教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/7 BSプレミアム ダークサイドミステリー「発見!?ナチス黄金列車の謎~奪われた財宝の闇伝説~」

ナチスの黄金列車発見!?

 2015年の8月、ポーランドでナチスの黄金列車が発見されたのではという報が世界を駆け巡った。これは大戦末期にナチスが黄金などの財宝を300トンも積載した列車が埋められていたのではというのである。

 問題の町はポーランドの国境近くの町・バウブジフ。この町に住む住民には黄金列車の存在を疑わない者が多いという。列車発見の根拠となったのは地元のトレジャーハンターによるレーザー画像。それを見ると線路脇の地中に列車を思わせるようなシルエットが浮かび上がっている。

 

ナチスによる「略奪経済」

 そもそもこのような黄金列車伝説が登場するのには根拠があるという。それは実際にナチスが占領地などで略奪した黄金などの財宝を列車を使ってドイツ本土に輸送していたからだという。

 実際にナチス崩壊後には各地でナチスの隠し財宝が発見され続けている。2014年にドイツの北部のリューネブルクでは地元民が大量の金貨(550万円相当)を発見したという事件も発生しているという。金貨の入った袋を封していたと思われるアルミ製の封印にはナチスの鍵十次が描かれていた。終戦直後には岩塩坑から100トンの金塊(5000億円)が発見されたこともあるという。

 ナチスは周辺諸国を占領するごとに、その国が有する金などの財宝をドイツに輸送し、それを戦費に充てていた。侵略しては略奪し、その金で軍備を整えてはまた侵略するというまさに略奪経済で国を回していたのだという。

 

ユダヤ人に対しての略奪

 そしてナチスの略奪は国外だけではなく、国内ではユダヤ人を対象に行われた。まずユダヤ人は全財産の25%を税として差し出すことが要求された。そして最後には身ぐるみはがれて収容所で処刑されたのだという。ナチスの支配下に入ったハンガリーでもユダヤ人に対して同様の措置が行われた。

 当時の生き残りの一人は非人道的な命令に従順に従った両親の姿を覚えているという。宝石を隠していることを疑われた彼女の父は、宝石など持っていないにもかかわらず、差し出すためにわざわざ宝石を買いに行ったのだという。また「後で返すのに必要」と言われて財産のリストをつけられたという。

 政府は財産を実際は押収していたにもかかわらず、後で返すといっていたのだという。またユダヤ人の方もここで従っておけばこれ以上のひどい目には遭わないと信じていたという。しかしそれは全くの幻想で、彼らは収容所送りになりほとんどが殺害された。先ほどの生き残りの女性も「家族はどこだ」と聞いたところ「お父さんもお母さんも妹も、その煙の中」だと言われたという。略奪品は一旦ハンガリーの国庫に納められてから、列車でドイツに輸送されることになったという。

 

略奪の連鎖にあった黄金列車の顛末

 しかしこれは大戦の末期であった。ハンガリー政府はソ連軍による略奪を恐れて国の財産をドイツに送ることにしたのだが、当のドイツの方にも連合国軍が迫っており、最終的には行き場をなくしてしまったのだという。その間に列車の指揮官のハンガリー憲兵隊のトルディ・アールバード大佐が大量の財宝を持ち逃げするという事件が発生、その後もナチス崩壊後のドイツ兵の襲撃による略奪にもあい、さらには民間人や鉄道関係者まで略奪に加わったという。列車の指揮官達はアメリカ軍に降伏するという苦渋の選択を行うが、今度はアメリカ兵による略奪まで行われたという。最終的に出発時から半分の財宝が奪われたことになるという。このアメリカ兵による略奪は最終的にクリントン政権が調査し、アメリカ政府はその犯罪行為を認め、ユダヤ社会に賠償されたという。しかし元の持ち主にこれらが返ることはない。

 ちなみに冒頭のポーランドでの黄金列車だが、掘り返してみたもののあったのは古い線路の資材だけで財宝は何もなかったとのこと。

 

 人間がいかに醜くなるかを象徴している事件である。なお番組のゲストによると人間を無理矢理に従わせる時の段階として、服従、同調、同一視の3段階を挙げていた。服従は「自分は不本意」の感覚があり、同調もやはり少し「不本意」の感覚は残っているという。しかし同一視は嫌なことを美と感じるようになるのだとか。一般市民は初めは「ユダヤ人は気の毒だな」と感じているが、それを繰り返す内に「やっぱりユダヤ人は悪いしな」と正当化するようになるのだという。これこそまさに現在の安倍支持者の状況である。自分は従順に従っているからひどい目に遭うことはないだろうと、財産没収されて収容所送りとなったユダヤ人のような根拠のない信頼を持っているわけである。自らも虐げられる対象に入っているにもかかわらず、それに同調する安倍支持者は後の世に心理学的分析の教材となるだろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・2015年、ポーランドでナチスの黄金列車が発見されたのではとの報が世界を駆け巡った。
・このような話題が登場するのは、実際にナチスは占領した諸国から財宝を略奪し、それを戦費に回すという略奪経済を実行していたからだという。
・同様に国内ではユダヤ人を対象に徹底した略奪を行い、その挙げ句に多くのユダヤ人を処刑した。
・ハンガリーでも大戦末期に略奪した財宝を積載した列車がドイツに向けて出発したが、ナチスの崩壊で行き先をなくす中、司令官やドイツ兵の略奪に合い、最後はアメリカに降伏したものの、アメリカ兵による略奪にまであった。
・ちなみにポーランドの黄金列車は実際に掘ったものの見つからなかったという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・戦争というものは人間のあらゆる醜さというものが極限状態で発露してしまいます。正気を失わない者は殺され、生き残った者は狂気に支配されるなどとも言います。略奪を認めて物欲を刺激することで、兵を命がけの異常状態に向かわせるというような類いの事を言っていましたが、それは古今東西変わらないところ。それが戦争の本質です。

前回のダークサイドミステリー

tv.ksagi.work