教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/8 NHKスペシャル「超・進化論3 すべては微生物から始まった」

様々な能力を持つ多様な微生物

 植物、昆虫と続いたこのシリーズだが、今回は微生物である。無数に存在する微生物には進化の過程で様々な能力を持つ多種多様なものが存在している。

 がん治療に使用できるのではないかと注目されている微生物がある。そもそもがん細胞は急激に成長するせいで血管が通っておらず酸欠の状態である。抗がん剤を内部に届けて働かせるのが非常に難しいのである。そこで目をつけたのがクロストリジウムという普段は口の中に存在する微生物。これは酸素を嫌い、土の中に住んで脂肪を分解する酵素を出している。これを利用するのだという。

 具体的にはまず血管にクロストリジウムを入れる。血中は酸素が豊富であるが、そこでクロストリジウムは鎧のような物を纏って身を守る。そして酸素が少ないがん細胞にたどり着くと本来の姿に戻って大増殖し、ガン細胞内の栄養分を使用して酵素を生産してがん細胞を破壊するのだという。実際にこの治療で腫瘍が劇的に減少するケースが見つかったという。なおこれ以外にも数種類の候補があり、臨床試験が行われているという。

 また環境問題の解決に微生物を使用することも研究されている。微生物にプラスチックを分解させるのである。実際にプラスチックを分解する酵素を出す微生物も発見されている。微生物の特徴は世代交代が早い上に突然変異が発生するために進化のスピードが極めて速いことである。それがあらゆる能力を獲得する原動力となっている。

 

 

微生物が動物を操る

 微生物が実は思考を持っているのでは・・・と思わせるのが脳を操る寄生生物トキソプラズマの存在。この微生物は寄生した動物の行動を操る。ネズミや人間の行動を変えてしまう能力を持つのだという。4区分したケースの中にネズミを入れ、自分の住処の臭い、他のネズミの臭い、天敵である猫の臭いを置いたところ、通常のネズミでは猫の臭いのところにはあまり立ち寄らない。しかしトキソプラズマに感染させると猫の臭いに近づくようになるのだという。トキソプラズマに感染すると大胆というか不用心な行動を取るようになる。これトキソプラズマは猫に感染して繁殖するために(ネズミに感染しても繁殖できない)、ネズミが猫に食べられるように誘導しているのではないかという。では人間が感染すればどうなるかだが、様々な説があるが、交通事故の確率が上がるという研究報告がある。感情も微生物などの環境に操られている可能性があるのである。

 

 

微生物と進化した人類

 人間の進化も微生物に促されたところがあるという。20億年前の海の中にはアーキアと呼ばれる微生物が存在した。これが我々の祖先に当たる。この頃に光合成細菌が登場、急速に勢力を伸ばす。これによって地球に酸素が急増する。この環境に対応したのが好気性細菌である。一方、高酸素条件に対応できないアーキアは絶滅の危機に瀕していた。ここでアーキアが取った戦略であるが、何と腕を伸ばして好気性細菌を取り込んだのである。こうして好気性細菌からエネルギーを取り込むようになり、アーキアはやがて細胞へと進化し、取り込まれた好気性細菌はミトコンドリアとなった。

 4億年前、陸に上がろうとしていた我々の祖先は、腸のバリアをなくして腸内に微生物を生息させられるように進化した。それによって腸内細菌の能力を利用して陸上生活を出来るようになった。人類は微生物と共存しながら進化していったのである。

 すべての生物の進化のコースは大きく3つに分かれ、1つは細菌、もう1つは古細菌(過酷な環境で見つかる)、そして残りがアーキアでほとんどの植物、動物がここに属するという。植物は根に微生物を共存させることで栄養を吸収できるようにし、昆虫なども微生物と共存しているという。

 

 

地球環境を持つ繰り出した微生物

 また微生物が作り出した環境は地球上の各地に存在する。また地球の環境自体が微生物によって作られたという。微生物は高度3000メートルの過酷な環境にも存在し、中には光合成をするシアノバクテリアなども存在する。地球上の光合成の実に半分は微生物によるのだという。まあ窒素固定に働く微生物なども存在し、これらは微生物がすべてコントロールしているのである。またバチルスのように砂粒を分解してミネラルを取り出す微生物も存在する。これが砂漠から多くのミネラルを各地に供給しているのである。

 人間は微生物を敵視して殺菌に励んできたが、胃がんの原因となるとされるピロリ菌が、実はアレルギーを抑制したりの働きもあることが分かってきたという。また微生物を人工タンパクの合成に使用したり、建材を合成させるなどの研究も進んでいる。今後も人類は微生物との共生を求められるようである。

 

 

 以上、微生物について。微生物が様々な能力を持っているということは知っていたが、がん治療に微生物を使用する可能性には流石に驚いた。ナノマシンとどちらが先に実用化されるだろうか。まあナノマシンもある意味では単純な微生物のようなものだが。

 また微生物感染で性格が変わるなんていうのも面白い話ではある。トキソプラズマ感染で大胆な性格になるというのなら、恐らく私の脳内にはトキソプラズマは皆無なんだろう。時々何考えているか分からないような粗暴な奴がいるが、ああいう奴の脳の標本を採ったらトキソプラズマがビッシリなのかもしれない。感染したら正直になって嘘をつけなくなるというような微生物はいないんだろうか。見つかったら、与党政治家連中にもれなく接種したいところである。

 ところで番組で紹介される知見は興味深いんだが、やっぱりいちいち引っかかるのは間で入るドタバタした寸劇のウザさに下品さ。何度見てもあれは不要と思われる。まさか海外輸出版でもあれをつけて出すのか? BBCの硬派で中身の濃いドキュメンタリーなんかと比べるとあまりにも恥ずかしいんだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・微生物は世代交代が早く、突然変異などの進化のスピードが速いので、環境に応じて多様な能力を持つものが存在する。
・嫌気性の細菌であるクロストリジウムを使用してガンを治療しようという研究がなされている。がん細胞周辺は血管がなくて酸素が少ないことから、そこでクロストリジウムががん細胞の栄養を取って繁殖することでがん細胞を死滅させるのだという。
・また動物の行動を操る微生物としてトキソプラズマが存在する。これをネズミに感染させると、猫を恐れない大胆な行動を取るようになるという。これはトキソプラズマが猫の体内でないと繁殖できないため、感染したネズミを猫に食べさせようとしているのではとも考えられる。
・同様に人間の場合も行動が大胆になるのではという指摘もあり、感染者は交通事故の確率が高いという報告もある。
・人類は進化の過程で微生物の影響を受けてきている。光合成細菌の繁殖で酸素濃度が急上昇した時、人類の祖先である微生物アーキアは、酸素環境に対応した好気性細菌を取り込むことで細胞に進化した。
・また陸上進出の際も、腸に多くの腸内細菌を生息させることで対応している。
・微生物は地球の環境をも支配している。地球上の光合成の半分は微生物によるものであり、また窒素の固定、砂粒を分解してミネラルを取り出すなども微生物の働きである。
・将来的には微生物を人工タンパク質の合成に利用したり、建材の製造に利用するなどの研究も行われている。


忙しくない方のためのどうでも良い点

・微生物の中でも我々に害を及ぼすものをばい菌などと呼んで忌み嫌っているが、何も人類に害をなすことが目的と言うよりも、様々な環境対応をしていたら、たまたま人類にとって害になったということのようである。もっともこのまま人類が環境破壊を続けると、地球環境に致命的な害をなす人類という有害種を駆逐するための微生物が登場する可能性もなきにしもあらずなんて気もするが。

このシリーズの前回の放送

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