教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/5 BSプレミアム ヒューマニエンス「"膜"それは生命の真理」

生命進化の鍵"膜の"柔軟性

 この春の番組改編でどうやら火曜日に放送時間が移動した模様。そう言うわけで先週に引き続いてという印象ですね。

 で、今回のテーマは膜。膜と言っても細胞膜から臓器の膜までいろいろなレベルの膜があるが、生命にとっては膜とは内と外を区分するためのもの。その膜の役割に生命にとっての重要な要素が含まれているという話。なお膜に注目して進化を考えるという思想は19世紀からあったという。実際に膜は臓器の細胞をまとめたり、その位置を定めたりするのに働いており、生体の構造そのものである。

 さらに我々の進化においては膜の柔軟さが非常に大きな役割を果たしたという話が出てくる。それは40億年前に誕生したそもそもの生命は単細胞生物で、それらは非常に固い細胞壁を有していた。しかしそれが進化の過程ではずれて柔軟な膜に変化する。そしてそのことが生存と進化に決定的な役割を果たす。我々の細胞の細胞膜は脂質分子から出来たものであり、柔軟に切れたりつながったりが出来る。そのために外部のものを取り込むと言うことが可能なのだという。

 それが決定的な役割を果たしたのが20億年前。この頃になるとシアノバクテリアの増加によって水中の酸素濃度が増加したという。この酸素は生物にとっては毒なのであるが、我々の祖先はミトコンドリアを体外から取り込むことで、酸素をエネルギーとして使用することが出来るようになったのだという。また膜が柔軟性を持つことで、その膜が内部に入り込むなどで核が誕生したという。細胞内の様々な器官は膜によってできている。

 

 

臓器を形成し、陸上生活への適応、人の進化にも膜

 また細胞が集まって臓器を作る時に基底膜という細胞の足場となる膜が存在するという。この基底膜のおかげで臓器の形ができるのだという。さらにはこの基底膜は細胞のつくべき場所まで決定しているという。基底膜のタンパク質に番地のような情報が刻まれていて細胞はそれに従って配列するのだという。だから膜は多細胞生物に不可欠であるという。

 生物進化において生物が陸上に上陸する際にも膜は大きな役割を果たしている。完全に陸上生活に適応したは虫類、鳥類、哺乳類のみが羊膜を持っている。このことからこの3種を羊膜類と呼ぶ。羊膜は胎児を羊水で包むための膜で、これができたから生物は水辺から離れることができたのだという。ただしここで問題となったのが胎児の排出する老廃物の処理。水中だと水に溶かしてそのまま環境中に放出できるが、陸上ではどこかに溜めておく必要がある。そのための装置が尿膜絨毛膜だという。この膜は老廃物を溜めるだけでなく、栄養のやりとりなどもするのだという。

 また人の進化のために不可欠だった膜が存在する。それは横隔膜だという。横隔膜は身体の中を胸と腹に分け、横隔膜が動くことで呼吸をサポートしている。このおかげで哺乳類は呼吸しながら全力疾走ができるのだという。は虫類はこれがないために走ると内臓が動いて呼吸が圧迫されるので、長距離を走ることができないという。

 さらに我々人類は直立歩行するようになったことで横隔膜は上下に動くようになった。このことで横隔膜の制御がやりやすくなり、それが人が呼吸を制御して自由な発声ができるようになったのだという。つまりは人間が高度な社会を形成するのに横隔膜が大きな役割を果たしたのだという。

 

 

 以上、生物の進化と膜の話。内容としては面白いのだが、ただ膜という括りがかなり突拍子もないものに見えたのは事実。ミトコンドリアが他の生物を取り込んだものだったと一番始めに聞いた時には驚いたものだが、それも膜の柔軟性があってこそということのようである。ただ1つ気になったのは、そのように柔軟性を持って体外からの取り込みによって多細胞生物へ進化した生命であるが、植物は細胞壁を持ったままである。これは原始生命からそのまま細胞壁を失わずに多細胞化したのか、それとも一旦失った細胞壁を再び確保したのか? どうもその辺りが少々しっくりこない。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・生命進化において膜が果たした役割について注目する。
・膜は臓器などの細胞を区分けする役割を果たしているが、生命進化においてはこの膜が柔軟性を持ったことが非常に大きな役割を果たしたという。
・20億年前、しあのバクテリアの繁殖で水中の酸素濃度が急激に増加した。酸素はそもそも生命には毒なのであるが、我々の祖先はミトコンドリアを体外から取り込むことで、酸素を活用するように進化できた。それは膜の柔軟性が効いている。
・また臓器の形成には基底膜と呼ばれる足場となる膜が重要な役割を果たしている。この基底膜にはタンパク質で細胞が配置するための番地のようなものが刻まれており、これのおかげで臓器を形作ることができるのだという。
・さらに生命の陸上進出において重要な役割を果たしたのが羊膜。これがあるおかげで水辺から離れて繁殖が可能となった。
・また人類の進化にとって重要だったのは横隔膜だという。横隔膜は呼吸を助けるが、人間は直立歩行によって横隔膜を上下に動かすので、より細かい呼吸のコントロールが可能となり、それが発声につながったという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・膜という突拍子のない話でしたが、なかなか面白くはあったところ。ただ細胞膜から始まって、羊膜、横隔膜と来るのはいささか脈絡がない感は強かったが。

前回のヒューマニエンス

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