教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/18 TBS系 世界遺産「空飛ぶ船!運河と奇跡の天空橋」

 イギリス・ウェールズの18キロに及ぶスランゴスレン運河には、高さ38メートルを船が渡る天空の水路橋がある。

産業革命での物資輸送の動脈

 この運河は産業革命時に物資輸送のために建設された。この運河を幅2メートルほどの細長いナローボートと呼ばれる船が物資を積んで行き交ったのだという。現在は物資の輸送には使用されていないが、観光のためのボートをレンタルなど出来るらしい。あるオーナーのボートを番組で紹介しているが、内部にはキッチンにベッド、さらにはトイレやシャワーまであり、キャンピングカーのような使用になっている。彼はこのボートで何日もかけてゆっくりと運河を楽しむらしい。途中では跳ね橋などがあり、そこに来ると彼は船から下りて橋を跳ね上げてから、船を通して再び橋を下ろす。船の制限速度は6キロほどなので、なかなかのんびりした船旅である。運河の脇にはトゥパスと呼ばれる側道がついているが、これは現在のような小型エンジンがなかった時代には、ボートを馬で引っ張っていたために造られたものだという。

丘をぶち抜き、谷を越えて建設された運河

 運河に高低差がある場合には通常は閘門が作られる。ここで水位を合わせて船を上下させることになる。しかし閘門を作れば費用がかかるし、また通過に非常に時間がかかる。そこでスランゴスレン運河は閘門を作らずに同じ水位で通しているという。しかしウェールズの丘陵地帯で同じ水位を保つことも簡単ではない。そのために丘の下はトンネルで通し、運河が谷を横断するために建設されたのがポントカサステ水路橋である。

 運河の幅はナローボート一隻分しかないが、運河は双方向通行。どうやっているのかと思えば、原則は先に入った方優先ということで、先に向かいからボートが入ってきてたら手前で待つのだとか。信号などはないので紳士の国らしき譲り合いの精神である。

 高さ38メートルの水道橋を支えるには多くの支柱が必要となる。そこでこの橋で用いられたのが、橋脚は石で作って橋桁は鉄で作る方法である。この方法によって大幅に軽量化することに成功した。当時は大きな鉄板を作る技術がなかったので、小さな鉄板をピッタリと合わせてボルトで締め付けて接続している。水の重みがかかることで鉄板同士の隙間がさらに密着する仕掛けになっているという。200年前に建造された橋が今日まで機能しているわけだが、10年1度は橋の栓を開けて水抜きして点検することになっているという。

 

時代の変化と共に役割の変わった運河

 この水路橋を設計したのがトーマス・テルフォード。彼はこの水路橋を真横から見ることが出来る場所に自分のオフィスを構えており、その建物は今でも住民が居住している。建築物を大切にするイギリスらしいところである(日本の木造建築だったら、200年前の建物は大抵はなくなっているか建て直されているだろう)。

 実は水路橋はもう一つある。それがチャーク水路橋である。この水路橋は高さ21メートルで、すべて石造りである。この水路橋の奥には後で作られた鉄道橋が併走しており、新旧の輸送路が一望できることになっている。この鉄道が敷設されたことで運河の物資輸送路としての役割は終えた。しかしその後に地元の人々によって運河の価値が見直されて、今日に至っているという。この水路は2009年に「土木技術の傑作」として世界遺産に認定された。


 産業革命絡みでいかにもイギリスらしい世界遺産という印象である。水路橋はただの橋と違って、大量の水の過重を支える必要があるので強度設計が大変であったろうと思われる。しかしそれをあえて作ったのは、イギリスの産業革命での自らの技術に対する誇りであるだろうと思われる。また物流の中心が運河から鉄道に移ったなら、そのまま放棄されて風化してしまいそうなものだが、それをキチンとメンテナンスして未だに現存させているというのもイギリスらしさと言えるか。

 この水路橋は観光施設としては格好の存在で、空を飛ぶボートということでスカイボートなどと呼ばれたりするという。もっとも高所恐怖症である私にとっては目の眩む風景であるのだが。

 


忙しい方のための今回の要点

・イギリスのウェールズのスランゴスレン運河には高さ38メートルの水路橋がある。
・この運河は産業革命時に物資輸送のために建造された。かつては幅2メートルのナローボートと呼ばれる船に物資を搭載して、馬で曳いて輸送していたが、現在は主に観光用途となっている。
・ポントカサステ水路橋は荷重軽減のために、橋脚は石造りで橋桁は鉄製となっている。鉄製の橋桁は多数の鉄板を組み合わせて、ボルトで締め付けた構造となっている。
・鉄道の敷設で物資輸送路としての運河の役割は終わったが、運河の価値が地元の人に見直されて今日に至っている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・船旅というのは、他の旅とはまた違った独特の風情がありますね。狭い運河の中を自転車よりも遅い速度で移動する旅というのは、これまたかなり特別です。せかせかした日本人には向かないかもしれませんが。
・運河の全長が18キロで、制限速度が6キロとのことなので、普通に走れば3~4時間で終わってしまいそうなもんですが、それを何日もかけるということは、あっちで泊まり、こっちで泊まりでのんびりと進むということですかね。やっぱりあまり日本人向きではないかも(笑)。