教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/9 NHK ガッテン「新発見"寿命が分かる数値"!? 1分間で寿命点検SP」

 今回は「ある数値で寿命が分かる」という話。

統計データから分かった事実

 そのデータの元となったのは花巻市大迫(おおはさま)町。ここの住民はみんなマイ血圧計で33年間毎日血圧の測定を続けたのだという。住民1900人、非常に素晴らしいデータである。そしてこのデータを元に、上が135で下が85という現在の高血圧の基準が設定されることになったとのこと。というわけで「大迫半端ないって!」とのこと。ガッテンってこういうベタなのが好きだな。

 で、その問題となる数値だが実は血圧ではない。血圧に付随して計測される心拍数の方である。心拍数のデータを見ていたところ、心拍数の高い人は血圧が高くなくても突然死する可能性が高いということが分かったのだという。

心拍数が上がると突然死の確率が増す

 番組ではここで各動物の心拍数を紹介するのだが、象などは30拍/分なのに対し,マウスなどは500拍/分と体の大きさによってかなり脈拍数が違うことを紹介。ここまで来たところで、動物の一生のうちの脈拍数は一定(心拍の少ない動物の方が長生き)という説があるのでこれを紹介するのだろうと思っていたのだが、さにあらず。番組はそこはスルーしてゲストの心拍数測定に進む。なぜ?

 脈拍数による突然死のリスクなのだが、心拍数60の人を基準にすると、74以上になった場合には2.61倍にもなる。脈拍が5上昇すると突然死のリスクは17%上昇するとのこと。先ほど測定したゲストの脈拍数は軒並み90を越えていたので、皆さん余命幾ばくもない・・・というわけではないという。脈拍は活動などによって変化する(恐らく全員本番中なので高いのだろう)ので、実はこの脈拍を測るタイミングが重要なのだとのこと。

 

脈拍は起床時に測定する

 ではどのようなタイミングで脈拍を測るのかというのをガッテンボーイの宮森くんと池田くんが実験。実験の結果、宮森くんの方が寿命が短いという結果になったそうな。で、その実験であるが、二人が豪華ホテルで一緒に1日を過ごすというもの、二人とも「いつもこんな実験だったら良いな」などとテンション上がりながらもゆったりとホテルライフを満喫。その間、腕時計型の心拍計で常時監視付きという実験である。実験が終わって二人の心拍を診てみると、状況によってどっちが多いかは変わっている。その中で宮森くんの方が寿命が短いと判断されたのは、起床時の心拍数が多いから。

 ということなんだが、ここでゲストから「じゃあこの実験、普通に良い思いしただけなんじゃ」というツッコミが入るのですが全く同感。二人が番組の制作費でホテルに泊まったというだけで実験としては全く意味がないです。志の輔氏が「心拍は1日でいろいろ変わるということを示した」という類いのフォローを入れてますが、正直なところ「心拍はすぐに変化するので起床時に測定することが重要です」のナレーションの一言で終わらせても全く問題はない。何のための実験なのか最初から目的が不明。実のところ、時間稼ぎの気配がプンプンする。

脈拍が寿命に影響する理由

 では心拍数が多いのがなぜ寿命に悪いかだが、まず心拍数が多いのはアドレナリンの濃度が高いことを意味するからだという。実際に今回も起床時に二人の尿からアドレナリン濃度を測定したところ、宮森くんの方が倍以上の数値を示したとのこと。そして心拍数の多い状態が続くと、血管に負担がかかる上に、心臓から炎症物質が分泌されることで抵抗力が低下したり、ガンを引き起こすことがあるとのこと。

 心拍数の増加を引き起こす要因であるが、たばこ、酒、ストレス、運動不足、睡眠不足、疲労などが考えられるという。夜にぐっすりと深い眠りが取れるということが大事とのことなので、睡眠時無呼吸症候群を持っている私などは完全にアウト(夜中に息が詰まって目が覚めることがある)。

 なお心拍数の測定方法だが、起床後1時間以内、トイレの後、朝食は摂らない、座って姿勢良く・手は心臓の高さという条件で測定して欲しいとのこと。毎日脈拍を測定していると体調管理のバロメーターとして使用できるのでお勧めとのこと。

 

心拍数を下げるメディ・ヨガ

 そして最後は当然のように心拍を下げる方法になる。ここで取材班はスウェーデンに飛ぶのだが、その方法とはゆったりと床に横になるというだけ。ポイントは鼻からゆっくりと空気を吸い(8秒ほど)、1秒呼吸を止めてから、次は口をすぼめて8秒かけて息を吐き出すとのこと。スウェーデンではメディ・ヨガなどと呼ぶらしいが、要は呼吸法を利用したリラックス法である。これを実践した宮森くんは心拍が10低下して目出度し目出度し。なおぬるめのお湯に10分ぐらいゆったり浸かるという方法もあるとか。やっぱりただのリラックス法である。

 一番最後にはとにかく脈拍を下げる方法として、水に頭まで浸かるという方法が登場。これは潜水反射と言って、生命を守るために脈拍を落として酸素の消費量を減らすらしい。しかしこれではアドレナリンは減らないとのこと・・・って意味ないじゃん!


 情報としては有用な内容なんですが、何やら番組の進行やら論理構成に無駄やら意味不明なものがあったりと、全体的に構成が雑な印象を受けました。しかも1つのネタで1本作るためにわざと引き伸ばしているのが透けて見える部分なども多々あり。またこの番組を見ていても、アドレナリンが多いことが悪いのか、心拍数が高いことが悪いのかの区別が非常に曖昧でした。さらに心拍が多いのがダメなのなら「それだと運動とかはしない方が良いってことになるんじゃ」というツッコミが入って然り。全体を通じて番組の作りとして「下手だな」というのが正直な感想。

 内容には問題ないのですが、どうも最初から最後まで「はぁ?」って首をかしげてしまう展開が多かったです。あんな意味のない実験するぐらいなら、お得意の模型を出してアドレナリンくんと心臓くんの関係を紹介した方が良かったんじゃないですか? それとも模型担当者が正月休みを取ってたの?

 


忙しい方のための今回の要点

・寿命を左右するバロメーターとして心拍数がある。心拍数が高い人は突然死の可能性が高くなるという統計データが出ている。
・ただし心拍数は日常変化するので、測定は朝の起床時に行う。心拍数が高い人はアドレナリンの分泌が過剰になっており、血管に負担がかかったり、炎症物質の影響で免疫力低下やガンの発生などの危険があがる。
・心拍数を下げる方法として、床に横になってゆっくりとした呼吸を行うメディ・ヨガの方法がある。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・アドレナリンはいわゆる「戦闘モード向けドーピング剤」みたいなものですから、過剰に分泌されれば体に負担がかかるのは理の当然でしょうね。ただ朝から心拍が高い人ってのは、朝から元気いっぱいのアクティブな人ではないかという気もするんですが。実際に高血圧の人なんかも大体アクティブです。そしてこういう人は早めにコロッと亡くなります。結局は太く短くか細く長くかって話になっちゃう気もします。

 

次回のガッテン

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