教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/17 NHK あしたが変わるトリセツショー「「がん対策」命を守る切り札SP」

がん対策の切り札の検診、しかしなかなか受けない人が多い

 日本人の死因第一位で、毎年38人以上が命を落としているというがん。この対策の切り札を展開するというのが今回だという。どうも自治体と連携してのプロジェクトを実行した模様。

 がんが悪化する要因としては、「自分は大丈夫」という正常化バイアスだという。早期発見すれば大抵のがんは治るのだが、どうしてもこの正常化バイアスのために早期発見のチャンスを見逃しているという。

婦人科検診とかは特にハードルが高いのか受診率が低い

 ここで登場するのががん検診啓発特使を務めている悪魔。デーモン閣下は自身もがん検診で早期発見をしたらしい。しかし現実はなかなか検診を受けない人が多い。自治体が進めているがん検診も軒並み受診率は半分以下で、6%などというデータもある。どうしても「忙しい」とか「見つかるのが恐い」とかで受けないのだという。

 

 

がんになるのは「運が悪い」

 というわけで、まずはがんを知るとのことで、腫瘍学の専門家の京都大学の藤田恭之氏が登場する。藤田氏によるとがん細胞とは際限なく増殖を続ける一種の不死の細胞であるとか。ここで登場するのが大腸ガンを患った患者。しかし彼にとってはこれは青天の霹靂だったという。というのも彼は酒もタバコもやらず運動もしており、さらにはがん家系には当たらないということで、がんになるべき要素が思いつかなかったからだという。さて彼ががんになった理由であるが、藤田氏によると「運が悪かった」としか言いようがないとのこと。

 ヒトの細胞は1日に1兆回もの細胞分裂を行っている。するとその際にどうしてもコピーミスが発生する(計算上は1日数千個だという)。それがガンの元になるので、まさに運次第だという。実際にがんの原因について研究した報告によると、遺伝要素は5%、環境要因が29%で、66%は細胞分裂のコピーミスであるという。だからどれだけ健康的な生活を送ってもがんを防ぐというのは不可能なのだという。

 そしてこのがんは時間と共に増加する。しかし初期の状態(ちょい悪細胞と番組は表現している)だと身体が自動的に排除するようになっているのだという。ここを逃げ切ったものが悪細胞を経て極悪細胞にまで進化し、こうなると免疫細胞の攻撃さえも跳ね返して増殖し続けるのだという。なお悪よりも前の段階では現代科学でも発見が難しいので、ポイントは悪が極悪になる前に発見することだという。なおちょい悪から悪に進化するのが15年かかるのに対し、悪から極悪に進化するのはたったの2年だという。

 

 

がん検診を受診させるための切り札登場

 で、番組では今までがん検診にいったことのない人にこの藤田氏の講義を受けてもらう。すると皆、がんに対する認識が変わったので検診を受けた方が良いと思ったと答える・・・んだが、その後を追跡すると20人中で実際に検診を受けたのはたったの3人。要はその時はその気になったのだが、面倒だとか機会がないとか言っているうちに有耶無耶になってしまうということ。

 そこでその行動を変えようというのがナッジ理論だという。便器に的をつけたらこぼす人が減るなど、わずかな工夫で行動を誘導するという仕掛けだという。これをがん検診に利用しようというのだという。で、お得感を強調したりなど様々なあの手この手の工夫がなされているらしい。そして今回繰り出す秘策が、がん検診に対して関心が高まった機会を狙って検診の案内を送るというもの。で、今回の試みは「この番組の放送に合わせて検診案内を送る」というものらしい。各自治体に呼びかけて280自治体が応じたとのことで、150万人が対象だそうな。なお案内が届かない人にはHPから検診案内をダウンロード出来るようにしている。さてこの試みがどこまで功を奏するか。その結果については後日(11/14)報告するとのこと。


 まあなかなか面白い試みである。番組でダイエットに良いと紹介したら、翌日に納豆が売り切れたなんて現象があるから、それの応用なんだろう(納豆自体はとんでもない嘘だったが)。もっとも気になるのは今のこの番組にどれだけの影響力があるか。正直なところ番組の影響力はガッテンの頃よりもはるかに落ちていることを私は感じている。番組の内容のこともあるが、そもそもテレビの影響力がかつてよりもかなり落ちているので。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・がんは早期発見したらかなり高い確率で治癒出来る。そのためには検診の受診がポイントだが、残念ながら正常性バイアスなどでなかなか受けない人が多い。
・がんの発生原因は細胞分裂の際のコピーミス。その結果生まれた異常細胞が、時間をかけて極悪細胞に変化することになる。だから極悪細胞になる前に見つけることが重要。
・このような知識を紹介する講座を受講してもらったところ、受講者はことごとく「がんに対しての考えが変わったから検診を受けたい」と答えたのだが、実際にはその中から本当に検診を受けたのはごく一部という結果に。
・そこで今回、「関心が高まったタイミングを狙って検診の案内を送る」というプロジェクトを実施、この番組の放送に合わせて180自治体でがん検診の案内を送ることにした。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・結果やいかにですね。本当にこれで検診受診者が増えてくれれば良いが。もし顕著な増加があったら11/14に鼻高々で報告でしょうね。だけど私は結構難しいと思いますよ。

前回のトリセツショー

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