混乱を極めた江戸時代初期の日本の暦
今でも行事などに用いられることがいわゆる旧暦であるが、実はこれが制定されるまでにも大変な過程があったのだという。というのは、これ以前の暦は中国のかなり古いものを用いていたせいで誤差が大きく、その挙げ句に地域によって暦が違って日付が異なるなどということまで発生したという。これらの問題を解決するために、江戸自体に新たな暦の作成に挑んだのが渋川春海である。
保科正之に改暦を命じられる
渋川春海は子供の頃から星を見るのが好きな少年だったという。12才の時に既に北極星がわずかに動くことを観察で見つけていたというからかなりである。渋川春海の本職は幕府お抱えの棋士だったのだが、本職よりも暦の方が熱心だったようである。その彼が29才で会津を訪れたのが大きな転機となる。
当時の日本では平安時代から伝わる中国の宣明暦を用いていたという。しかしこの暦は古すぎて既にかなりの誤差が生じていた。
会津の藩主は徳川家光の弟の保科正之。実は彼も現在の暦には非常な不満を感じていたという。その保科が春海を呼び寄せて改暦を命じたのだという。
宣明暦は既に中国では古くて廃れている暦であった。そこで春海は中国で元以降に用いられるようになった授時暦に目を付ける。これは数学的に非常に優れた計算法を用いていた。この暦は元の時代に精密な天文観測に基づいて制定されたものであるという。春海は自ら観測機器を開発して実際に授時暦に基づいた観測を開始する。
改暦をかけた大一番でまさかの結果が
保科正之は春海に改暦を命じてから5年後に亡くなる。しかし春海は保科の意志を実現させるべき暦の研究に打ち込んでいた。そして1年後、彼は幕府に授時暦による改暦を願い出る。
春海は授時暦が宣明暦より優れていることを示すため、日食と月蝕を当てる勝負を挑むことにする。宣明暦の予測は外れることが多いのに対して、授時暦の予測は次々と当たっていく。これで勝負があったかと思った春海だが、何と最後の予測がはずれてしまう。結局はこれで改暦は頓挫してしまう。
独自の観測を続けて誤差の原因を解明、新しい暦を作る
春海はなぜ予測が外れたのかの研究を続けることになる。京と江戸を往復しつつ、観測を続けた。星の位置は時代でも変わるので観測が重要であると春海は考えていた。そして8年後、ついに原因にたどり着く。地球の軌道は楕円であり、太陽は中心からズレているために近日点である冬至を基準にして考えている。しかし授時暦が制定されてから400年の内に冬至が近日点からズレてしまったために計算に誤差が生じたのだという。春海はこのズレを修正した独自の暦・大和暦を製作する。
春海は朝廷に改暦を申し出る。そして詮議の結果、ついに採用され貞享暦と名付けられる。朝廷が採用したことで幕府もこの暦を採用することになり、幕府によって新しい暦が一気に普及されることになる。こうして春海は長年の悲願を達成したのである。
江戸時代にまだ暦がこんなに滅茶苦茶だったとは私も知りませんでした。それまで日本で本格的に天文学に挑んだ人がいなかったということでしょうか。幕府が天文方を作って天文測定を開始したのはこの春海の改暦がきっかけとなったとのことですし、渋川春海は単に暦を作っただけでなく、日本天文学の祖でもあるわけです。
何やらヒストリアを見ているような気がしてきたのが今回。いつものこの番組と比べるとなかなか異色の内容でした。再現ドラマ的なものが入るのもヒストリア臭さが強くなった一因(笑)。まあたまにはこんな回もありでしょう。
忙しい方のための今回の要点
・江戸時代初期、日本ではまだ古い暦を用いていた上に地域によって暦もまちまちなので、誤差が大きい上に甚だしきは地域で日にちが違うということさえ起こっていた。
・この暦の改訂に挑んだのが幕府お抱えの棋士だった渋川春海。幼少期より星に興味があった彼は天文の知識から改暦の必要性を考えていた。
・渋川春海は会津に呼ばれた時に、同じく暦の問題を感じていた藩主の保科正之に改暦を命じられる。春海は中国の最新の暦である授時暦を用いることを考え、独自の観測を開始する。
・保科正之の死の1年後、春海はついに幕府に改暦を申し出るが、精度を証明するための日食・月蝕の予想でなぜか最後の予想だけを外してしまい、改暦は頓挫する。
・春海はその後も予想が外れた原因を研究し続け、8年後に誤差の原因が近日点のズレによるものであることを解明し、それを修正した独自の暦を制定、これが朝廷で採用されたことで幕府にも改暦が認められることになる。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・江戸時代版「プロジェクトX」の趣もありますね。春海はあくまで本業は棋士なので、そっちの研究も大変だったはずなのですが、よくも天文学の研究までやれたものです。まあ大分頭の良い人ではあったんでしょうね。そもそも授時暦はかなり数学の知識がないと理解できなかったようですし。