教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/5 NHKスペシャル「運慶と快慶 新発見!幻の傑作」

 東大寺南大門の金剛力士像を制作した運慶と快慶。しかし彼らが共に制作した仏像はこれ以降にはない。しかもその後の彼らの作風は互いにかなり離れたものとなっている。彼らがその後どのように歴史を歩んだのかを新発見された仏像と共に紹介している。

 運慶と快慶は奈良の仏師集団のメンバーで運慶はそのリーダーだったと考えられる。その彼らが体験したのは源平の抗争による南都焼き討ち。焼け落ちる奈良の伽藍を見ながら恐らく彼らは戦のない世の中を望んだだろうと思われる。

 その後の運慶は戦のない世の中を目指すべく、力を持った武士に接近した。愛知にある運慶仏の内部調査を行ったところ、何やら箱のようなものが入っていることが確認されたという。寺の記録によると仏像の中に源頼朝の歯と髪が入れられているという。これは運慶が権力に接近した証拠だという。

 一方、快慶は運慶と袂を分かって、庶民の中に入っていくことを選んだ。この度、新たに快慶によるものと判明した仏像は地方の寺から発見されている。穏やかで柔らかい表情の阿弥陀仏は、あの金剛力士像とは全くイメージのことなるものである。また快慶仏の中から多くの庶民の名前が記された文書も見つかっており、快慶がそういった一般庶民の信仰に寄りそう仏像を制作していたことが覗われるという。

 そして二人の仏像はさらに進化する。運慶は自らの仏像を極彩色で彩色するということを行っており、この度新たに運慶によるものと判明した四天王像は、青や緑などの高価な顔料を使用して煌びやかに彩色されていたことが分かっている。

 これに対して運慶の仏像は穏やかな光に包まれたものとなっていた。この光の正体は実に細かく描かれた金色の彩色だとのこと。それによって仏像が穏やかに輝くのだとか。

 運慶は晩年に、息子の湛慶を快慶に託している。湛慶は快慶の元で修行して、両者の作風を統合したような作品を製作しているとのこと。

 単なる美術番組かと思っていたら、再現ドラマも含んだ人間ドラマとして描いていてビックリした。ただの再現ドラマにしてはやけに気合いが入りすぎているので、これはもしかしたらこの二人を主人公にしたスペシャルドラマでも製作するつもりなんだろうかなんて思った次第。もし本当に放送されたら絶対見るけど。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・南大門の金剛力士像を共に制作した運慶と快慶であるが、その後の両者の道は分かれる。
・運慶は権力を持った武士に近づき、晩年には極彩色による彩色仏像を制作した。
・快慶は庶民に寄り添う道を選び、庶民の信仰の対象となる小ぶりの穏やかな仏像を多数制作している。

忙しくない方のためのどうでも良い点

・なんとなくヒストリアを連想しましたが、さすがにNHKスペシャルだけあって再現ドラマも豪華に作ってます。どうもこの番組だけのためのドラマにしては豪華すぎて勿体ないように思うのですが。
・最初は東寺展に展示中の仏像の調査から始まりましたが、それはハズレだったということのようです。もしここで運慶作ということが判明したら、それを大々的に正面に出してさらに東寺展を盛り上げるつもりだったんでしょうが、それは残念ながら期待外れということでしょうか。ただ今でも既に東寺展は超満員状態なんで、これ以上さらに客が増えたらとんでもないことになると思いますが。