教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/13 NHKスペシャル「超・進化論2 愛しき昆虫たち~最強の適応力~」

抜群の適応力からの種の多様性を誇る昆虫の特殊能力

 前回には地上の生物の質量のほとんどを占める植物であったが、今回の主役は地球上の全生物200万余りの中の半分の100万種を占めるという多様性を誇る昆虫(実際はもっと多いとされているらしい)。この多様性を生んだ適応力こそが昆虫の真価だという。

 まず昆虫の特徴として上げるべきは「ほとんどの昆虫が空を飛ぶ」というもの。しかしこのメカニズムが鳥の飛行とは根本的に違う。実際に昆虫の飛行のメカニズムは永らく良く分からなかったという。昆虫を鳥と比較した時に一番異なるのは、身体に比べて羽がかなり小さいこと。さらに昆虫ごとに多様な飛行形態がある

 ハチの飛行メカニズムを高速度カメラで解析したところ、ハチは1秒間に185回も羽ばたいていたことが分かったという。さらに羽を8の字型にねじって動かしているという。この動きによって空気の密度の差を作って、それで身体を浮かしているのだという。だから何かにぶつかって羽ばたきの回数が減ると突然墜落する。しかしこの飛び方のおかげで、空中でホバリングして停止したり、狭い空間で自由で精密な飛行を出来るようになったのである。

 では昆虫はいつから飛ぶようになったか。昆虫が最初に現れたのは4億年前。この時の昆虫は羽を持ってなかった。それから5千万年後の昆虫は大きさ1センチほどでまだ羽はなく、シダの花粉などを食べていたという。餌を求めてジャンプを繰り返していく内に羽を発達させたものが登場した・・・とのことなのだが、この間が空白でどうやって羽が生成したかは未だに謎だという。

 

 

完全変態がさらに環境適応範囲を広げた

 さらに昆虫が持つ特殊能力が完全変態。幼虫と成虫で全くことなる形態になり、その生活環境も変化する。昆虫が完全変態するようになったのは羽を持った5千万年後。この能力によって昆虫は爆発的にその生存域を広げたのだという。

 番組では変態中の蝶のさなぎの内部の姿の撮影した(超精細のCTを使用したという)結果を紹介しているが、最初は幼虫の時の身体が残っていたのが、3日後に触角と足に口などが出来て脳も発達している。さらに巨大な筋肉の塊が出来ている。そして6日目に羽が出来て先ほどの筋肉が飛翔筋であったことが判明する。8日目には蜜を吸収するための腸などが出来、9日目には蝶の身体が完成する。後は皮を破って出てくるだけである。

 この完全変態をしない昆虫は住む環境が限定されるので種類が限られることになるが、完全変態してイモムシの状態になることであらゆる環境で生存することができる。100万種の昆虫の中で89万種が完全変態をしており、この能力によって生存環境に合わせた適応を行って種を増やしたのである。

 

 

集団生活の上に他の動物との共生も行う

 さらに昆虫の特徴としては小さいということもある。これは1匹辺りの資源の消費が少ないということになる。昆虫は100京匹もいるという。そして9千万年前、地下に進出して爆発的に種を増やしたのがアリである。ハキリアリは巣の中に葉を運び込んでキノコを育てるという。作業は完全に分業制になっていて大集団で社会を形成する。

 そんな中で究極とされるのは世界最大の大集団を作るとされるサスライアリ。しかも彼らの巣の中には他の昆虫も住み着いているという。本来、アリは同じ女王アリから生まれた家族だけで群れを作る。これは触角で匂いを嗅いで判断しているという。だから家族以外は襲われるのだが、この居候達はアリの匂いを盗むことによって紛れ込むのだという。そしてアリから口移しで餌を受け取るという。このような片方の生き物だけがメリットを享受するのは片利共生というという。コオロギの一種であるシロオビアリヅカコオロギはアシナガキアリから口移しで餌をもらうしか餌を取ることが出来ないところまで究極の適応をしているという。

 さらにアリが居候から恩恵を受けている例もある。一生を巣で終えるミツバアリの巣に共生するのがアリノタカラという1ミリほどの昆虫。この昆虫は自分ではほとんど移動が出来ないので、アリによって草の汁を吸える場所に運んでもらうのだという。そして余った糖分を排出し、それがミツバアリの唯一の食糧となるのだという。完全相互依存の形で進化しており、これを絶対相利共生というのだという。だから新女王アリが生まれて巣分かれする時には、女王アリはアリノタカラを一匹くわえて巣から飛び立つのだという。ここから新たな大家族が誕生するのである。

 この昆虫の多様性は地球環境を支えているということも分かってきた。ハナアブの仲間はピレネー山脈を越えて1000キロも移動して花粉を運んでいることが分かった。ハナアブの働きで北と南の植物が交配できるのである。さらにシロアリの仲間が地中に巨大な巣を作ることで、その巣穴が土壌の水分を保つために働き、干ばつを防ぐということが分かったという。シロアリが森林環境を守っているのである。

 

 

 今回は昆虫の「多様性」の話。昆虫は極めて高い環境適応力を持っており、それが環境に応じた多様な種を生み出し、それらがさらに環境自体を支えているという話である。前回は「共生」がテーマになっていたが、今回も共生の話がさらに続き、そこに「多様性」が加わることになる。こうなってくると、いよいよもって多様性を否定して共生を否定している輩は、自然の摂理に反した滅びの道を一直線に進もうとしているということになる。まさに超・進化論の神髄である。

 さて今回は昆虫と言うことで、前回以上に露骨に「ああ、企画段階では某歌舞伎役者が被り物して出てくるはずだったんだろうな」というのがヒシヒシと伝わってくる。今回昆虫をやっている若手俳優が誰か知らんが、あの中途半端なテンションがいかにも取って付けたようで痛々しい。その結果として、あの寸劇が全く機能していないどころか、前回にも言ったように番組のレベルを落としているだけになっている。どうもNHKは番組を硬派にしたら視聴者が付いてこないと思っているようだが、軟派にしたからといって新しい視聴者が付いてくるわけではないということが分かっていないようである。

 内容自体は悪くないので、どうにもこの安っぽい作りがいちいち癇に障るというか、とにかく勿体なの一言。いかにも迷走している最近のNHKを象徴しているような番組になってしまっている。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・地球上の全生物200万種といわれる中で、昆虫は半分の100万種を占めるとされている(実はもっと多くて1000万種はいるという説もあるとか)。
・昆虫の特徴はその多様性であり、生息環境に対応して多様な種を生み出してきた。
・多くの昆虫が空を飛ぶ能力を持つが、それは今から3億5千年前に獲得したものである。
・昆虫の飛行メカニズムは鳥とは根本的に異なっており、小さな羽を高速で動かすことでホバリングしたり位置を正確に飛行するなど、環境に応じた飛行が出来るようなっている。
・また89万種の昆虫が行うという完全変態も幼虫と成虫で全く異なる環境で生育できると言うことで、環境への適応能力を高めている。幼虫のイモムシはあらゆる場所に入り込んで生きていけるようになっており、このために昆虫は爆発的に種を増やした。
・また昆虫はその小ささ故に資源の浪費が少なく、巨大な群れを形成することが出来る。アリがその代表であるが、アリの巣に共生している他の昆虫もいる。
・その中にはアリに仲間と認識させて、アリから一方的に餌を受け取る片利共生というタイプの共生をするものがいるが、ミツバアリとアリノタカラのように相互に強固に依存して進化した絶対相利共生というタイプの共生関係も存在する。
・昆虫は地球環境の保護にも貢献している。ハナアブは1000キロも花粉を運ぶことで南北の植物の交配を可能にし、白ありの巣は内部に水を溜めることで干ばつを防いでいる。


忙しくない方のためのどうでも良い点

・今回の主役は小さいが生態系での存在感は強い昆虫ということでした。昆虫の生態系を見ていると、かなり特殊な環境に特化しすぎているように思われるので、恐らく太古から種の絶滅と新たな登場を繰り返してきたのだろうと思われます。ただ昨今の人間の手による環境の変化は、あまりに速度が速すぎて昆虫の適応能力をもってしても対処不可能の模様。そろそろ危険限界が近づいている気が。

このシリーズの前回の放送

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