教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/18 NHK 歴史探偵「北の関ヶ原 直江兼続と伊達政宗」

もう一つの関ヶ原

 徳川方と豊臣方が雌雄を決するべく関ヶ原で衝突した天下分け目の決戦。しかしこの同じ頃、遥か遠くの東北の地でも天下を決する激突が行われていた。この北の関ヶ原について注目する。この北の関ヶ原は直江兼続の上杉軍が伊達政宗の軍勢と衝突した争いである。しかし実はここに幻の計画があったという。

 関ヶ原の合戦のきっかけとなったのは、直江兼続が徳川家康の悪行を糾弾する直江状を家康に送りつけて家康が激怒したことと言われている。しかしこの直江状の真偽には疑問も持たれている。当時の文書としては表現におかしな点が多々あるのだという。実は兼続は全く違う文書を家康に送っていたという主張する研究者もいる。それによると家康からの上杉景勝への上洛要請に対して、上杉家は応じる旨を答えていたという。ただ上杉家を何が何でもつぶしたいと考えている家康は、上杉の上洛を秋まで待って欲しい(神指城を建造中であった)という要請に対して、七月中に直ちに上洛し、兼続の妻子を人質に差し出せと無茶ぶりしたのだという。

 

 

幻の大戦略構想をシミュレーションする

 家康の求めに応じて動いたのが上杉領を狙う伊達政宗だった。こうして直江兼続と伊達政宗が激突する北の関ヶ原が勃発することになる。政宗は上杉方の白石城を落とす。しかしここで家康から会津征伐中止の連絡が入る。三成の挙兵で家康は江戸に戻ってしまったのである。単独で上杉と戦うことに政宗は危機を感じる。一方、兼続の元には三成から上杉と伊達が手を組んで関東を攻撃するようにとの書状が届いたという。先ほどまで戦っていた両者が手を組んで関東を攻撃することなどが可能だったのか。その場合どうなったのかを番組ではシミュレーションしている・・・と言っても光栄のゲームで検証しているだけという安直なものだが。

 その結果は、真田に攻撃をかけるために秀忠が出陣した後の手薄な宇都宮城を落とすことは出来たが、上杉、伊達、佐竹の東北連合軍の江戸城包囲戦は、徳川側の勝利という結果に(ただし数万の兵を失っているという結果)・・・なんだが、シミュレーションが甘すぎて何とも言えん。現実には東北連合軍だけで江戸城を落とすなんてのは最初から無茶なので、家康を牽制しながら戻ってくる秀忠軍を警戒しつつ、西から三成軍が東上してくるのを待つ戦術に出るだろう。

 

 

実際の北の関ヶ原

 さて、現実の歴史であるが、伊達と和睦した上杉軍は最上領に侵攻、長谷堂城で激戦に及ぶ。しかしこの堅城で上杉軍は苦戦することになる。その上に伊達が突然に裏切ることになる。その背景には家康からの100万石のお墨付きがあるという。上杉軍は一転して窮地に陥ることになる。しかも関ヶ原の戦いがわずか1日で西軍の敗北で終わり、兼続は撤兵せざるを得なくなる。この撤退戦で兼続は自ら殿を努めて味方を撤兵させる。この撤退戦で兼続は上杉軍を無事に米沢に撤退させる。

長谷堂城手間前の堀、城は奥の山上

 なお戦後に政宗の100万石のお墨付きは反古にされ、上杉は所領を1/4の30万石にまで減らされることになる。

 とのことなのだが、この内容は2/4にBS2で「決戦!関ヶ原II」で放送されるという宣伝が入って、この番組が実は宣伝でこっちが本番だったということが告げられるのである・・・つくづくこの番組って他の番組の宣伝番組になっちまってるわ。BSのが佐藤二朗の無駄話がないんだったら、そっち見た方が良さそうだ。

 

 

 以上、北の関ヶ原。ちなみに長谷堂城は以前に私も訪問したことがあるのですが、田んぼの中の独立峰を丸々城郭として整備し、無数の堀などを築いたかなりの堅城だったのを覚えています。さすがにあれだけの城となると、直江兼続といえども力押しで直ちに落城させるということは不可能だったろう。

山腹の通路は屈曲し、無数の土塁に堀に帯曲輪が存在する

 また最上にしたら、この城からは山形城がそこに見えており、その間に障害物らしいものと言えば川が1本ある程度なので、長谷堂城の陥落は最上の敗北に直結しているので必死だったろう。

長谷堂城からは山形城がそこに見えている

 結局は一番の計算違いは、関ヶ原の合戦がわずか1日で呆気なく決着がついたことであろう。兼続としては「まさか」だったのは間違いない。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・関ヶ原の合戦の裏で行われていた北の関ヶ原こと、上杉軍と伊達軍の激突が起こっていた。
・しかし実はこの両者が手を組んで江戸を攻撃するというシナリオも存在した。番組ではそれを光栄の強力でシミュレーションしているが、家康の籠もる江戸城を落とすのは失敗している。
・現実の歴史では、伊達と和睦した上杉軍は最上を従える為に長谷堂城を攻撃する。しかし堅城の防御に難儀している内に伊達が裏切り、さらには関ヶ原の合戦がたった1日で西軍の敗北に終わったことで上杉軍は撤退した。
・この撤退戦で直江兼続は自ら殿を努めて奮戦、軍勢を無事に米沢に撤退させている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・前回の「決戦!関ヶ原」も役者陣こそマイナーな面々でしたが、腑抜け大河をぶっ飛ばすかのように気合いの入った番組だったのを覚えています。今回も佐藤二朗がうるさいこの番組よりは良さそう。

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