教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/23 NHKスペシャル「食の起源 第5集 「美食」~人類の果てなき欲望!?~」

 通常生物は生きていくためのエネルギー補給として食事をする。しかし人類は美食を追求し、楽しむために食事をするというまさに美食モンスターと言える。どのようにして人類がこのような美食モンスターとなったか。それには人類が持つ特殊な能力が影響しているという。

 

人類を「美食モンスター」にした苦味遺伝子

 まず第1の特殊能力であるが、それを示しているのは他の人には分からないような細かい味の違いを判別できる敏感なソムリエ。彼女の特徴は苦味遺伝子を持つことだという。苦味遺伝子とは苦味を感じることができる遺伝子であり、そもそもは毒を排除するために人類が装備するようになったものであるが、実はこれが美食と関係しているというのである。人類の祖先は6万年前寒冷化で食料が不足した時、やむなく苦味のあるものも食べるようになったという。この時に不運にも毒に当たってしまった者は体を壊したり命を落としたりするわけであるが、そのような変調が起こらなかった場合にはそれは安全なものとして記憶に残るようになる。そういうことを繰り返しているうちにデータが蓄積すると、眼窩前頭皮質が記憶をたどり、体に良い苦味の場合には積極的に摂取するようになったのだという。つまり苦味が美味しいと感じるようになったのだという。実際に番組ゲストが実験していたが、通常の料理に苦味ソース(コーヒーから作ったとか)を加えた方が味か深くなって美味しいと感じるとのこと。

 

鼻と口がつながったことで鼻で味を感じるように

 人類が持つ第2の能力は嗅覚に関するもの。実は人類が食べ物の「味」として感じているものは、味覚よりも嗅覚の比率の方が高いと言われている。実際に無嗅覚症を患った患者の証言によると、食事に全くおいしさを感じなくなった(段ボールを食べているよう)という。

 このような食べ物に対する嗅覚の影響は、人類の遠い祖先の進化が関わっている。人類の進化の過程で頭蓋骨の変化が起こり、鼻づらが短くなったことが影響しているという。人類の2億年前の祖先はは鼻づらが長くて嗅覚が鋭い(ネズミのような生き物)。この頃の彼らは夜行性であり、危険を避けるために鋭い嗅覚が必要であった。しかしその後、恐竜が絶滅して昼行性になると視覚を中心に活動するようになり、嗅覚の比重は落ちてくる。その時に起こった劇的変化が口と鼻がつながる(かつては骨で分かれていた)という現象であった。これによって口の中に広がる食べ物の香りを感じるようになった。これはそうなるのを目的として進化したわけではない進化の想定外だったが、そもそも嗅覚センサーは味覚センサーよりも多いため、においの刺激は美味しさとより強く結びつくようになった。しかも200万年前火をつかいはじめると食べ物の香りがより強くなる。こうして風味が食欲をかきたてる要因になったのだという。

 

さらに共感力も食欲をかき立てる

 そして第3の能力は味覚や嗅覚を上回る感覚であるという。被験者を二組に分けて同じ料理を食べてもらう実験では、料理名を美味しそうに変えるだけで料理に対する満足度が上がるという結果が出たという。また苦味感じる遺伝子のあるチンパンジーは苦味をつけた餌を食べないが、横で別のチンパンジーがそれを食べているのを見ると、自分も食べるようになるのだという。これこそが仲間に共感するという能力。人類は前頭葉の発達とともに仲間への共感の能力を身に着け、仲間が美味しそうに食べているものを美味しいと感じるようになったのだという。つまり他人が美味しそうに食べているものは、自分も美味しいと感じるようになったのだとのこと。ということは、口コミで踊らされて自分の舌で判断できない奴は最先端の人類?

 

子供の食生活改善のためのプログラム

 フィンランドでは子供の食習慣の改善のためのプログラムとして、体の五感を使って様々な食材に触れるというようなことや、森の中で食べられるものを探すなどということを行っているという。食材に対して興味を持たせることで、野菜嫌いの子供がいろいろ食べるようになったとのこと。

 まあつまりは、美味しさは世界の言葉?・・・ 日清食品かい!!

 

 苦いものを食べるなんてのまさに学習効果の賜物です。だから子供はピーマンが嫌いなんです。というわけで子供は青ピーマンなんて食べなくても良いというのはガッテンの話でした。実際に私なんかも宮島での登山で極度に疲労した時に牡蠣を食べたら体調が良くなったという学習がされたせいか、とにかく疲れるとやたらに焼き牡蠣が食いたくなったりします。また逆に風邪気味で体調が悪い時に缶入りコーンスープを飲んだら吐いてしまって、それからしばらくコーンスープを体が受け付けないということもありました。こういうことから、やっぱり人間って頭で食ってるんだなと感じたことがあります。

 しかし食欲の制御というのは人類にとって重要課題となりつつあります。今時は成人病が洒落にならない状態になってきたから。その一方で若い女性の摂食障害などによる異常な痩せという問題も発生しており、今の人類はあちこちがおかしくなっているようです。

 

忙しい方のための今回の要点

・人類は苦味を感じる遺伝子を持っており、本来は苦味を毒として避けるのだが、6万年前の氷河期の食糧不足であえて苦いものでも食べないといけない状況になり、その中で苦くても体に悪くなかったものは逆に美味しいと感じるようになった。
・また人類は進化の過程で鼻の骨が短くなって口との仕切りがなくなるということが起こり、食べ物の匂いを強く感じるようになったため、風味などの嗅覚に基づく味の記憶が強くなり、これが美食に向かう動機にもなっている。
・さらには人類には共感力があるので、他人が美味しそうに食べているものは美味しいと感じるようになっている。

 

忙しくない方のためのどうでも良い点

・で、人類の共感力を最大に利用しているのが、テレビで大量に垂れ流されているグルメ番組というわけですか。しかしたまに、あまり美味しくない時にそれが露骨に顔に出ちゃう人もいるんですよね。ああなった場合は逆効果と言うことですね。
・BS4Kで73分バージョンを放送とのことですが、多分海外輸出を意識してTOKIOのグダグダトークを省いたものだろうと思います(海外版にTOKIOを出したところで「誰?」になるだけだし、その上にジャニーズ事務所からは別料金を請求される)。NHKは人体とかでも同じようなバージョン作ってましたから。その内にいずれ(年末年始ぐらいか)BSプレミアムあたりで放送するでしょう(笑)。

 

前回の放送

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