教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/13 NHK-E サイエンスZERO「ゲンジボタル大調査!点滅間隔の謎に迫れ!」

ホタルの点滅間隔が東西で異なる?

 日本固有種のゲンジボタルであるが、その光の点滅間隔が2秒のものが西日本に、4秒のものが東日本に多いという報告がなされている。ホタルの研究者によるとゲンジボタルが2種に分化しつつあるという。そこでNHKでは全国の視聴者にホタルの映像を送ってもらい、全国規模で解析を行うという試みを実行した。その結果について報告するとのこと。

日本固有種のゲンジボタル

 ゲンジボタルは集団で点滅するが、その間隔が段々と揃ってくるという同時点滅という現象が見られるという。それが東西で異なるというのである。この謎に挑んだのがホタル博士こと大場信義氏彼が全国のホタル棲息地を調査した結果、西と東でホタルの種が異なるという仮説を提案した。そして遺伝子解析に取り組んだのであるが、残念ながら当時の遺伝子解析技術では種の違いの発見には至らなかったという。

 そこで最近、鹿児島大学の加藤太一郎准教授が最新の遺伝子解析(全ゲノム解析)を行ったところ、2つの大きなグループに分かれ、東西でハッキリと異なることが分かったという。この分化はかなり昔に起こっており、600万年前に日本列島がまだ小さな島々の集まりだった頃に、ある島に住んでいたゲンジボタルが地殻変動で二つに分かれ、それぞれがそのままそこで進化して、後に日本列島がつながったと推測している。そしてその境目がフォッサマグナであるという。

 

 

NHKによる全国調査の結果は

 ただし今回の調査は49個体に過ぎないので、もっと大規模な調査が必要だろうと言うことで、NHKがシチズンラボを通して全国に調査を呼びかけたとのこと。その結果、長崎の五島列島では点滅間隔1秒のものが見つかっており、遺伝子調査の結果これはさらに新しい特殊なタイプであることが分かったという。また関東地区では2秒と4秒が混在していることが判明した。そこで現地調査を行った結果、3秒間隔のものが見つかるということになったとか。さらに全データを解析してみたところ、中間型が結構な数で見つかったとのこと。2秒タイプは確かに西に多い傾向が、4秒タイプは東に多い傾向があるが、全地域に渡って中間型が広がっているという結果になったという。


 というわけで当初仮説のようにキレイには分かれなかったという結果のようである。加藤准教授は遺伝子で点滅間隔が制御されるという仮説を立てていたんだが、どうも加藤説は旗色が悪くなった感がある。全国分析したところでキレイに分かれたら、華々しく「仮説が証明されました」とやるつもりだったんだろうが、どうも旗色が悪いとNHKも感じたのか、ゲストに加藤氏だけでなく、ホタルの点滅間隔は遺伝子でなくて環境などで左右されると考えている中部大学の大場裕一教授も招いたのがミソ。実際に中間の3秒型ホタルが多数存在するという事実は、遺伝子ではなく環境要因が効いているということを証明しているように私には見える。

 もっとも加藤氏の調査の結果、東西のホタルで遺伝子パターンが違っているという事実はそうなんだろうから、その辺りをさらに調査するべきだろう。加藤氏は「性器の形態などが異なって交雑出来なくなっている可能性も」と言っていたのでその辺りをもっと調べるべきか。彼は遺伝子パターンの違いが点滅間隔の違いに反映されると見ていたのだが、どうもそれは異なる可能性が高くなったと思われる。私の考えでは、点滅パターンの違いは遺伝子よるものでなく、関西弁と東京弁の違いみたいなものではないかと推測する。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ゲンジボタルが東西で点滅の間隔が異なり、遺伝子解析の結果からも2種に分化しつつあるのではとの説が唱えられた。
・そこでNHKでは全国の視聴者に呼びかけてゲンジボタルの映像を送ってもらい、その点滅パターンを解析した。
・その結果、確かに西には2秒間隔のもの、東には4秒間隔のものが多い傾向は出ていたが、中間のタイプが全国に広く分布していることが判明した。
・なお五島列島には独自の1秒間隔のものも存在した。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・明らかに加藤氏の仮説に基づいて作りかけていた番組が、調査の結果を受けて「おいおい」といろいろ組み直したという形跡が感じられるんですよね。正直なところ予定通りに行かなかったってところじゃないでしょうか。
・これ民放とかの安直な番組(例えば「あるある大事典」とか)だったから、調査結果の捏造をしかねませんが、この番組に関してはそれはやらなかったようです。
・もっと調査結果を捏造しちまったら、加藤氏がそれを信じて論文書いちゃったら、彼の研究者生命を終わらせかねませんから。さすがにNHKもそれはヤバすぎて無理。

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