教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/6 BSプレミアム ダークサイドミステリー「呪い…人はなぜ呪うのか?~呪術大国ニッポンの闇~」

呪術とは

 いきなり呪いの人形などと言う禍々しい事物の登場から始まるのが今回。現在、このような世界の呪物を集めた展覧会が実施されて人気を集めているとか。日本におけるこのような呪いの歴史について紹介。

 古今東西、やはり人は他人を呪いたくなることはある(私もかつて上司のあまりのパワハラのひどさに、闇討ちしてやろうかと思ったことはある)が、やはり呪いの定番と言えば呪いのわら人形こと丑の刻参りだという。今でも霊力が強いとされている山などではこのようなわら人形が見つかることは多々あるらしい(私の同僚が高校生の時に吉野山での研修の際に、早朝の散歩中に実際に見かけたとの話も聞いている)。またただの木片が恨みによって呪物に変じて、その人物を虐めていた二人を呪い殺したなんて話もあるとか。なお番組では実際に丑の刻参りをしょっちゅう見かけるという神社に取材を行っている。その神社ではわら人形を見つけると丁重にお祓いをするそうだ。なお呪物コレクターのユーチューバーによると、送られてくる体験談の8割は呪いが自分に返ってきているので、まあ半端な気持ちで呪いはかけない方が良いとか。

未だにリアルでこれをする人もいるらしい

 

 

呪術の歴史

 1300年前呪禁道という呪術が中国から伝わり、日本に広まったという。その中でも蠱毒という呪法がかなり有名である。これは壺の中に様々な毒虫を入れて食い合いをさせ、最終的に残った毒虫が最強と言うことで、これを煎じて敵に飲ませるなどして呪うのだとか。結構有名な呪法であり、ファンタジー系にはよく登場する。また転じて、大奥や宮廷など陰謀渦巻く世界を表現する言葉としても使われる。これは身体をコントロールしている気を操る呪法らしい。また厭魅という相手の髪の毛などを入手して、それをドクロに植えて相手の身代わりを作るという最強の呪術もあるという。また木の板などを相手に見立てることは良くあり、実際にこの手の呪いアイテムは都の後などからも良く出土するとか。なお聖武天皇が呪術を禁じたが、それでも呪いのブームは続いた。

 平安時代になると呪いを祓う専門家である陰陽師が登場、その大スターが安倍晴明である。安倍晴明は本来は占い師のはずだが、星の神の力を駆使することで呪いを払う能力を持っていたとのこと。ちなみに晴明の伝説には明らかに自己プロデュースがかなり見られるなと言うのは私の感想。

 

 

個人的呪術が国家レベルになる

 ここまでは生きている人間が生きている人間を呪ったのだが、さらに時代が進むと恨みをもって死んだ人間が怨霊となってこの世に災いをもたらすという考えが登場することになる。菅原道真などがその有名なものだが、これを鎮める呪術が真言密教だという。真言密教では仏の力を借りることで怨霊を鎮めるのだという。なお真言密教での仏は大日如来を中心として1000を超えるそうな。

 真言密教は国家権力と一体化して、平将門の乱では将門を調伏するべく大規模な護摩行が行われたし、元寇の時も同様のものが行われたという。また後醍醐天皇も討幕のために自ら修法を行ったという。

 ただ武士の時代になって実力主義の世の中になると、呪術で敵を倒すよりは実力行使という時代となり、権力者は呪術を取り締まるようになったという。秀吉も家康も呪術や修法を禁止したという。しかし江戸時代には庶民の間にまじないという形で呪術は広がっていた。

 だがそれも明治以降になると衰退する。しかし第二次大戦の敗色が濃厚になってきたら、ルーズベルトを呪い殺すための呪術などは行われたらしい。もっともそれが効果あったかどうかは不明だがルースベルトは脳溢血で突然死したものの、後継のトルーマンがあっさりと原爆投下を承認して日本は全面降伏に追い込まれている。で、今日の半分娯楽化した呪術ブームとなるらしい。

 

 

 以上、呪いについて。まあ宗教には呪いは付き物で、願いを叶えて欲しいという表の呪術に対して、誰かを呪い殺したいという裏の呪術は表裏一体と言うことである。もっともやはり他人を呪いまくるのは精神衛生上よろしいものではなく、昔より「人を呪わば穴2つ」という言葉もある。もっとも恨みを精神の根底に沸々と積もらせたままでは精神が崩壊するから、その1つの吐き出し場であることも事実なんだろうが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・丑の刻参りなどに象徴される呪いについては、1300年前に中国から呪禁道という形で伝わったものが原型だという。
・壺の中で毒虫を共食いさせて最強の毒を作り出す蠱毒や、相手の髪の毛などを使って身代わりを作る厭魅などの呪術が代表的なものであるという。
・呪術は聖武天皇が禁じるが、それは平安時代にも続き、呪いを祓う力を持つ陰陽師の登場となる。安倍晴明は星の神の力を使うことで呪いを祓ったという。
・さらに時代が進むと恨みをもって死んだ者が災害などをもたらす怨霊になるという話が出て来、それに対抗するものとして真言密教が位置づけられた。
・真言密教の護摩行は平将門の反乱や元寇など、国家の危機を鎮めるために国家によって行われることも多かった。
・武氏の時代になると権力者によって禁じられるが、庶民の間ではまじないの形で呪術は残る。
・明治以降は一気に衰退するものの、第二次大戦終盤になるとルーズベルトに対する呪いなども行われたという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ権力者が神頼みするようになったら終わりと言うが、昔はかなり大まじめにこれがされてましたから。もっとも今でも星占いに頼るような政治家もたまにいるというが(レーガンの妻が占星術師に頼っていたという話もあった)。なお今の与党の政治家はカルト教団を頼っているが、これはまた別のもっと生々しい話。