教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/19 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「東洋の魔女は夜に跳ぶ」

 今回は東京オリンピック絡み。まあNHKはオリンピックの宣伝をするように上からのお達しがきてますから、その一環でしょう。

猛練習で最強チームを作り上げる

 日本の女子バレーが本格的に始まったのは日紡貝塚が女子バレーチームを結成してから。そこに招かれたのが大松監督だが、彼の行ったのが根性バレー。まさに血と汗と涙のスポ根の世界である。彼は各地から選手を集めては、その急造チームを徹底した長時間練習を鍛え上げた。毎日6時間以上の練習という無茶苦茶な世界だが、それで4年で国内最強のチームに鍛え上げる

 

打倒ソ連のための秘策

 国内無敵となったチームは1960年に世界選手権に挑む。ここで初出場で準優勝を修めることになるのだが、決勝でソ連の高さとパワーに圧倒されてしまうことになる。どうやってソ連に勝つか。ここで大松監督が考えた秘策が回転レシーブだった。徹底的に守りまくることでソ連を倒すという戦略である。選手たちは日々回転レシーブの猛練習をさせられることになる。

 ただ長時間の練習は何も考えずにやると体を壊すだけである。実際に運動を長時間にわたって行った場合、エネルギー不足から筋肉が逆に弱ったり、脱水状態になったりなどの危険がある。しかしこのチームでは、練習の途中でおにぎりなどを食べてエネルギー補給は行っていたという。また運動中は水を飲むなという考えがまだ強かった時代に、練習中に自由に水を飲めるようにしていたとのことで、単なる脳筋な根性主義だけではなかったようである(そうでないと世界では通用しない)。

選手たちが睡眠不足に耐えられたわけ

 しかし選手が苦しんだのは睡眠不足だとか。朝は会社の仕事をして昼の3時から夜遅くまで練習なので選手の睡眠時間は5時間ほどで常に睡眠不足との戦いだったとか。選手たちは仕事が終わってから練習が始まるまでの時間を昼寝して睡眠不足を補っていたとか。

 また選手がこの状態でもったのは睡眠の質が良かったからだろうとの話。体の回復には深い睡眠をいかに取れるかが重要であるが、有酸素運動に無酸素運動を組み合わせることで睡眠の質が向上することが分かっているとのこと。バレーボールはまさにそのような運動であるので、選手たちは時間は短くても質の良い睡眠をしていたのではないかとしている。

 監督は選手のストレス面も実は考えており、時折選手たちを食事や映画に連れて行ったりしていたとのこと。もっともそれから帰ってきた後に練習することもあったとのことであるが・・・。

 

そして世界一となるが

 回転レシーブをひっさげて1962年の世界大会に挑む選手たち。ソ連との対戦、接戦の末に日本は第1セットを落としてしまう。この時に大松監督は「さすがにソ連は強い。だからお前たち、勝つとか思うな。日頃体育館で練習した回転レシーブを一生懸命やれ。」と声をかける。これで選手たちは平常心を取り戻し、最終的に見事にソ連に勝利する

 ついに世界一となった。選手も大松監督も実はこの時に引退するつもりだったという。しかし帰国した彼女たちを待っていたのは、2年後の東京オリンピックでバレーボールが正式種目となったという話。一躍彼女たちは金メダル候補の筆頭と言うことになってしまったのである。もうそろそろ結婚の時期になっている選手たちは悩むが、みんなオリンピックを目指すことになる。

捻挫を侮ることなかれ

 この後はオリンピックを目指してさらなる激しい練習の日々。ねんざや突き指などは日常茶飯事で、大松監督はねんざについては大した怪我と考えていなったようだが、これについては実は誤りだとのこと。捻挫で部分断裂などした靱帯は再生の際に伸びてしまってこれは一生戻らないとのこと。こうなると関節をしっかりと固定できなくなり、捻挫を繰り返すようになる。実際にこれで選手生命を絶たれる者も少なくないという。また靱帯が緩むことで軟骨に負担がかかって、関節の機能に問題が生じることもあるという。捻挫は実は侮ってはいけない病気なのだという。もし捻挫をしてしまった場合は、その後の関節の負担を避けるには、筋肉を鍛えることが重要とのこと。

 

選手たちをプレッシャーから解放したキャプテンの一言

 そしてオリンピック。選手たちには大きなプレッシャーがかかる。医学的にはプレッシャーは運動能力にも影響を与える。プレッシャーが上がると、ある程度のレベルまでは運動能力が向上するのだが、限度を超えると急激に運動能力の低下が見られるという。このような状態に陥った選手たちを開放したのはキャプテンの「相手が3の練習をしたとしたら、我々は7の練習をしてきたのだから負けない」という言葉だったという。練習量に対して絶対的な自信を持っていた彼女たちはこの言葉でプレッシャーから解放される。

 試合は2セットを日本が先取して3セット目、13点までいったところで一瞬の気の緩みのせいでソ連が急激に追い上げてくるという危機にも直面するが、日本はそこから建て直してストレートでソ連を破って金メダルを獲得する。


 とまあ、今まで何かの度に散々語られている東洋の魔女のエピソードでしたが、そこに医学的観点を絡めているのがこの番組の特徴。とは言うものの、ネタがネタだけに医学情報としては大したものはありませんでしたね。エネルギー補給と水分補給なんてのは今では常識ですし、捻挫の件も常識レベルではあります。結局は番組の主旨がオリンピックPRという不純なものだったせいで、番組内容自体もそれなりになってしまったようです。あのボンクラ大河「いだてん」といい、オリンピックが絡むとろくなことはないようです。

 

忙しい方のための今回の要点

・日本バレーチーム猛練習で実力をつけたが、実はエネルギー不足解消と水分補給にも配慮がしてあった。
・選手たちは長時間練習による睡眠不足に苦しんでいたが、そこは睡眠の質の良さで補っていたと思われる。
・捻挫で伸びた靱帯は一生元に戻らないため、捻挫を侮っていると、関節軟骨などが損傷して将来歩行機能に障害が出たりする危険がある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあこの時代だから通用したやり方という側面はあります。いろいろな意味で今なら考えられないというところがあります。大体、お国の名誉ために運動をするなんて発想自体が今の時代にはそぐわないですし、くだらないですから。スポーツなんて実は楽しんでなんぼです。長生きしたければスポーツを職業にしてはいけないという話があります。選手レベルのトレーニングは体にとっては単に拷問と一緒で寿命を縮めるだけだからと。実際に楽しむレベルの運動が体には一番良いとか。

 

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