EUが打ち出した2035年ガソリン車販売禁止の方針
温室効果ガスの問題で、ヨーロッパの自動車メーカーを中心に、各社が急激に電気自動車へ舵を切りつつある。しかしこのEVシフトに乗り遅れている感のあるのが日本。EUでは既に2035年にはガソリン車の販売を事実上禁止する方針を打ち出している。事実上の日本メーカー外しだとも言われているが、日本のメーカーは明らかに後手を踏んでいる。
EVシフトの中心がフランス。売れ筋は400万台ぐらいの車だそうだが、政府は最大100万円を超える補助金を出してEVへの切り替えを促進しているという。昨年には11万台以上が販売されている。充電スタンドの整備も進み、この1年で60万基以上に倍増しているという。利用料金は15分で70円からとのことで非常に手軽である。
EUの自動車メーカーには2030年までに販売車をすべてEVにすることを打ち出しているメーカーもある。その中でルノーが脚光を浴びている。日産と提携して開発した新車は470キロという走行距離を誇る。ポイントは新型バッテリーで、従来よりも体積が40%減少したにもかかわらず、車1台分で充電量は15%増加したという。30分の急速充電でも300キロ走れるという。技術のポイントはバッテリーの温度管理だという。膨大なデータに基づいて最適な温度にバッテリーを保つのだという。政府も補助金を投入してEV化の流れを促進している。
EVシフトの奥に見える主導権争いと日本の現状
EUとしては環境を守るという看板を掲げながら、新たな技術分野で世界をリードしようという魂胆も見えている。このEV市場で先頭を走っているのがテスラだが、アメリカでも充電ステーションなどのインフラ整備を進めているという。そしてテスラを追随しているのが中国勢である。1台50万の低価格車なども売れている。中国では2025年前でに新車販売の20%をEVなどの電動車にする目標を掲げている。
それに対しては日本はEVの販売台数では大きく水をあけられている。ルノーと提携している日産が辛うじて7位にランクしているが、そのためのメーカーはホンダが34位、その他は40位以下で、世界一の自動車メーカーであるトヨタでさえ41位である。
EVに舵を切ったホンダと懐疑的なトヨタ
そんな中でホンダが本格的にEVに舵を切った。2040年までにガソリン車をゼロにしてすべてをEVやFCVに切り替えるという方針を掲げたのである。ホンダの開発会議でも競争力を持つには航続距離が鍵になると認識している。去年初めて販売したEV車が航続距離の短さで苦戦しているということもあるからだという。ホンダでは命運を賭けて全固体電池に力を入れている。各社も開発に力を入れているが、まだ開発に成功したメーカーはないという。現在のところEVの航続距離を1.5倍にするところまでは成功したという。2020年中に全固体電池を実用化するのが目標である。
さらにホンダは燃料電池車(FCV)の開発も進めている。水素を燃料として発電するFCVは航続距離は700キロとガソリン車に匹敵し、燃料補給にかかる時間もわずか3分。インフラが普及して割高な価格が低下したら世界市場を狙える可能性はある。
最大の自動車メーカーであるトヨタは極端なEVシフトには警鐘を鳴らしている。日本はEV普及の環境が整備されていないという。日本の充電スタンドは3万基程度しかなく、しかも昨年は設備の老朽化で減少に転じたという。また日本では火力発電が75%であり、原子力と再生可能エネルギーで90%以上を賄っているフランスとは事情が異なり、電気自動車が増えたことで火力発電所が増加することになったら意味がないというのである。これには政府の対応が必需だが、政府は充電スタンドを2030年までに5倍にすることと、エネルギー問題にも対応するとは言っている。
対応を迫られる部品メーカー
一方で部品メーカーの日本電産では中国で勝負を賭けている。EV用のモーターシステムを中国に売り込んでシェア1位を取ったという。日本では商談がなかったから中国に行ったという。中国ではメーカーから突きつけられる厳しい条件に対応している。このままでは日本はガラパゴス化するのでは警戒しているという。
EVシフトの結果についてドイツで出されたレポートでは、現在の自動車産業関係の労働者160万人の内、EVでは部品数が減少するために30万人の雇用が2030年までに失われる可能性があるという。ドイツでは既に労働者の削減が始まっているという。エンジン部品メーカーで廃業を決めたところなども出ているという。同じような影響は日本でも起こるのは必至で、自動車関係の労働者は550万人いるが、最悪の場合この内の100万人に影響が出るという試算もあるという。仕事が先細りになっている部品メーカーは異業種への参入での生き残りを図ったり、事業の継続を断念するところも出てきている。
急ピッチのEVシフトを警戒するトヨタは水素エンジン自動車の開発に乗り出している。これだと従来のエンジンの技術を使えるために下請けメーカーなども守れるのだという。その一方でトヨタもEVの開発には乗り出しており、水素エンジン車、EV、ハイブリッド車、FCVを同時開発していることになる。これらを地域に合わせて売り込んでいこうとしている。
一方でルノーは車の製造工程でのCO2の削減までを進めている。製品の製造から廃棄に至る生涯でのCO2排出を考えるライフサイクルアセスメントに対応するためだという。
トヨタがEVに対して対応が遅いのは当然で、そもそもトヨタはハイブリッドで天下を取ったので、ハイブリッドの土俵で戦う限りは無敵である。だから本音はこのままハイブリッドの時代を続けたいわけである。一方のEUはそれが分かっているから、一気にEV時代に舵を切って土俵を変えるという戦略をとったわけで、環境意識が根底にあるのは事実だが、それだけの綺麗事ではないも間違いない。
しかしEVシフトは環境保護の大義名分に従っているので、まず間違いなく世界の潮流になりそうである。トヨタは政治力を発揮して、国内だけでもハイブリッドの存続を図っているように見えるが、それは筋の悪いやり方である。メーカーが政治力に期待をかけるようになったら末期である。自動車の燃費競争に敗れて落ちぶれたアメリカの自動車メーカーは、政治力で各国に自動車を押し売りしようと試みたが、結局はそれはうまくいかずにメーカー自身の地位がさらに失墜することとなった。下手したらトヨタがその道を歩みかねない。
なお技術的に見たらEVはガソリンエンジン車より構造が簡単なので、新興メーカーが出てくる余地がある。例えば電源管理のノウハウを持つ電機メーカーなどに参入の余地がある。そういう点では日本の自動車メーカーと電機メーカーが提携するという可能性もあるのではと私は考えている。将来的にトヨタとPanasonicが合弁でEVを作るなんて展開もあり得るのではと言うのが私の読みである。
忙しい方のための今回の要点
・EUでは2035年にガソリン車の販売を全面的に禁止するという方針を掲げており、メーカーの方もすべての自動車をEVに切り替える方向に舵を切っている。
・特にフランスは国策としてEVシフトを進めており、ルノーでは国の補助も受けてEVの開発に注力している。また国内のEV用の充電ステーションなどのインフラ整備も急速に進んでいる。
・しかし日本のメーカーのEVへの対応は鈍く、EVの売り上げはルノーと提携している日産が7位に入っている以外は、いずれも40位前後の下位に沈んでいる。
・そんな中でホンダは将来すべての車をEVに切り替える方針を打ち出した。その一方でトヨタは急速なEVシフトには疑問を呈している。
・実際にEVシフトは部品数の減少などで自動車産業の労働者の大量の失業につながる可能性が指摘されており、既に部品メーカーの廃業なども始まっている。
忙しくない方のためのどうでも良い点
・綺麗事だけではないかなり難しい問題です。環境保護だけだと単純なんですが、そこに商売が絡んでいるからややこしい。ただトヨタの方針は理屈では理解できますが、恐らく世界的には通用しないだろうな。「自社の利益だけを優先している」と言われたらそれまでだから。