教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

11/10 サイエンスZERO「日本の"お家芸"サンプルリターン 世界初!火星の月探査へ」

火星の衛星を探査するMMX

 はやぶさ2で世界を湧かせた日本の宇宙探査であるが、その技術を活かして、次は火星の月の探査を試みているという。

 MMXというこの計画は2020年の半ばに探査機を打ち上げ、火星の衛星であるフォボス・ディモスのどちらかに立ち寄ってサンプルを採取して戻ってくるという意欲的な計画である。火星の月の探査を行うのは、地球が水を持つことになった経緯が火星の月の探査で判明するかもしれないということがあるという。

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フォボスとディモス(出典:東工大HP、元画像はNASAのものらしい)

 

火星の衛星生成の捕獲説と衝突説

 太古に地球が生成した際には、地球の原料となった岩石は重力が弱いために水を保持できなかったと考えられるという。だから地球が生成した後に太陽系の外側からやって来た小惑星などによって水が持ち込まれたのではないかと考えられている。

 火星の衛星はこの時代の小惑星の名残であると考えられることから、この衛星を探査することで地球の水の由来が判明するのではないかということである。

 ただこの考え方には難点もあるという。フォボスとディモスは共に火星の赤道面とほぼ同じ軌道を通るが、外側から飛来した小惑星が捕らえられたとしたら、その方向は赤道面に沿うとは限らずあらゆる方向を向く可能性がある。二つの小惑星が共に赤道面上になる可能性は限りなく0に近くなってしまうのだという。

 これに対して火星の衛星は火星にある程度大きな小惑星が衝突した時に、破片が飛び散ったものの名残ではないかという衝突説もあるという。この両説を検証するためにもサンプルを持ち帰って地球で精密な測定を行うことが重要なのだという。

 

探査機にとって重要な着陸とサンプル採取技術

 さてその探査機であるが、打ち上げ時重量は4トンもあるという巨大なものである。これが宇宙に上がった後には燃料タンク部分を放棄し、残りの部分が衛星に着陸するのであるが、これがなかなか技術的に困難なのであるという。というのは衛星の重力が極めて小さいため、表面でバウンドしてしまって体制を崩してしまう危険が高いのだという。

 着陸時の衝撃の99.96%を逃す必要があるという。このための鍵となるのは衝撃吸収剤である。今回用いられるのはアルミを3Dプリンタでハニカム状に整形したものである。適切なものを設計するために穴のサイズなどを様々に変更しての実験が行われているという。

 なお着陸は場所を変えて2回行うとのこと。これは余計に大変である。またサンプルの採取は筒のようなものを表面に打ち込んで10グラムぐらいのサンプルを採取したいとしている。はやぶさ2のサンプルが0.1グラムなので、画期的な量である。これだけの量を採取すると「外からの塵がたまたまそこにあった」という可能性を排除できるので、信頼性が非常に高いことになる。ただ問題は表面がカチカチの岩石だった場合、こうだとサンプルが採取できないので、表面を探査して着陸場所を選ぶ必要があるという。ただし表面に着陸すると火星の影に入って電源を喪失してしまうまで3時間ほどなので、その間にすべての作業を終了する必要があるというから、時間との闘いでもある。

 

 以上、サンプルリターンでは世界をリードすることになった日本が取り組む新プロジェクト。是非とも成功して欲しいものであります。にしても、2020年の半ばに打ち上げるということは、もう既に大分建造に取りかかっているということでしょうか? 番組ではまだ様々な細かい仕様が検討中の印象を受けましたが?

 

忙しい方のための今回の要点

・はやぶさ2の成功で、サンプルリターンに関しては世界をリードすることになったJAXAが、次は火星の衛星からサンプルを採取するMMX計画を検討中である。
・火星の衛星の探査では地球の水の由来が判明することが期待されている。
・探査機は衛星表面に着陸することを予定しているが、重力が小さいために表面でバウンドしないよう、衝撃吸収剤が重要である。現在は3Dプリンタで整形したアルミを使用する計画である。
・またサンプル採取には金属製の筒を表面に打ち込み、10グラム程度のサンプルを採取することを目指している。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・今も昔も日本が特に長けているのはロボット技術ということですかね。探査機も一種のロボットみたいなものですから。

 

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