教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/10 BS11 歴史科学捜査班「石田三成 秀吉が託した史上最大水攻めの戦い」

 今回のテーマは忍城水攻め。秀吉の小田原攻めに際し、石田三成が忍城を水攻めにしたものの失敗。三成は戦下手という評価を決定づけてしまった三成にとっては痛恨であるはずの戦いである。

沼地の堅城・忍城

 まずは合戦の詳細だが、忍城攻めに際しての三成側の兵力は2万、これに対して立て籠もる成田長親の兵は3千と石田側の楽勝に思われる兵力差がある。しかし忍城は沼地の中に浮かぶ城であり、攻め手は狭い通路を一直線になって通らざるを得ず実に難攻不落の堅城である。実際のこの城は以前に上杉謙信の攻撃をも退けているという。

 番組では沼地の行軍というのが可能であるかどうかを田んぼを使って検証しているが、甲冑を着けて普通に歩こうとするとまともに歩けず、30メートルを2分40秒もかかってしまう始末。その後、手と足を同じ方を出す方が良いとのアドバイスを受けると時間は半分になったものの、やはり戦うというような状況でない。間違いなく弓や鉄砲で狙い撃ちになってしまう。

三成が築いた長大な堤防

 忍城は三大水攻めの一つと言われているが、堤防の長さでは今までの中で一番長く、14キロ程度の堤防を築いたという。この堤防、途中で決壊したとか言う話もあるのだがその強度は十分だったのかと言うことを番組では土木工学の観点から検証している。

 検証によると、単に土を積み上げたのではなくて十分に突き重ねているので、十分な強度があったというもの。堤防が決壊したという話は忍城勢が夜陰に紛れて堤防を崩したという人為的なものだろうとのこと・・・なんですが、私は関東ロームはそもそもこういう構造物に向かないと思うのですが・・・。

水攻めは秀吉の発案?

 なおこの水攻めは実は三成の発案ではなく、秀吉からの指示によるものであることが書簡などで明らかになってきたとのこと。こういう金のかかる大規模な作戦を展開することで秀吉の力を見せつけるというデモンストレーションの意図があったのだという。三成はその指示を忠実にこなしてはいたが、内心では疑問もあったらしい。秀吉としては三成に手柄を立てさせてやろうという配慮だったようだが、最終的には裏目に出たことになってしまっている。結局はここで三成についてしまった「戦下手」という評価は、明らかに後の関ヶ原などにも響いています。秀吉の気遣いが逆に三成の足を引っ張ってしまって、ひいてはそれは豊臣家滅亡につながるのだから皮肉なものです。

水攻め失敗の要因

 なお水攻め失敗の要因は、地形を読み誤ったことによるというのが番組の結論。忍城周辺は平らなように見えるが、実は忍城の位置が三成が堤防を築いた位置よりも数メートル高く、そのために水は堤防際の三成側の方にばかり溜まって、忍城の方にはあまり押し寄せなかったと考えられるらしい。またこの地域はそもそも洪水が多くて洪水慣れしているので、忍城に水が押し寄せたところで「ああ、またか」程度であまり慌てることもなかったのではとのこと。

 以上、忍城水攻めについて。ところで番組冒頭で三成を「戦国人気No1」とか言ってましたが、つくづく時代が変わったものです。少し前まではどちらかと言えば悪玉扱いでした。だから私は以前から、歴史において再評価すべき人物として、石田三成、明智光秀、田沼意次の3人を挙げていたのですが、三成に関しては最近のBASARA辺りの影響もあってか、いろんな意味で評価が変わったようです。明智光秀についても来年の大河の主人公とのことなので、多分それが再評価のきっかけになるでしょう。となると後は田沼意次だけか。というわけで私は「田沼意次を大河ドラマの主人公に」に一票。

 


忙しい方のための今回の要点

・忍城は沼地を防御に使った難攻不落の堅城であった。
・忍城の水攻めのために三成が築いた堤防、石田堤は十分な強度を持ったものであったと推測されるが、忍城勢による破壊工作などもあった。
・忍城水攻めは実は三成の発案ではなくて、秀吉から指示であったことが明らかとなってきた。
・しかし地形のせいで忍城の水攻めはうまくいかず、結果としては落城しなかった。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・忍城には私も実際に行ったことがありますが、今は市街に埋もれていると言っても確かに昔は湿地だったんだろうなと思わせる点が多々ありました。
・三成は古墳の上に陣を構えたと言っていましたが、確かに埼玉県は古墳が非常に多いところです。そもそも埼玉県の名前時代が埼玉遺跡から来てますし(他の説もあります)。