教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

3/31 BSプレミアム ヒューマニエンス「"絶滅人類"ホモ・サピエンスを映す鏡」

滅んだ人類たち

 現在の人類はホモ・サピエンスと呼ばれる我々のみである。かつては猿人から一本の線で徐々に進化したと考えられていた人類であるが、実はもっと多岐多様に分岐し、数種の人類が並列して存在していたことも最近の研究で分かってきた。では、なぜ現在我々ホモ・サピエンスしか残っていないのか。他の絶滅した人類はどうなったのか。

 まずなぜホモ・サピエンスのみが生き残ったのか。ホモ・サピエンスは「賢い人」という意味だが、確かに古代の遺跡からはホモ・サピエンスが独自の文化を有していたことが分かっている。しかし賢いから生き残ったというのは間違いだと指摘する研究者がいる。

 マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授によると、ホモ・サピエンスの殺戮によって他の人類が絶滅した可能性があるという。30万年前にはユーラシア大陸にはジャワ原人や旧人、さらにネアンデルタール人などが存在した。そこにアフリカで誕生したのがホモ・サピエンスである。それが5万年前にアフリカから移動を開始する。するとホモ・サピエンスが移動した先から他の人類が絶滅していくのである。これらにはホモ・サピエンスが関与したとしか考えられないという。

 一方で絶滅の要因はホモ・サピエンスにあるが、必ずしも殺戮ではないと唱えるのが東京大学の海部陽介教授である。彼はホモ・サピエンスが資源を独占することで他の人類が絶滅したと考えている。実際にホモ・サピエンスが拡大すると共に、大型動物の絶滅が見られるのだという。ホモ・サピエンスの狩りによって食糧資源を独占することになり、他の人類が食糧不足で絶滅してしまったのだという。ホモ・サピエンスには賢いヒトという面だけでなく、欲張りなヒトという一面もあると言う。つまり太古から我々は環境に負荷をかけていたのではという。ホモ・サピエンスは浪費型人類でもあると言う。

 

 

我々を浪費型人類にした脳の進化

 では私たちが浪費型人類へと歩み出したキッカケはどこにあるか。それは200万年前にあるという。この時、我々の祖先に当たるホモ・ハビリスと別種のパラントロプス・ボイセイが併存していた。彼らは乾燥期の食糧が不足する時代を体験しており、そこでの生存戦略が運命を分けたのだという。パラントロプス・ボイセイは極めて強靱なあごの筋力を有しており、硬いものを食べられるようになったという。彼らは土中のヤムイモやタイガーナッツなどの根茎類を生のまま咀嚼できるように進化したのだという。パラントロプス・ボイセイの噛む力は我々の倍以上の咀嚼力を持っていたと推測できるという。一方のホモ・ハビリスは肉食獣の食べ残しを食べていたが、この時に石器を歯の代わりに使用したと考えられるという。この肉食が脳の増大につながったという。パラントロプス・ボイセイは脳の容量が500ccであるのに対し、ホモ・ハビリスは600cc以上と既に差が生じている。さらに進化したホモ・エレクトスでは800ccを超える。そして脳の増大と共に狩りによって積極的に動物の肉を手に入れるようになり、また火を使って集団生活をするようになる。肉食が脳の大型化を促したのだという。結果として食べ物のバリエーションの増えたホモ・ハビリスの末裔が生き残ったのではという。

 

 

我々の中にいるネアンデルタール人と、意外な進化をした人類

 さて滅んだ絶滅人類なのだが、実は我々の中に存在しているというのである。ホモ・サピエンスの拡大と共に絶滅したネアンデルタールだが、2010年にネアンデルタール人と現代人のDNAを比較したところ、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人と交配していたことが分かったのだという。アフリカから出たホモ・サピエンスはネアンデルタール人と交配し、その末裔が世界に広がったのだという。また流産のリスクを減らすPGR遺伝子はネアンデルタール人に由来しており、ネアンデルタール人が現代人の繁栄を後押しした可能性があるという。

 一方で極めてユニークな絶滅人類も存在するという。人類の脳がドンドンと大きくなっていった中で、逆に脳が小さくなった人類が存在するのだという。その人類はインドネシアのリャン・ブア洞窟で2003年に発掘されたホモ・フロレシエンシスである。頭蓋骨が非常に小さく、脳の容量は426ccとホモ・サピエンスの1350ccの1/3ほどである。身長も110センチとかなり小柄であった。しかしそれにも関わらずかなり高い知性を有していたことが石器などから確認されている。海部教授は、この人類は大陸のジャワ原人が島に渡って島嶼効果で小型化したのではと推測している。つまりは脳が大きくなっていくということは決して進化の必然ではなかったという。さらに言えば、脳の能力とは大きさではないのではないかという。

 

 

 なお地球に人類が多すぎることを考えたら、将来的に人類が小型化したり、もしくは科学の力で小型化させるなどと言うことがあり得るのではと織田裕二氏が語っていたが、まさにそれをする映画が存在した記憶が・・・。なお地球人は小型化された人類だったというのが「マクロス」だった。プロトカルチャー・・・。

 と言うわけで今回は絶滅人類についてだが、実際にネアンデルタール人は絶滅したと言われているが、ホモ・サピエンスと形態的にも違いはあまりなく、紛れ込んでいても分からないと言われているらしいから。交配したと言われたから非常に納得できる。なおNHKでよく登場するネアンデルタール人の復元が、どこからどう見ても普通に今の欧米人に見えるのだが・・・。実は彼らの血を濃厚に受け継いでいるのが欧米人なのではと言う気がしてならない。そもそもネアンデルタール人は北方系という話もあるし。

 知性が必ずしも脳の大きさと相関しないとなれば、動物の知能についての検討がまたややこしくなる。イルカが知能が高いと言われているのは脳の容積も関係しており、だから牛はバカだから食っても良いがイルカはダメなんてことを決めつけているが、実は牛がかなり高い知性を持っているという可能性は存在するのである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人類の進化は一本道ではなく、実は多種多様な人類が分岐して絶滅を繰り返しており、最終的にホモ・サピエンスだけが生き残っている。
・他の人類の絶滅にはホモ・サピエンスの拡大が影響した可能性が高いという。直接的にホモ・サピエンスが他の人類を殺戮したという説から、ホモ・サピエンスが食糧資源を独占してしまうことで結果として他の人類を絶滅に追いやったという説などがある。
・そもそもホモ・サピエンスは知性が高いだけでなく、欲深いという性質も持つ。それは我々がエネルギー浪費型の巨大な脳を持つことと関係しているという。
・200万年前、地球が乾燥期になって食糧が不足した時、パラントロプス・ボイセイはあごを強靱化して根茎類などを生のまま咀嚼できるように進化したのに対し、我々の祖先であるホモ・ハビリスは石器で骨などを砕き、死肉を漁るようになったという。
・結果としてそのような肉食が脳の巨大化を促し、そのことがより石器の開発などに有利につながり集団での狩りや火の使用などが始まり、それによって食物の選択肢が増えたことが我々の祖先が生き残った理由だと推測されている。
・一方でインドネシアのリャン・ブア洞窟で2003年に発掘されたホモ・フロレシエンシスは、ホモ・サピエンスと同時代に生存していたのに、脳の容積は1/3ほどしかなかったという。
・それにも関わらず彼らは高い知性を有していたという。元々はジャワ原人が島嶼効果で小型化したのではと推測されているが、一概に脳の巨大化が生存に有利とは言えない証拠でもあるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・脳が巨大化することが必ずしも良いとは言えないというのはなかなかに衝撃的でした。実際に脳って、生物的に見れば非常にエネルギー浪費の激しい臓器なんですよね。だから生存に必要な機能だけ残したら、小型化した方が有利と言うこともあり得る。
・なお本文中で「人間を小型化すると言う映画が記憶にある」と記しましたが、少し調べたところによると、そのものズバリの「ダウンサイズ」という映画のようです。

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