教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/22 NHK-BS ザ・プロファイラー「絶世の美女は希代の悪女!?クレオパトラ」

才知に長けたエジプトの女王

 絶世の美女であり、男を次々とたぶらかす希代の悪女ともされるクレオパトラ。しかしその実相はほとんど記録がないという。クレオパトラとはいかなる女性であったか。

 クレオパトラはギリシア系のプトレマイオス王朝の生まれである。クレオパトラの肖像はほとんど伝わっていないことから、一般にはエジプト人として黒髪でオリエントな顔立ちの美女がイメージされることが多いが、ギリシア系であったことから実は金髪で西欧的な顔立ちだったという話がある。数少ないクレオパトラの肖像とされるコインの肖像も、確かに鼻の高さに特徴があるどちらかと言えば西洋的な顔立ちの人物である。

クレオパトラとアントニウスのコイン

 エジプトはナイル河口の肥沃な大地を拠点として豊かな国であり、クレオパトラが生まれたの河口の大都市アレクサンドリアである。アレクサンドリアは人口35万の交易都市で、世界中の書籍を集めた大図書館のある先進の文化都市でもあり、海外からの留学生も多かった。このためにクレオパトラも高い教養を身につけ、彼女は特に語学に長けて多くの言語を自在に操り、当時は民衆の言葉であったエジプト後で話すことが出来る初めての王だったという。

 18才で父のプトレマイオス12世が死去したことで、彼女は10才の弟のプトレマイオス13世と形式上の結婚をして共同統治することになる(当時のプトレマイオス朝の伝統らしい)。王となった彼女は強国であったローマの圧力にどう対抗するかに頭を悩ませる。父のプトレマイオス12世は巨額の貢ぎ物をすることで辛うじて併合を免れ、半ばローマの属国化していた。これに対して彼女は、ローマが大量に輸入していた小麦に目をつけ、ローマに小麦を格安で売ることでローマを味方につける戦略をとる。しかし弟のプトレマイオス13世は「クレオパトラがエジプトの富をローマに横流ししている」と批判してエジプトの実権を握ろうと画策して反乱、クレオパトラは即位3年でシリアとの国境付近に逃亡することになる。

 

 

カエサルとの出会いで運命が変わる

 そのクレオパトラの運命を変えたのがローマの英雄カエサルだった。カエサルとポンペイウスが対立、元々クレオパトラはポンペイウスを支持していたのだが、ポンペイウスはカエサルに敗れてエジプトに逃れてくる。それをカエサルが追ってエジプトに迫ったことで、プトレマイオス13世の側近がポンペイウスを暗殺する。しかしポンペイウスの首を差し出されたカエサルは不快感を示したらしい。そしてアレクサンドリアの宮殿をカエサルが訪れることになる。

 ここはカエサルと直接交渉をクレオパトラは目論む。そこで贈り物の絨毯にくるまってカエサルの前に現れたという伝説があるが、まあこれは創作。ただクレオパトラがカエサルと直接交渉してカエサルを魅了したのは間違いない。カエサルはクレオパトラの復権をプトレマイオス13世に命じるが、反発した彼は反乱を起こして戦死する。その後は別の弟をプトレマイオス14世としてクレオパトラの共同統治者にする。そしてクレオパトラとカエサルは愛人関係となる。

 クレオパトラはナイル川クルーズにカエサルを連れ出し(これが世界初のナイル川クルーズだとか)、肥沃なエジプトの大地を見せつけ、豊かな料理でもてなす。カエサルはエジプトの国力に驚く。またクレオパトラが作った貨幣にも注目する。それは従来の貴金属の量で価値に差を付けるのではなく、貴重な資源の流出を防ぐために銅貨に刻印で刻んだ数値によって価値を決めるいわゆる信用貨幣であった。

カエサルとの間に子も出来るが、カエサル暗殺で再び運命が大きく動く

 さらにクレオパトラとカエサルの間にカエサリオンが生まれたことで、両者の結びつきはさらに強くなる。しかしこれはエジプトの民の反発をうむ。しかしクレオパトラはカエサルを太陽神ラーの化身とすることで、自身の権威をさらに高めることに成功。カエサルもローマ・エジプト帝国の建設を夢見るようになる。

 翌年、クレオパトラはカエサルの招待でローマに出向くが、ローマの人々のクレオパトラへの反発は強かった。そしてカエサリオン誕生の2年後にカエサルが暗殺される。これでクレオパトラはローマでの後ろ盾を失い、エジプトに逃げ帰ることになる。

 カエサルを失ったクレオパトラはローマ内に新たな後ろ盾を求める必要があった。当時のローマはカエサルの部下のアントニウスとオクタウィアヌスが対立、結局はローマを二分して西をオクタウィアヌス、東をアントニウスが治めることになる。

 クレオパトラはアントニウスに目をつけ、金の船に乗って現れ、さらに豪華な品々を贈り物としてアントニウスに示すことでアントニウスの気を惹く。クレオパトラがエジプトに戻るとアントニウスも彼女を追ってエジプトに出向き、2人はエジプトで豪華な生活を送り、アントニウスはクレオパトラに魅了されていく。2人の間には3人の子供が産まれ、アントニウスはクレオパトラをエジプトの王と認め、さらにローマの領土を彼女に提供する。そしてカエサリオンに諸国の王という称号を与え、正式なカエサルの後継者とする。

 しかしエジプトに入れ込んでいくアントニウスの姿勢はローマの民の反発を生む。これに乗じてオクタウィアヌスはアントニウスを誘惑したクレオパトラの打倒を掲げ、実質的なアントニウス討伐に動くことになる。

 

 

オクタウィアヌスと戦うが敗北して自害する

 ローマを2つに分けた争いはギリシア沿岸のアクティウムの海戦で行われる。アントニウス-クレオパトラ連合軍の500隻に、オクタウィアヌス軍250隻と数では不利だったオクタウィアヌスは陸地に配置した兵を丘の上に布陣させ、投石機などで沖の船を攻撃させる。挟み撃ちを喰らう形になった連合軍は徐々に劣勢に陥る。その時、突然にクレオパトラが逃亡したことで、アントニウスもそれを追って戦線離脱、指揮官不在で混乱する連合軍は半数を失う大敗北を喫する。

 アレクサンドリアに逃亡した2人だが、アントニウスは敗戦で失意の中にあった。クレオパトラは密かにオクタウィアヌスに使者を送るが、それに対するオクタウィアヌスの返答は曖昧で、1年後にはオクタウィアヌスはエジプトに侵攻してくる。

 わずかの兵で迎え撃ったアントニウスは敗走、クレオパトラは霊廟に立て籠もったが、彼女が自害したと聞いたアントニウスは自害を図る。その後、クレオパトラが生きていることを聞いて瀕死の状態で彼女の元を訪れるが、アントニウスはクレオパトラの胸の中で命尽きる。

 クレオパトラは交渉に現れたオクタウィアヌスに、アントニウスの埋葬の許可と、自らの命を引き替えにカエサリオンを助命することを願い出たが、オクタウィアヌスはアントニウスの埋葬しか認めなかった。クレオパトラは女王としての威厳を守るために自害し、密かに逃亡させていたカエサリオンもオクタウィアヌスの謀略で殺害される。

 

 

 以上、クレオパトラの生涯。もっとも残された資料がローマ側視点で描かれたものばかりなので、現実以上のクレオパトラ下げが含まれている可能性は高い。特にアクティウムの海戦での無様な敗戦は、オクタウィアヌス上げの一環である可能性もあるように思われる。

 中立的な視点で見た場合、クレオパトラの貨幣の話などもあるように、内政に関してはなかなかに長けた人物だったように思われる。さらに基本的に外交交渉などの能力も高かったのだろう。そして何よりも何とかエジプトを繁栄させようという姿勢が見え、無駄に私的欲求のための贅沢とか圧政をしたという雰囲気も感じられないところから、統治者としてまずまずの人物だったのではないか。まあ彼女にとっての不幸は、エジプトは文化的にもレベルが高く、経済力も低くない国であったのに、隣国にローマという侵略的な超軍事大国が存在したことで、軍事的対応を余儀なくされたことだろう。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・クレオパトラはギリシア系のプトレマイオス王朝の生まれで、18才で弟のプトレマイオス13世と共同統治者としてエジプトを支配した。
・しかし彼女の施政方針に弟が反発、彼女は失脚してシリア国境まで逃走することになる。
・その頃ローマではカエサルとポンペイウスが対立、敗れたポンペイウスはエジプトに逃亡、それを追ってカエサルがエジプトに迫ってくる。
・プトレマイオス13世の側近がポンペイウスを殺害してその首をカエサルに届けるが、それに対してカエサルは不快感を示す。
・クレオパトラはカエサルと直接交渉し、カエサルの関心を惹くことに成功する。カエサルは彼女を復権させ、反発したプトレマイオス13世を排除する。
・クレオパトラはカエサルにエジプトの豊かさを示し、さらにカエサルとの間にカエサリオンを儲ける。カエサルはローマ・エジプト帝国の構想を抱くことになる。
・クレオパトラはカエサルに招かれてローマを訪れるが、ローマ市民達から反発を受ける。その後、カエサルが暗殺されたことで後ろ盾を失い、エジプトに逃げ帰る。
・カエサルの後継は養子のオクタウィアヌスと部下のアントニウスが争うことになる。クレオパトラはアントニウスに接近してその心を掴むことに成功する。
・アントニウスはクレオパトラとの間に3人の子供を儲け、エジプトに傾倒していく。しかしそのことがローマ市民の反発を招き、オクタウィアヌスはそこをついてクレオパトラ討伐へと動く。
・アントニウス-クレオパトラ連合軍はオクタウィアヌス軍とアクティウムの海戦で正面衝突する。しかし挟撃を受けた連合軍は劣勢になり、クレオパトラの離脱と続いてのアントニウスの離脱で決定的な敗北を喫する。
・オクタウィアヌスはエジプトに侵攻、迎え撃ったアントニウスも敗北してクレオパトラの胸の中で亡くなる。そしてクレオパトラも女王としての矜恃を守るために自害する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・クレオパトラも悲劇の人ですね。ローマに対抗しながらエジプトを守るのに必死だっただけで、決して悪女というわけではないように思いますね。本当の悪女ならすべてを放り出してトンズラしている。
・それに絶世の美女ってよりも、才気に満ちた女性でそちらの魅力でカエサルなどを魅了したというように思えます。アントニウスに至っては完全に掌中で転がされていますね。今ならバリキャリになったでしょう。