教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/19 BSプレミアム ダークサイドミステリー「闇の神話を創った男 H.P.ラヴクラフト」

創作界で大人気のクトゥルー神話の世界

 創作の世界で未だに地味に人気のあるクトゥルー神話。異形のモンスターたちが闊歩する言いしれぬ恐怖の世界である。この世界観は多くのクリエイターに影響を与えており、「エイリアン」の脚本家やデザイナーなどもラヴクラフトから影響を受けたという。その世界を作り上げた作家、ラヴクラフトの物語。

ラヴクラフトの原点

 ラヴクラフトはアメリカの「神の意志」という意味の名を持つ町プロビデンスに1890年に生まれた。彼の母方の祖父は地元の名士であり、彼は5人の召使いがいる屋敷で育ったという。そこに祖父の蔵書が大量にあり、彼は4才の頃からそれを読みふけったという。4才でグリム童話、5才でアラビアンナイト、6才でギリシア・ローマ神話に熱中し、こうして異世界への憧れを育んでいったのだという。そして彼の生涯を決定づけたのがエドガー・アラン・ポーとの出会い。彼の不条理な恐怖の世界に魅せられ、彼は恐怖という感情の虜になったのだという。

人類の認識を超越した恐怖の世界を描く

 彼は26才の時に第1作となる怪奇小説「ダゴン」を執筆する。ボートで漂流していた男が謎の陸地に漂着し、そこで半魚人のようなモンスターに出くわす。恐怖に駆られながらも彼は必死でボートで逃げ出した。しかしその後もその恐怖に取り付かれる日々、そしてついに窓から身を投げようとした時、その窓の外に半魚人の手が・・・という不条理な恐怖ものである。この作品で彼は一躍話題に・・・ならなかったらしい。この時代の怪奇ものと言えばドラキュラなどの時代で、パルプフィクションの世界では探偵ものなどが人気。怪奇ものもあったが、それは怪奇な事件に美女が巻き込まれるというような話で、分かりやすいいかにもの怪人をマッチョな主人公がぶっ倒すというような分かりやすい話ばかりであった。彼の作品はあまりに暗くて難しすぎ、要はマニアックすぎたのである。そのために雑誌に掲載されるまででも2年もかかっている。

 しかしそれでも彼は作品を書き続ける。そして未知なる恐怖の場面として、宇宙から飛来した生物という世界にたどり着く。そして確立したのがクトゥルー神話の世界。人類誕生以前に地球に飛来した異形の生物が人類を産み出したという話であり、その異形の生物が現代に甦るという展開。人間の価値観や常識などを超越した理解不能の恐怖の対象であり、それまでのモンスターに見える人間的価値観の支配(例えば吸血鬼の類いなどはもろにキリスト教的価値観を反映している)を否定したものである

 

斬新すぎて世間に認められなかったラヴクラフト

 だがマニアックに過ぎる彼の世界はなかなか受け入れられず、彼は作品集さえ発行されない状態。そんな彼を支えたのは同業者の小説家たちだった。ラヴクラフトは彼らと多くの書簡を交わしているが、その中でお互いのよく出来たキャラクターはクロスオーバーさせたりすることによってクトゥルー神話の世界を広げていった。怪奇小説における「アベンジャーズ」みたいなものか?

 40才の時に彼が執筆した「狂気の山脈にて」は彼の世界観の集大成となる作品で、南極観測隊が異生物の残した遺跡を発見する物語。彼らがそこで目にしたのは、地球に訪れていた異形の支配者、そして彼らが人類を食料用動物として開発したという事実。

 さらに同じ頃に彼がグランド・フィナーレとして描いた作品が「インスマスを覆う影」でこれは主人公が最後には自分の出自にさえ疑問を抱いていく話で、最終的には水棲人の末裔であった主人公は、一種の安らぎと誇りを感じながら水棲人の住処である海底に戻ってくという異色の結末になっている。異世界を描き続け、それに魅せられ続け、また自分の存在に対する疑問も抱いていたラヴクラフトの行き着く先が異世界との同化であったようだ。なおラヴクラフトはその後、46才という若さでこの世を去っている


 インスマスについてはラヴクラフトファンを自認している佐野史郎氏が以前にドラマを撮影しているとのことで、その映像を用いてストーリー紹介をしていた。ただ番組全体を通じて佐野史郎氏を中心としたコアなファンのファントークという側面が強くて、そうでない人間には「何のことやら」という印象が強かったこともある。クトゥルー神話については、私も以前にファンタジー世界について勉強した(笑)時にその名は何度も耳にしているのだが、実際に読んだことはないので「ふーん」という感じである。

 なおこうやってあらすじを聞いてしまうと「ありがちな話だな」と見えてしまうのだが、ラヴクラフトがこれらの話を書いたのは100年近く前ということを忘れてはいけない。つまりはかなり先進的な作家だったということで、それが創作界に大きな刺激を与えたからその後に類似した世界観の作品が続出して、現在ではむしろ「ありがち」に見えてしまうということ。ラヴクラフト人気なんて当時からかなりコアなマニアの世界だけであって、一般化しだしたのはせいぜいこの20~30年ぐらいの話だと思う。結局彼はあまりに時代の先を行きすぎていたために、同時代には認められなかったということだろう。「時代の半年先を行けば流行の最先端だが、2年以上先を行けばただの変人、10年以上先を行けば最早狂人である」というのはある偉人の言葉・・・ではなくて私の言葉である(笑)。

 

忙しい方のための今回の要点

・1910年代、未だにアメリカのパルプフィクションの世界では、マッチョ主人公が悪の権化の怪物をぶっ倒すという類いの単純なストーリーが全盛の頃、ラヴクラフトは独自の不条理な恐怖を秘めた世界観に基づくクトゥルー神話の世界を確立した。
・しかしあまりに斬新すぎる彼の作品は世間には広くは受け入れられず、彼の世界観に共感する仲間の作家たちと共に作品同士のクロスオーバーなどをさせながら世界を広げていく。
・彼は40才の時にその集大成と言える作品を描き上げるが、46才で若くしてこの世を去る。彼の作品が一般に広く受け入れられるようになるのは、彼が亡くなってからの話となる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・クトゥルー神話については、それ自体が現在では一種の伝説のようになってますね。今日では怪奇小説というよりもSFチックな話のベースになっている場合が多いです。創られた人類という設定は非常に多く「強殖装甲ガイバー」なんてまさにそういう類いですね。トールキンの指輪シリーズが今日のソーズ&ソーサリーの世界(現在のアニメで一般的なドワーフやエルフなどが登場する異世界)のベースになっているようなものです。