教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/5 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「麒麟たちの健康問題」

 「麒麟がくる」がようやく放送再開なったが、それと連携してかあのドラマにも登場した武将たちの健康に纏わる情報のSP。

 

斉藤義龍をむしばんだ難病が父殺しの原因となった

 まず最初に登場するのはあの時代でさえ珍しいと言われた親殺し(親を追放した例は武田信玄を始めとして多いが、流石に殺した例はほとんどないらしい)をした斉藤義龍。彼が父殺しにまで及んだのは彼の持病が影響しているのではと言う。

 義龍は道三を殺害した5年後に33才で急死している(「麒麟がくる」ではまさかのナレ死である)。死因については奇異の患いありと記されているという。義龍の持病であるが、彼は循環器系の病を抱えていたらしく、日頃から息相之薬と呼ばれる烏賊骨(コウイカの骨による生薬)を服用していたという。カルシウムによって循環器系を整えるのだという。

 しかし義龍にはこの薬が効いているようではなかった。ここで義龍に考えられる病はマルファン症候群だという。これは国の難病にも指定されている珍しい病気で、細胞同士を結びつけるタンパク質に変化が起こり、細胞の結合が弱くなることで様々な症状が現れるのだという。そしてこの病気を患った者は「背が高い」という特徴があるという。義龍は身長が6尺5寸(195センチ)という平均身長155センチぐらいの当時としては異例の高身長で、馬にまたがると足が地面に付いてしまったという話まであるという。マルファン症候群を発症する人の3/4は遺伝性で、残りが突然変異の遺伝子異常だとのこと。一説によると義龍の母親も身長が180センチあったと言われており、これが本当なら遺伝の可能性が高い。

 マルファン症候群は子供の頃には背が高くて関節が柔らかいぐらいで特に異常は現れないが、成長するにつれて背骨が曲がる骨格異常や脳の硬膜拡張による頭痛、網膜剥離などの視力障害、さらには気胸などの症状が現れるという。そして怖いのが心臓につながる血管が脆くなって大動脈解離などの突然死につながる病気を発症することだという。この症状が出れば30代で突然死してしまうと言う。現在でも根治療法はないが、対象療法で生きながらえることは可能だという。

 若い頃には義龍には問題がなく、道三も義龍に国主の座を譲るつもりだったのだが、その後に義龍に対する道三の態度が急変しているという。これは義龍がマルファン症候群の進行で息切れなどで寝込むことが多くなり、義龍では国を保つことが出来ないと道三が考えるようになったのではないかとする。道三が義龍の弟に国主を継がせる姿勢を見せたことで、義龍は焦って弟たちを殺害する。これが父と子の取り返しのつかない対立となり、義龍の父殺しにつながったのだという。この時に道三は美濃を信長に任せるという書状を残したとされている。

 

明智光秀・織田信長・徳川家康の病気

 斉藤義龍以外にも武将が抱えていた病を紹介している。明智光秀は本能寺の変の6年前に風痢(下痢を伴う感染症)を患って「死んだ」という噂まで出たという。この風痢とは流行性胃腸炎や赤痢ではないかとしている。また短気でぶち切れやすい織田信長は隠れ心筋梗塞の疑いがある。だから本能寺の変がなくても、意外と早めにポックリいった可能性があるのではとしている。そして鯛の天ぷらで死んだと言われている徳川家康だが、食中毒としては死ぬのに時間がかかりすぎ(4ヶ月かかっている)ことから、胃がんを抱えていたのではとしている。

 

白内障の手術を受けた細川忠興

 次に登場するのは光秀のマブダチの細川藤孝の息子でガラシャの夫だった細川忠興。彼は40才を過ぎてから白内障を患い、なんと外科手術を受けたという。

 当時、馬島流医術というのが秘伝として伝えられており、その馬島流の手術を彼は受けたらしい。当時の手術器具が残っているが、皮膚を切開するのに用いられたとみられるナイフなどがあるが、非常に細い針が白内障の手術道具と推測できるという。

 その手術とは濁った水晶体を細い針を使って硝子体の中に落とし込んで除去する墜下法と言われる方法だという。明治の頃まで行われていた方法だという。水晶体を除去するので目のピント調整機能は失われて極度の遠視になるが(眼内レンズを入れる現代の方法でもピント調節機能はなくなり焦点固定である)、濁った水晶体のせいで全く見えなかった目が、ボンヤリと見えるようになることになる。ウーン考えただけでも怖い。先端恐怖症のある私は想像しただけで激しい頭痛に襲われる。

 ただ忠興は手術の甲斐なく視力が回復しなかったらしい。それどころか手術で光彩の一部の括約筋を傷つけてしまったのか、瞳孔が細長くなってしまったと文書に記されているという。この手術の成功率は3割程度だったらしい。その後も忠興は様々な眼科の薬を服用し、一時的に視力が回復したと記してあったりするが、白内障に効く薬は現代でもないことを考えると、精神的作用によるものだろうとしている。

 

スーパードクターが松永久秀に授けた独創的健康法

 この次に登場するのが戦国のスーパードクター・曲直瀬道三。彼は僧侶となって中国医学を学び、その後に40才で還俗して専門の医師となったという。当時は専門の医師の存在が珍しかった時代だが、曲直瀬道三の評判はたちまち世の中に広がり、将軍足利義輝を初めてとし、織田信長や明智光秀、毛利元就などの蒼々たる面々を診察したことがある有名医師である。彼は患者の状態に合わせて、今で言うオーダーメイド治療を行っていた。

 その曲直瀬道三から奇妙な健康法を授けられていたのが曲者・松永久秀だという。久秀が道三から授けられたのが黃素妙論。ここに記されているのは「身体に良い性交渉の仕方」だという。中身は「女性が欲情しないうちは男性はまじわってはならない」など男女ともに幸福になる性交渉の仕方。まず性交渉が身体に良いかだが、実際に射精を行うことで前立腺などの血流が良くなって機能改善につながり、前立腺ガンを抑止することかがあるのだという。また男女ともに幸せになる性交渉はオキシトシンの分泌につながり、これがストレスを緩和して免疫システムを活性化するとしている。

 と言うわけで「ナイスショット、ナイスインの生涯現役」のオッサンは長生きするということか。精力絶倫だから長生きできるのか、それとも長生きできるぐらい健康だから精力絶倫なのか。何かどこぞの怪しい性教団のようなゲスい話になってきた。このブログは格調の高さを売りにしてます(笑)ので、この辺りにしておきます。

 まあ何にせよ、松永久秀は68才で織田信長に背いて平蜘蛛抱えて自爆するまで生きたわけであるから、曲直瀬道三直伝の怪しい健康法は効果があったのかもしれない。しかしこれだと独身の私は早死に確定だな。もっとも最近の研究では独身の男性は実際に寿命が短くなることが明らかになっている。というわけで私は人生のパートナー募集中である(笑)。

 

戦国武将は歯が命? 美白将軍も登場

 この次は戦国武将の健康自慢のコーナー。まず海道一の弓取り今川義元だが、歯が丈夫だったらしい。戦国武将と芸能人は歯が命なのだろうか? で、この歯の健康に貢献したのがお歯黒だという。お歯黒に含まれるタンニンが歯をばい菌から守り、鉄分がエナメル質を丈夫にするのだとか。今川義元は単にごじゃる丸ではなかったようだ。

 次は剣豪将軍こと向井理の足利義輝だが、彼は肌が綺麗だったそうな。これは彼が運動をしていたことからマイオネクチンという物質が筋肉で作られ、これがシミの元になるメラニンを抑制するとのこと。剣豪将軍転じて美白将軍である。で、この美白将軍は恐らく次回か次々回辺りで壮絶な最期を遂げる模様。

 最後は大河でも桁違いのダメダメ感を漂わせている朝倉義景だが、彼の健康の元は庭園好きとのこと。庭園を流れる水の音などの可聴帯域外の超音波は、皮膚を直接刺激してハイパーソニック・エフェクトという健康効果を起こすらしい。御利益としては脳の最深部の基幹脳が刺激されて活性化することで、気持ちがリラックスして前向きになるのだそうな。なるほど、それで朝倉義景は前向きに織田信長に滅ぼされるのでしょうか? いやー、朝倉義景の生涯を見ていたら、前向きどころかずっと全力で後向いていた気がするんだが・・・。

 

キリスト教で鬱病から生還した細川ガラシャ

 最後は明智光秀の三女で細川忠興の妻となった玉子こと細川ガラシャ。彼女は忠興と仲睦まじい夫婦だったのだが、その結婚生活は4年で親父の暴走で暗転。忠興は玉子を守るためもあって離縁して山奥に幽閉するのであるが、2年後に忠興が秀吉の許可を得て玉子と復縁した時には彼女は見事に鬱病になってしまっていたという。屋敷に玉子を呼び寄せた忠興は彼女を屋敷に幽閉したと言われているが、これも実は玉子の身を案じてのことだったのではとこの番組はしている。

 しかし玉子の様子はよくならず、夫婦の間でも諍いが増える。それと共に忠興まで病んだのか家臣を手討ちにするなどの異常行動が出るようになったという。結局は玉子が救われたのはキリシタンとなってガラシャとなってから。キリシタンとなったことによって、自分が受け入れられたという気持ちが出て、それが彼女の鬱病を回復に向かわせたのだろうという。それと共に夫婦仲も修復されていったという。その後、関ヶ原の合戦の時、彼女は忠興の妨げとならないように家臣に自らを殺害させる形で自害する。

 

 以上、麒麟絡みのオンパレード。一本ではしんどいネタを総集編にしたという気もしないではない。

 斉藤義龍の病気は私も初めて聞いた病気です。しかしこうして説明されると実に説得力がある。とにかく義龍は健康に問題があったのは間違いなく、道三が健康面に問題のある跡継ぎを廃嫡にしようとしたのもあの時代としては普通にあること。ここで義龍があっさりと家督を諦めて仏門にでも入っていたら歴史も変わりましたが(義龍の弟が美濃をしっかりと押さえていたら信長の出る幕がない)、義龍の方もプライドがあったのでしょう。自分の身体が万全でない自覚はあったかもしれませんが、まさか5年で死ぬとは思ってなかったでしょう(にしてもナレ死はひどい扱いだ)。結局は後を継いだ若輩龍興ではどうにもならず、美濃は自壊するに近い形で信長に乗っ取られます。

 細川忠興が受けたという手術、考えるだけでも恐ろしいです。正直なところ私は現在の手術でも果たして受けられるかどうか疑問を持っているのに。実のところ私は白内障を薬で治す方法が登場することを望んでいます。タンパク質の変性だろうから、難しいとは思うが。

 松永久秀についてはコメントはありません(笑)。まあ昔から「英雄色を好む」などとも言いますが、絶倫男は身体が丈夫でないと無理です。

 最後の細川ガラシャは以前にこの番組で放送していたような気がしたのですが、バックナンバーを読み返すと登場したのは「英雄たちの選択」ですね。まあ親父が天下の大罪人となって一族全滅なんて境遇になれば、鬱病ぐらい発症するのもまあ当然といえば当然。あれも一旦発症するとなかなかしつこいですから。結局はキリシタンになって神父などと会話することが一種のカウンセリングになった可能性はある。もっとも玉子がキリシタンとなってみるみる回復していったという話は宣教師側が記している記録だから、かなり割り引いて聞いておく必要もあるが。

 

忙しい方のための今回の要点

・斉藤義龍は細胞同士の接続が弱くなる難病、マルファン症候群を患っていた可能性が高いという。若い頃には特に異常が出ないのだが、やたらに長身となって骨格異常や気胸などを発症することがあるが、循環器系などに障害が出ると若くして亡くなるケースが多い病気だという。
・道三は義龍の病気のために美濃の先行きを案じて、家督を弟に譲ろうと考えるようになったのが義龍の父殺しの原因ではないかとしている。
・細川忠興は40代で白内障を患い、手術を受けている。水晶体を硝子体の中に落とし込む墜下法という明治まで行われていた手術法だが、残念ながら忠興の場合にはうまく行かなかったようである。
・松永久秀は戦国のスーパードクター・曲直瀬道三から、性交渉で健康を保つための秘訣を教わっていた。
・細川ガラシャは幽閉生活の間に鬱病を患い、それが原因となって夫婦仲もギクシャクするようになったが、キリシタンとなることで心の支えを得て回復した。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・「麒麟がくる」は再開したかと思えば、早速台風で流れてしまいました。一体これからのスケジュールどうなるんだろう? 台風を口実にこれ幸いとさっさと中止したところを見ると、撮影の方もかつかつのようだし、全何話で完結させることになったのか。もし年内までだったら、今後の展開がかなり怒濤の急ぎようになってしまう(まさかの本能寺での信長がナレ死とか(笑))。次の大河(渋沢栄一だとか)の政策発表はもうなされたらしいのだが。