太平洋戦争の最大の激戦地の一つであるガダルカナル島。米軍の資料などによって明らかとなってきたその詳細を紹介する。
作戦失敗の全責任を負わされた一木大佐
ここの戦闘では、陸軍最精鋭ともいわれた一木清直大佐が率いる一木支隊が全滅している。全滅の原因は戦力的に圧倒的に優位であった米軍に対して、一木大佐が無謀な突撃をかけたことにあるとして、戦後すべての責任が彼一人に被せられるような形になった。しかし実態はそんな単純なものではないということである。
そもそもの発端
そもそもこの島に空港の建設を開始したのは日本軍だった。ここに空港を設置して制空権を確保できればハワイとオーストラリアをつなぐ航路を寸断することが出来、前線の米軍を分断できる。日本軍はジャングルを切り拓き、現地民を動員して80メートル級の滑走路の建設を始める。
これに危惧を感じた米軍が動く。米軍は1万の兵力を動員して空港を占拠すると、機械力を動員して整備を始める。日本軍にとっては空港の奪還が重要課題となる。
陸軍と海軍の思惑の違い
この事態に対して大本営では陸海軍が合同で作戦を行うことになる。しかしこの2ヶ月前にミッドウェーで大敗していた海軍は敵艦隊の殲滅を目指しており、大陸や東南アジアで勝利を続けていた陸軍は慢心していた。そしてお互いの思惑は最初からズレていたのである。
海軍は作戦の一環としてガダルカナル島の輸送船団を攻撃することにする。海軍の夜襲は成功し、輸送船団を護衛していた巡洋艦などに大打撃を与える。久しぶりの大戦果に海軍も国内も湧き上がるが、実はここで致命的な作戦のミスがあった。海軍は巡洋艦等を攻撃することを優先し、輸送船団には全く攻撃を加えていなかったのである。そのために現地の米軍は十分や食料や武器弾薬の補充を受けて強大化していた。この状況に対して現地の参謀は海軍が生ぬるいと憤慨していたが、それは大本営には伝わっていない。
誤った観測の元で実行された作戦
さらに海軍は偵察の結果、現地の兵力を2000程度と見積もる。それは現地の主力部隊が撤退したと推測してのことであった。陸軍もその報告を受けて2000なら楽勝と楽観視する。しかしこれは実態とは全く異なっていた。実際は現地には武器弾薬十分な1万人以上の部隊が駐屯していたのである。現地の参謀も敵兵力は8000はいるはずと推測して一木支隊の派遣を躊躇していた。しかし大本営の参謀本部からは作戦遂行を催促する指示が来る。現地では不安を感じつつも一木支隊を派遣するしかなかった。そして一木支隊の先遣隊916名が派遣され、空港から30キロ離れた海岸に無血上陸を果たす。
上陸した一木支隊はジャングルの中を空港めがけて進軍を行っていた。しかし待ち受ける敵兵力の総数さえ分からない状態に、先遣隊と共に上陸した一木大佐は戸惑っていた。そこで彼は30人ほどの偵察部隊を敵戦力の調査に派遣する。しかしこの時既にジャングル内にマイクや鉄条網を設置して万全の体制で待ち受けていた米軍には、彼らの部隊の動きは筒抜けだった。派遣された偵察部隊は敵の待ち伏せに遭って全滅する。
無謀な突撃を実行せざるを得なかった理由
偵察部隊の全滅を受けて一木大佐は本部の指示を仰ぐべく通信を試みる。本部との通信は沖合の潜水艦が中継するはずだった。しかしこの無線はつながらなかった。沖合にいるはずの潜水艦は、米軍空母発見の報で命令によって攻撃のために離脱していたのである。完全に孤立した状態で一木大佐は判断を迫られることになるが、既に上層部から「速やかに作戦を実行すべし」の命令を受けている彼には、前進するしか選択肢はなかった。
見捨てられた中での全滅
しかし一木支隊の前進中にさらに事態は悪化する。整備された飛行場には米軍の戦闘機も到着してさらに戦力が強化されていたのである。そして一木支隊は万全の準備の元で待ち受ける米軍の前に現れる。一木支隊側からは敵陣は見えないが、米軍側からは一木支隊の兵は丸見えの状態だった。川の手前で一木支隊の兵達は米軍からの圧倒的な火力による十字砲火を受けることになる。
銃撃を避けて川沿いの窪地に逃げ込むが、今度はそこに米軍からの迫撃砲の雨が降ってきた。明らかに罠だった。敵の罠に気付いた一木大佐は撤退を指示するが、その背後を断つように米軍の軽戦車が回り込む。これらの戦車は補給部隊が届けたものだった。この頃、日本の基地からはゼロ戦が緊急発進していたが、これは一木支隊を救援するものではなく、米艦隊の攻撃に向かったものであった。そして一木支隊は米軍機の攻撃まで受けてほぼ全滅の状態となる。
一木支隊全滅の報は陸軍を震撼させるが、それを公にすることは出来ず、結局は現地指揮官の一木大佐一人に責任を被せ、彼は責任を取って自決したことにされてしまう。一木部隊全滅の事実は一木大佐の華族にさえ箝口令が敷かれたという。一木大佐の90歳の長女がインタビューに答えているが、彼女は父親のことはずっと隠していたという。やはり亡国の軍人の娘と見られることに非常な恐怖があったとのこと。
これで終わらなかった「地獄」
しかし地獄はこれで終わらなかった。日本軍はガダルカナル奪還のために3万人の兵力を小出しに送り続ける。しかし米軍は拡張された空港に万全の戦力を配備し、日本の補給線はことごとく撃沈された。そうして前線の部隊は食糧の補給さえ途絶えて飢えに苦しむことになる。そのためにガダルカナル島は後に「餓島」と呼ばれることになったのだが、これについては番組では述べていない。
結局日本軍は半年後にガダルカナル島を諦めることになるのだが、それまでに1万5千人が死亡することになる。この後、米軍は各地の島の占領を続け、それに対して日本軍は人命を軽視した戦いを続けて最終的には終戦までに300万人が犠牲になることになる。
もう壮絶とか悲劇的とかいう次元ではない悲惨な状況であるが、やはりここでも際立つのは当時の軍上層部の無能さと縄張り意識の愚かさ。結局は現地のことを全く考えずに、自分達の保身と体面ばかり考えたアホな作戦ばかり実行していたせいで、多くの兵が犠牲になって国も滅びかけたという事実である。そして全責任は現場の司令官に被せられる。正直なところ、この体質は日本軍がなくなっても未だに日本の企業などに温存されてしまっている日本型組織の悪しき体質でもある。
それにしても先の大戦は、諸々の事情が明らかになるほど「負けるべくして負けた」としか言いようがないことが分かるのだが。どうしてこんなアホな戦争に走ってしまったのか? そしてどうして誰もそれを止められなかったのか? この辺りが現代日本人が真剣に考えないといけない点である。そうでないと再び気がつけばまた無意味な戦争に狩り出されて、無意味に命を落とすということになりかねないのである。
忙しい方のための今回の要点
・ガダルカナル島の戦闘では一木支隊が圧倒的に優位な米軍に攻撃をかけて全滅している。この戦いの責任は現地司令の一木大佐にすべて被せられることになってしまったが、実際は彼の関与しないもっと上層部の問題が大きい。
・そもそも陸軍と海軍では思惑が違い、敵艦隊殲滅を優先する海軍は一木小隊を囮と見なして十分な支援を行っていない。
・また陸軍にも敵兵力を侮っている部分があった。
・十分な情報のないまま一木支隊は敵に正面攻撃をかけざるを得ない状況となり、結局は万全の体制で待ち受けていた米軍に全滅させられる。
忙しくない方のためのどうでも良い点
・日経ビジネスに「敗軍の将、兵を語る」という、失敗した企業の責任者などがその失敗の原因と経過を解説するコーナーがあるのですが、これは成功者の成功エピソードなんかよりも100倍役に立ちます。成功者と全く同じことをしても成功は出来ませんが、失敗者と同じことをすると100%失敗しますから。そういう点では先の大戦での日本軍の作戦の大半って、ことごとくこの失敗エピソードばっかりなんですよね。
・日本軍ってどうしてこんなに馬鹿なトップばっかりだったのかって呆れるんですが、実際は今の企業トップなんかも似たようなもんなんですよね。こういうのを見ていると、これって日本人組織の宿命なのかもという絶望的な気持ちにもなりますね。結局は日本型組織って、組織の年数が経てば経つほど無能が出世するシステムになっちゃうところがあるんです。だから歴史ある大企業ほどダメになる。日本軍も明治や大正まではどうにかなったのが、昭和になった頃にはダメになったということ。