教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

11/13 サイエンスZERO「単細胞の"知性"に迫る 謎多き粘菌の世界」

知性を持つ?!単細胞生物の粘菌

 今日のテーマは粘菌。単細胞生物であるのだが、これは集団を形成して突然に動き出したりなど、かなり特殊な生態を有していることが知られている。しかもこの粘菌、知性を持っているのではという話まである。粘菌を研究することによって、我々の脳のメカニズムの解明にもつながるのではというのである。

 粘菌とは単細胞生物だが、アメーバのように這って移動して、異なる性の固体と接合すると、単細胞のまま巨大化するのだという。そしてスライムのような変形体に姿を変えるとキノコを丸呑みしてしまったりするとか。そして環境が悪くなると、キノコのような子実体を作って胞子を飛ばすことによって次の世代を作る。とにかく変化が激しい生物である。

 

 

粘菌のシステムを使用したコンピュータ開発

 この粘菌は当然のように脳神経系を持っていないのだが、情報処理を行っているという。その能力を解明する研究が行われているのが北海道大学の電子科学研究所。ここで粘菌に迷路を解かせるという実験をしたという。粘菌は左右に餌があるとそこに身体を伸ばし、餌の周辺に身体の大部分を纏わり付かせて両方の餌から効率的に栄養を摂取しようとするのだという(二つの餌の間の身体はかなり細くなる)。この習性を使えば粘菌が迷路で最短のルートを見つけ出すのではと考えたという。方法としてはまず迷路上に刻んだ粘菌を配置すると、これは元々一つの個体なのでそれぞれつながり合って迷路全体に広がる。そこで入口と出口に餌を置く。すると最短のルートの管が太いままであるのに対し、遠回りのルートの管は細くなっていくのだという。この粘菌の情報処理には一定の法則があり、栄養が多く流れている管は太くなるという現象が自律的に起こる。それは数式で現すことが出来ると言う。これを新たなコンピュータの動作原理として使用できるのではという。

 実際に粘菌を使って新しいタイプのコンピュータを作ろうという研究も行われている。それを行ったのがベンチャー企業の青野真士氏。彼の開発した生物粘菌コンピュータは、粘菌が餌を求めて足を伸ばす性質と光を嫌う性質を使用して、接続をつないだり切ったりが出来るといい、これは脳の原理と同じだという。彼はこのコンピュータを使用して、数学界の難問として知られる巡回セールスマン問題の解決に挑戦した。通常のコンピュータでは膨大な計算量になるので負荷が異常に増えるのだが、このコンピュータだとそこそこ良い解答を簡単に得られるのだという。ただこのコンピュータは生きた粘菌を使う都合上、計算に時間がかかるのが難点だという(ダメじゃん)。そこでその解決に挑んだのが北海道大学の葛西誠也教授。彼は生物粘菌コンピュータを電子回路化することを行ったという。そうして開発されたのが電子アメーバというコンピュータで、生物粘菌コンピュータが1時間かかる計算を40マイクロ秒で解けるのだとか。生物に特有の無駄に見える動きを取り込んだのがポイントだという。これを使用して流通システムの効率化などに取り組むことを考えているという。

 

 

粘菌を研究することで多細胞生物発生の謎に迫る

 また粘菌には細胞性粘菌という飢餓状態になると集まって多細胞性のように振る舞うものがある。これを研究することで多細胞生物がいかにして発生したかを解明しようとしているのが、筑波大学の桑山秀一教授。彼は波のような形になる細胞性粘菌を観察したところ、この集団がぶつかってもすり抜けることを発見したという。さらに細かく観察したところ、すれ違いの時に細胞を入れ替えながらすり抜けていることが分かったという。一つ一つの細胞が全体の形を記憶しながら、入れ替わった細胞に情報を伝えている可能性があるという。そこに多細胞生物の誕生のヒントがあるのではとしている。


 以上、奇妙な生物である粘菌について。粘菌と言えば南方熊楠の話が出てくるところですが、私は彼の話で粘菌について初めて知りました。単細胞生物が突然に集まってナメクジのような移動体を形成して動き出すというのは私も驚愕し、「これって多細胞生物の原点では」と思ったのだが、まさにその研究をしている研究者もいるという話である。

 粘菌コンピュータの話は、情報処理理論の話になるので、これは私には少々理解しがたかった。今のコンピュータのように1ビットで1つずつ判断するのでなく、同時に全体をワラワラと処理するんだろうというイメージ的なものは描けるのだが、それで分かったような分かっていないようなである。従来コンピュータでも粘菌的な動作をするプログラムを書けば何とかなるような気もしたりするのだが、そういうものではないってことなんだろう。その辺りが良く分からん。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・粘菌は単細胞生物であるが、独自の情報処理を行っていると思われ、知能の初期の研究に応用できるという。
・粘菌を使って迷路を解くという実験では、迷路に広がった粘菌は入口と出口をつなぐ最短のルートを示すことが分かった。
・この粘菌をそのまま使った生物粘菌コンピュータも開発されており、巡回セールスマン問題のような従来のコンピュータが苦手とする問題を解かせることに成功した。
・さらに生物粘菌を用いずにその構造を電子回路で模した電子アメーバというコンピュータも開発され、計算速度が劇的に向上したという。
・粘菌の中には多細胞生物のように動く細胞性粘菌が存在するが、これを研究することで多細胞生物の発生の謎を解明しようという研究もなされている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・かなり特殊な生物のような印象も受ける粘菌ですが、実際はありふれていてあちこちに存在するようです。世の中、まだまだよく分からんものが存在するものです。そう言えば「超・進化論」の第3回は微生物と予告していたが、こいつらも出てくるのかな?

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