教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/5 NHK 新プロジェクトX~挑戦者たち~「東京スカイツリー 天空の大工事」

前代未聞のタワー建設

 昭和の熱さを伝えて伝説になった番組の令和版リバイバルということらしい。今度は平成~令和のプロジェクトを紹介するとのことなんだが、果たしてこの時期にそんな立派な成功を収めたプロジェクトがあるだろうか? 正直初っ端からすぐにネタ切れになりそうな雰囲気が・・・。で、第一回目はまあ予想出来ることではあるが東京スカイツリー。

高さ600メートル以上のスカイツリー

 東京の電波塔はそれまでは先のプロジェクトXで建てられた東京タワーが担ってきたのだが、東京もそれから200メートル級の超高層が立ち並ぶ街となり、300メートル級の東京タワーでは電波が届かない地域が増えてきた。これを解消して関東一円に電波を届けようとすると、600メートル級の放送塔が必要という試算になった。しかしこれは世界最高の前代未聞の放送塔になる。

 

 

設計も工事も非常に困難なものに

 この難題を手がけることになったの意匠設計の吉野繁と構造設計の小西厚夫だった。吉野は基本デザインを手がけることになるが、一番の問題は敷地の狭さだった。隅田の建設予定地は南北の距離が狭く、東京タワーの敷地よりも狭かった。ここに東京タワーの倍の高さの鉄塔を建てることになる。敷地は一番長く取れる正三角形にしても一辺が68メートル。ここから上になると円形に変わる独得のデザインを吉野が提案する。そしてこのタワーを地震にも耐える堅固なものにするのが構造設計の小西厚夫の使命だった。

 小西は電卓と格闘することになる。ひたすら計算を重ねた結果、五重塔の心柱のシステムを導入することにする。長さ375メールに及ぶ鉄筋コンクリートの心柱を中央に通し、これが地震の際に独自に揺れることで揺れを緩和するもので、東海地震に東南海地震、南海地震が同時にやって来ても耐えられるようにとの設計だった。阪神・淡路大震災を経験している小西にはそれは譲れない線であった。

 しかしこの構造は無数の鉄鋼が幾何学的に組み上がる組立の困難なものであった。この建設にゼネコンの精鋭が頭を悩ませることになる。それを大林組で担当したのが生産技術部の田辺潔。多くの難工事を手がけてきた大林組の頭脳だった。田辺は上司の鳥居茂に若い頃から厳しく徹底的に鍛えられてここまで来ていた。そして田辺が出したのはパーツを立体模型のように組み上げていき、最後の500メートル以上の放送アンテナの部分は高所作業を避けて地上で組み立てて中央を通して吊り上げ、その後に心柱を積み上げていくという前代未聞の工法だった。そのプランを見た工事責任者の総合所長の鳥居茂は黙ってそれを承認する。2009年4月6日工事が開始される。全国から精鋭が集結する。のべ人数58万人の巨大工事である。

 

 

困難な工事に取り組む技術者達

 まずは鉄骨造りが始まる。しかし求められる強度と精度は桁外れだった。600メートルのタワーで安全上許される頂上の誤差は6センチ以内である。37000本の鉄骨にはそのための精度が求められる。直径2.3メートルの円形鋼管の場合の誤差は6ミリ以内。スカイツリー用の鉄板が全国の製罐会社に持ち込まれて加工が始まるが、高強度の厚さ10センチの鉄板を折り曲げるのは至難の業だった。そんな中で徳島の小さな工場、大阪特殊鋼管の徳島工場にも加工の依頼が舞い込んでいた。だがプレス担当の村野一秀はこの仕事をやりたくないといった。村野の使用するプレス機は中古品で修理をしながら動かしている状況であった。しかし営業担当者に泣きつかれて村野は折れる。今まで職を転々として妻を苦労させていた村野が最後に声をかけてもらえたのがこの工場だった。村野は妻に完成したスカイツリーを見せたいと考える。そして最強の鉄板に挑む。

 鉄骨の組み立ては3本の足をそれぞれ別の会社が担当することになった。東側が松村組・西中建設、これは難工事を手がけてきた精鋭軍団だった。北側は鈴木組、チームワークと安定感に優れていた。そして西側が橋の建設で定評のある宮地建設工業。職長は専門学校卒業後11年目の半田智也(31)だった。しかし彼にとっては前代未聞の困難な仕事であった。子供たちに自慢出来る仕事をするべく意を決して現場に飛び込むが、他のチームの仕事ぶりに圧倒される。特に松村組・西中建設のスピードは桁違いだった。その中でリーダーの森川哲治の仕事ぶりは圧倒的だった。森川は中学卒業から鳶になった叩き上げで、独学で仕事を習得していった努力人であった。森川の率いる鳶たちは早く正確で無駄のない動きをした。半田達のチームはもっとも作業が遅く、それが他のチームの足を引っ張ることもあった。全体の工期が遅れかねないプレッシャーが半田にかかり、焦りから声を荒げることも多くなり、鳶たちとの間がギクシャクし脱落者が出ることになる。

 そんな半田の転機となったのは鳶同士で花見をしないかという話が決まったことだった。最初は緊張でギクシャクしていた半田だが、酒を飲んでいるうちに度胸が出てきて、隣で飲んでいた森川のチームに話し掛ける。意外に彼らは気さくだった。そこで半田は一から勉強し直すことを決意、翌日からは森川の現場に出向いては分からないことは恥を捨ててすべて聞いた。こうして得られた情報を鳶たちと共有化して方策を話し合った。鳶たちからもアイディアが出るようになる。そうして3チームの息が合うようになり始める。

 一方ブレス職人の村野はプレス機を駆使して鉄板と格闘していた。スカイツリー用の鉄板は想像以上でプレス機が悲鳴を上げる。村野は意を決して限界まで圧力を上げる。最強の鉄板が曲がった。村野は4200本の鋼管を1人で曲げきる。スカイツリーの完成が待ち遠しかった。

 

 

最後の大詰めで予期せぬトラブルが

 2010年3月、ついにスカイツリーの高さが東京タワーをを超えた。ここからは未知の領域となる。風速10メートル以上の強風や落雷の危険にさらされることになる。さしもの森川もこれにはおののいた。1つ間違うと死者の出る状況である。森川はこれを自身の誇れる仕事にするつもりだった。そして2010年8月タワーは408メートルとなり、ここでアンテナをジャッキアップする作業が開始される。これが失敗すれば大惨事となる田辺にとっての正念場の作業であった。しかしその頃、総合所長の鳥居は現場を空けることが多くなっていた。彼は末期の食道がんを患っていた。しかしそれを隠して現場に顔を出してハッパをかけて回った。しかしその鳥居の訃報が田辺に告げられる。田辺は鳥居の意志を継いで絶対にこの工事を成し遂げることを誓う。

 中央のゲイン塔が徐々に上げられていく、最後の部分を任されたのは橋の建設で似た工法を経験している半田達だった。重さ3000トンのゲイン塔は6方向7段の42個の固定装置で支えられている。塔が上に上がるほど重心が高くなって不安定になる。2011年3月11日、タワーは600メートルに達する。この時ゲイン塔は9割が顔を出し、固定装置の一部も外されていた。しかしそのタイミングで東日本大震災が直撃する。タワーが横に5メートル揺れる。半田達は床にしがみつく。半田はこの時、スカイツリーが倒れて自分は死ぬと感じたという。耐震のための心柱もまだ完成していない最悪のタイミング。半田達は50メートル下の大展望台に避難する。直ちに全員退避の指示が出るが、ゲイン塔の固定装置が一段外れている状態で、さらなる余震が直撃した時の不安があった。半田が再びタワーに登って固定をすることを決意、鳶たちも全員それに付いていく。20人が再びタワーに登り、ゲイン塔の固定を終えて帰ってくる。その一週間後ついにスカイツリーが634メートルに達する。半田はその眺望を噛みしめる。そして森川も頂上に駆けつける。田辺は鳥居の写真をタワーのてっぺんに掲げる。

 

 

 という熱い話なんだが、やっぱり昭和のプロジェクトと違って平成以降のプロジェクトは分業制で多くの人間が携わるだけに主人公がハッキリしないところがある。今回は田辺と半田と森川を主人公において、鳥居や村野などを重要ポジションに置いていたが、実際はもっと多くの関係者がいるので、明確な主人公は存在しないというのが現実だろう。

 また鳥居は途中退場だし、村野はスカイツリー完成時には見せに連れて行くつもりだった妻は病で先立っており、もう彼自身はスカイツリーを見に行く気はないという状態だったとの話でいささか暗い。

 なおやはりこの番組に不可欠のテーマ曲の地上の星とナレーションの田口トモロヲは残留の模様(これがなくなるとこの番組でなくなる)。もっとも若干のアレンジはあった模様。トモロヲ節も前シリーズに比べると若干軽くなっている印象を受けるが、それは彼の語り云々よりも、原稿の内容が前作のような独得の重い節回しのものでなくなったこともあるように感じる。全体的にやや淡々とした印象があり、前シリーズにドップリとはまっていた私とすると「いや、こうじゃないんだよな・・・」と言いたくなる場面がいくつかあった(前シリーズでは「愕然とした」とか「目の前が真っ暗になった」とかの表現が結構あった)。原稿を私のところに持ってきてもらったら、いくらでも正調プロジェクトX節に加工して差し上げるのだが(笑)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・東京タワーに変わる新電波塔建設が計画されるが、それには高さ600メートルという前代未聞のタワーを建てる必要があった。
・構造設計を手がけた小西厚夫は五重塔に倣って中央に心柱を通して耐震性を持たせる構造を提案。しかしそれは工事が困難なものであった。大林組の田辺潔がそれを建築するための大胆な手法を提案する。
・タワーの建設には高精度のパーツの組み合わせが必要で、そのための鋼管の製造には日本中の製罐メーカーが当たることとなった。
・建設は3本の足を3組が担当することになったが、西を担当した宮地建設工業は他よりも作業が遅れがちで若い職長の半田智也は焦る。しかし鳶たち合同の花見の席で松村組・西中建設の叩き上げの森川哲治と打ち解けたことで、一から彼らに学ぶことにし、それによって3チームの歩調が合うようになる。
・最後に中央のゲイン塔を吊り上げていく作業となるが、それが佳境に達した時に東日本大震災が直撃、タワーは大きく揺れて作業員達は倒壊の恐怖を感じながら非難する。しかし半田は固定半ばのゲイン塔を完全固定するために鳶たちを率いて現場に戻る。
・こうして彼らの努力もあってスカイツリーは完成する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・うーん、しかし今の時代にプロジェクトXとはいささか微妙。高度成長でガンガン行っていた昭和と違い、自民党の悪政のせいで30年に渡って低迷を続けてきた日本に、そこまでのネタがあるのかというのが一番の疑問でもある。
・次回はカメラ付きケータイとのことだが、結局はケータイもスマホ時代になって完敗だし・・・。東京タワーが出て来たとなると、東京湾アクアラインなんかも出てきそうだが、やはり青函トンネルなんかと比べるとしょぼさがあるんだよな。
・プロジェクトがしょぼければ、上でも言ったように今は分業制で取り組むから主役不在で、結局ドラマとしては焦点ボケがしてしまうんだよな・・・。

次回の新プロジェクトX

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