定できるでもないとなればそもそも刑事の出番なんてなし。番組で紹介していた内容は興味深かったが、番組構成のあまりのマヌケさだけには呆れてしまった。元刑事なんて出すのではなく、俳優を探偵に扮装させてレポーターとして事件を追わせるという構成の方がはるかに納得できるものになったはずなんだが。吉川氏の元刑事という経歴が今回の番組構成だと逆に邪魔になっている。