教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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10/23 BSプレミアム 英雄たちの選択「"天下取り"への城~最後の巨大山城 小谷城~」

 今週も先週に続いて山城シリーズ。先週は鉄砲以前の時代の最強山城だった月山富田城だが、今週は鉄砲戦を想定して築かれた最強山城の小谷城。なおタイトルに「天下取り」とあるが、浅井氏は天下を狙っていたわけではないので、この城を落としたことで信長が天下取りへ進んだという意味だろう。

鉄壁の防御を誇る大要塞・小谷城

 まずは例によって千田氏がハイテンションで小谷城を見学に行っている。小谷城は全山を要塞にした巨大山城であり、今は木々に埋もれて遠くからは見えないが、多数の曲輪が山上に築かれていた。また通路などはうねっていて、そこを登ってくる敵兵は城兵からの十字砲火にさらされるようになっている。

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小谷城全図 まさに全山要塞である

 山上の長政の屋敷のある本丸は石垣で守られており、その正面には黒金門があったとされている。さらにこの城が面白いのは、この本丸の後のさらに高い位置にさらに曲輪があったこと。ここには浅井家の旧主であった京極氏が入る京極丸に、さらに長政の父・久政が住む小丸がある。

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黒金門の跡

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本丸前の石垣

 しかも小谷城はそれだけでは終わらない。ここからさらに尾根筋を50分ほど歩いた山頂には大嶽城という独立支城があり、これが背後からの攻撃を防ぐ形になっている。

 

小谷城を防衛する支城ネットワーク

 さらに小谷城は支城のネットワークも持っている。例えば小谷城の向かいにある横山城は3つの街道が集まる中心にあり、各方向からの動きが丸見えということになる。

 また各支城は街道を押さえる位置にあり、京への琵琶湖の水運も睨んだ位置になっている。つまりは京に北陸方面から運び込まれる米などの物資は、北近江を支配する浅井氏のの領内を通過することなしにはたどり着けないのである。この地の利こそが浅井氏の優位であったのだが、逆に言えばそれがあるからこそ他国からの野心家が狙ってくることになる(例えば織田信長だ)。

信長を裏切った長政

 浅井家はそれまで北の朝倉氏と同盟関係にあり、東の信長とはお市を妻に迎えて親密な関係となったことから安泰の立場であった。しかし信長が無断で朝倉氏を攻撃したことから両者の関係がおかしくなり、長政はとうとう信長を裏切ることになる

 長政裏切りの背景についてはいろいろ言われているが、私は信長から見れば美濃を攻略するまではその背後の浅井氏の存在価値があったが、美濃を攻略した後は要地である浅井氏の領土が欲しかったのだろうと見ている。だからある程度は長政の裏切りも織り込み済みだったような気もするし、また長政が裏切らずに信長に付いていったとしたら、いずれは完全に家臣扱いされて、その内に勝手に領地替えをされたのではないかと見ている。

 信長と対立することになった長政は、反信長包囲網に加わって信長と対峙することになる。この長政に対して信長は直ちに侵攻を開始、信長はまず横山城を攻撃、これに対して長政は援軍のために出陣、両軍勢は姉川で激突して信長が勝利を収める。浅井勢は小山城に撤退し、横山城は信長の手に落ちる。

 

信長優勢の中で長政の選択

 さらに信長は小山城攻撃の際に背後を突かれることを防ぐために、浅井領南部の佐和山城を攻める。さてここで長政の決断となるのだが、信長と和睦するか徹底抗戦するかである。番組ではゲスト二人が「ここまで来たら徹底抗戦しか選択肢はない」とし、千田氏と磯田氏は「和睦しても一度なら信長は許す可能性がある(松永久秀の例などがある)」としているのだが、私の考えは先にも述べたように、ここで和睦しても信長にアゴでこき使われるだけであって、どう転んでも浅井氏に将来はないということで、やはり徹底抗戦しかやむを得ないと考える。実際にこの時点では一向一揆なども反信長で動いているし、東では武田信玄が上洛の動きを見せるなど、信長は絶体絶命の状態だったので、勝ち目のない戦いというわけではなかった。

 こうして長政は徹底抗戦を選択するのだが、これに対して信長は小山城の向かいの虎御前山に陣城を築き、さらに横山城との間に物資輸送の軍用道路を建設するなど、万全の構えで小山城攻略に臨んでくる。

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小谷城からそこに見えるのが虎御前山

小谷城落城

 この圧迫感はかなりのものだったろう。しかも長政の味方となる勢力は比叡山は焼き討ちされ、武田信玄は病没してしまう(これが最大の不運だと思う)。こうなると敗色が漂い始め、そうなると家臣の離反が起こるもの。小谷城西方の山本山城が秀吉の調略で織田に下り、小谷城は背後からの攻撃を受けることになる。織田軍は一気に背後から攻撃をかけ大嶽城を落とす。これは小谷城の西の尾根もを失うことを意味し、尾根の間の谷筋に織田軍が入り込んでくることになる。

 そして秀吉の軍勢が一気に斜面を登って京極丸や小丸を攻撃、小谷城は分断され浅井久政も自刃する。事ここに至って長政は最後を覚悟し、お市と娘たちを信長の元に送った上で自ら攻撃に加わり、最後は自刃する。

 

山城の時代の終焉

 その後、この地は織田氏の支配下に入るが、秀吉が長浜城を湖岸に建設したことなどから小谷城は廃城となる。時代は地形の堅固さにたよる山城の時代から、政治経済の中心である平城の時代へと移っていくのである。小谷城ほどの堅城でも織田軍を防ぐことが出来なかったというのは、山城の時代の終わりを告げる事件であったと番組はしている。

 長政は少し考えの古いタイプの良い人だったから、信長のような革新的な人間とは相性が悪かったのではということをゲストが言っていたがこれは同感。またこのタイプの人間は散々ストレスを溜めた挙げ句に突然爆発しがちとのことで、これが裏切りにつながったのではとの分析だが、私はどっちに転んでも長政は信長と雌雄を決するか、それとも完全にその支配化に下るかの二者択一しかなかったと考えている。

 

 なお東の武田という脅威がなくなった後の家康の立場も長政と近いものがあり、信長は武田が健在の時でこそ家康を同盟者として重視したが、武田消滅後はいずれは完全に家臣扱いするか滅ぼしてしまうかのつもりだったと見ている。そしてそのことは家康も重々分かっていたはずである。というわけで、私は本能寺の変の背後には家康の関与があるという説を唱えているのであるが。

 それにしても浅井長政の最後を見ていると、いつも言いたくなるのは「おい、朝倉は何してるねん」ということ。姉川の戦いの時も援軍は送ったもののあまり本気で戦った様子はなく、その後も長政の孤軍奮闘を指をくわえてみてただけで、小谷城を落とした信長がその勢いで朝倉領に攻め込むとあっという間に滅亡している。このざまを見ていると「朝倉氏、無能すぎだろ」と言いたくなるところである。せめて朝倉氏が背後から浅井を支援する動きを見せていたら信長ももう少しやりにくかったろうし、そうなると状況がまたどうなったか分からなかったと考えている。

 

忙しい方のための今回の要点

・浅井氏の小谷城は、全山を要塞化している上に、鉄砲を使った完璧な防御を計算した難攻不落の山城である。
・さらに浅井氏は支城群で小谷城を支援すると共に、京への街道などを押さえるという重要な位置を占めていた。
・信長が朝倉氏を攻めたことで長政は信長を裏切り対立することになる。
・信長は小谷城の支城を攻略し、小谷城の向かいに陣城を築いて鉄壁の包囲体制を築く。
・小谷城は背後からの攻撃を受けた上に、最後は谷筋からの突撃を受けて本城が分断され、浅井長政も自刃することになる。
・小谷城ほどの鉄壁の山城でさえ信長に対抗できなかったことは、山城の時代の終焉を意味し、これ以降の城は政治経済の中心である平城が中心となっていく。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・どうもいろいろな資料を調べれば調べるほど、浅井長政って「いい人」なんですよね。領民を大事にしたようだし、お市とも政略結婚でありながら夫婦仲はかなり良好だったと言うし。結局はこんな時代は間違いなくいい人は真っ先に死ぬ。
・こんな時代に頭角を現すのは、信長のような少し頭のおかしい悪人(笑)。乱世の姦雄というやつです。長政に信長の1/10でも図太さがあったら、もう少し時代も変わったかもしれません。

 

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