教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

9/12 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「関ヶ原の戦い ウソと逆ギレの東軍編」

 今回のテーマは関ヶ原。先週は西軍編の再放送をしていたが、今回は東軍編である。

毛利軍を封じたオレオレ詐欺の手口

 まずは西軍の吉川広家から。彼は毛利家のNo2の立場であった。結局は彼が西軍を裏切ったことで毛利勢は動かず、それが東軍勝利につながっている(実は毛利家の本領安堵を家康に約束されていたのだが、戦後に家康はその約束を反故にしている)。元々毛利輝元は西軍の総大将だったはずなのに、その毛利軍を東軍方に寝返らせるのにどんな手段を駆使したか。

 ここで吉川広家の説得工作に当たったのが、黒田官兵衛、長政親子なのであるが、彼らが駆使したのが「グッドコップ・バッドコップ」という説得術。二人がかりで一人が相手を責め、もう一人が相手に共感を示しながら優しく説得するという方法。よく刑事ドラマである、若い刑事が「お前がやったんだろ!正直に白状しろ!」と責めていたら、おやっさんが出てきて「まあまあまあまあ」と宥めるというあれである。

 ここで長政がバッドコップ、官兵衛がグッドコップで絶妙のコンビネーションで広家を説得している。長政は早く家康と講和しないと取り返しが付かないことになるぞと広家を責め、官兵衛は何があっても私はあなたの味方ですからと優しい言葉をかける。これを繰り返している内に、広家は心理的に段々と官兵衛に依存してくる。そして難攻不落だったはずの岐阜城が落ちてショックを受けているところに、長政からは「家康は駿府まで来ているから(これはウソ)、講和を急がないと間に合わない」と急かし、そこに官兵衛から「西軍はみんな東軍に寝返っているから(これもウソ)、あなたのためを思うと東軍についた方がよい」という結論を示す。すると追い詰められて心理的に官兵衛に依存している状態の広家は官兵衛の提案に飛びつくという次第だとか。

 これは実はやくざがよく使う交渉術なのだが、番組では最近オレオレ詐欺がこの手口を使用するようになっているので注意との警告がある。なおこの方法は自分自身の判断力に自信を持っているものほどはまりやすいとのこと。吉川広家も実はかなり優秀な指揮官であったので、見事にこの計略に嵌められている。

 同じように相手を誘導する方法としては、最初に低い価格を提示しておいてから、徐々に価格を上げていく「ローボールテクニック」。逆に最初に高い商品で購買意欲を煽っておいてから、安い商品を見せて購入させる「ドア・イン・ザ・フェイス」などがあるという。いずれも詐欺の上等テクニックであるから要注意である。

 

家康は「引きこもり」だった?

 次は家康であるが、ここで番組はかなり斬新な説を提案している。上杉景勝の討伐の最中に三成挙兵の報を聞いた家康は、実はすぐに大阪に向かわずに江戸城に一ヶ月ほど籠もって動いていない。この間に清洲城の先発隊には西軍が迫ってきており、家康の出陣を促す矢のような催促が来るのであるが、これに対して家康は「お前達が本当に味方か信じられないから動けない」という逆ギレ手紙を送っている。これについては家康が福島正則ら豊臣恩顧の大名の真意を探り、さらには彼らを焚きつけるための高度な駆け引きだったというのが通説であるが、この番組ではなんと、この時の家康は「引きこもり」になっていたのだという。

 家康の症状は恐れ回避型愛着障害なのだそうな。これは人を信じることが出来なくて距離を置いてしまう症状だという。これが悪化するといわゆる引きこもりになってしまうのだとか。実際に家康には人質だった今川家から岡崎に帰った時、家臣に謀反を起こされる恐れがあると城に戻らずに近くの寺に籠もったというエピソードもあるとのこと。このような異常に慎重な行動はこの恐れ回避型愛着障害に見られる症状だという。また上杉を攻める時も、軍配を忘れたと大騒ぎして、竹と紙で急遽軍配を作成するという奇妙な行動をとったという。こういう想定外の事態に対してパニックになるというのもこの症状であるという。

 これを発症するのは、幼少期に母親などから愛される経験をしてオキシトシン受容体を発達させるということが十分に出来なかったからだという。オキシトシン受容体が発達していないため、人との関わりに纏わるホルモンであるオキシトシンに対しての感度が悪くなってしまうのだという。そうやって家康の幼年期を振り返ると、3才で母親と別れ、後は人質生活という他人を信頼しにくい幼年期を送っている。

 それまで豊臣政権の中枢で差配をしていた家康が、一転して豊臣家の敵と名指しされるという事態の変化にパニックを起こして引き籠もってしまったのだという。そして現実逃避をしているのに、そこに現実に引き戻すような催促が相次ぐのでとうとう逆ギレしたというのが、この番組の斬新な解釈。

 なおとんでもないことになっている家康だが、事態は予想外の展開をする。家康に信頼されていないと福島正則ら先発隊は、逆に奮起して難攻不落の岐阜城を自分達だけで一日で落城させる。これで圧倒的に戦局が有利になり、家康も息を吹き返して出陣、そして東軍が勝利を収めたのだという。

 うーん、かなり斬新な考え方。ゲストの竹原氏が「こんな家康は嫌だ」と言っていたが、全くの同感。城に引き籠もって「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」と頭抱えている家康なんてあまりに情けなすぎる(笑)。徳川家としても神君家康のそんな情けない姿は絶対認められないでしょう。しかし話を聞いていると意外と説得力はある(笑)。

 

福島正則の強さを支えた「大きな声」

 最後は福島正則について。彼は常に一番槍で突っ込んでいく猛将で、関ヶ原の合戦でも戦力的には有利だった宇喜多隊に正面から突っ込んでいって激しい肉弾戦の結果、これを撃破している。

 この福島正則の強さは彼の大きな声にあるとしている。スポーツなどでよく競技中に大声で叫んでいる選手がいるが、あれはシャウト効果と言って声を出すことで筋力などがアップすることが知られている。そのメカニズムは実はまだ明らかでないのだが、大声を出すことでアドレナリンが分泌されるとか、脳にはいろいろな機能を司る脳番地というものが決まっているが、腕を動かす部分と口を動かす部分が隣接しているので、声を出すことでそれらの部分がつながって働きがよくなるなどという説があるそうな。

 最近オトノマペというのが流行しているが、こういう擬音の効果は侮れないらしい。実際に前屈などをする時に「にゃー」といった柔らかいイメージの声を出すと、体が柔らかくなるとのこと(肺の空気が出るので前屈しやすくなる効果も考えられると言っていたが、実はこっちの方が主なのでは?)。ちなみにどの母音で最も筋力が増すかという実験を行った結果は「い」と「え」だったらしい。と言うことは、福島正則は「えーい」か「いえっ」というかけ声をしていたということか。意外と「イエィー」だったりして(笑)。


 西軍編の時も「ホンマかいな?」という珍説がかなり出てましたが、こちらも珍説てんこ盛りでした。正直なところ信憑性はかなり怪しいものがありますが、考え方としては非常に面白いです。にしても、引きこもり家康はちょっと・・・。ただよくよく考えれば、家康って馬上でクソちびりながら逃げ出した男なんですよね。そうして考えると、意外と「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」だったのかも。

 


忙しい方のための今回の要点

・毛利勢を封じるために吉川広家を説得した方法は、二人で攻めるものと宥めるものに別れる「グッドコップ・バッドコップ」という説得術だった。
・この方法を使うと相手は感情を揺さぶられて宥める人間に依存するようになってしまう。
・家康は関ヶ原の合戦の前、恐れ回避型愛着障害になって引き籠もっていた可能性がある。
・恐れ回避型愛着障害は幼少期に母親などから愛されるという経験が欠如している場合に発症し、他人を信用できなくなるなどの症状が出る。
・福島正則は声が大きかったが、大声を出すことで筋力などが強化されるシャウト効果があることが知られている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・いやー、今回は引きこもり家康がすべてですね。インパクトありすぎ。この観点は考えたことがなかった。そう言えば山本正之の歌に、家康は本当は侍家業が嫌で、いつも逃げ回っている内に勘違いされて天下を取ってしまったというのがありましたが。実はそれが本当だったりして。

 

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