教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/2 NHKスペシャル「食の起源 第4集 酒~飲みたくなるのは"進化の宿命"!?~」

 人類を魅了してやまない酒だが(私は魅了されないのだが・・・)、実のところは酒を飲める動物は限られている。また酒は人類にとってストレス解消などの効果がある一方で、ガンなどの原因になるなど確実に毒でもある。最新の研究ではアルコールに適量はなく、少量でも病気の確率が増すという。それにも関わらず人は酒を飲む。それはどうしてかという話。

 

酒だけで生きている民族

 エチオピアのデラシャという民族はパルショータという酒だけを飲んで生活している。アルコール度はビール程度とのことだが、彼らはこの酒を1日に5リットルも飲んで、肉や野菜などの他の食べ物は一切摂らないのだという。何と子供までもう少しアルコール度数の低い酒を飲んでいるのだとか。それにも関わらず彼らは健康そのものである。調査の結果、この酒には必須アミノ酸やミネラルなどの豊富な栄養が含まれることが判明したとのこと。ただこのようなことができるのは人類が飲兵衛遺伝子を持っているからだという。

 

1200万年前に人類が飲兵衛遺伝子を獲得した理由

 人類とアルコールの関わりは1200万年前まで遡る。この時に人類に劇的な変化が起こる。人類がアルコール分解酵素を持つようになったのである。この酵素を持つ生き物は人間以外ではゴリラやチンパンジーなどごく一部の霊長類に限られる。なぜ人類の祖先がそのようなものを持つに至ったかは当時の環境が影響している。

 それまでの時代は地表は森に覆われ、人類にとって木の実などの食べ物は豊富にあった。しかしこの頃から地表は寒冷化が進み食べ物が不足し始める。すると落ちてしばらく放置されいた果実なども食料として取る必要に迫られる。これらの果実は発酵してアルコールが発生している場合が多い。するとこれを食べるとアルコールが体内に蓄積して酔っ払ってヘロヘロになってしまう。その状態ではまともに走ることも出来ないので肉食獣の餌食になる可能性がある。しかしここでアルコール分解酵素を持つ者は、発酵した果実をものともせずに摂取することが出来る。こうして生存に有利になった彼らの子孫が繁栄したのだという。

 

1万2千年前の飲みニケーション

 この頃の人類の祖先は謂わば「やむを得ず」アルコールを摂取していたわけであるが、それがやがて積極的にアルコールを摂取するようになる。そのような変化は1万2千年前の遺跡に見られるという。世界遺産であるギョベックリ・テペ遺跡は巨大な神殿の跡である。これような神殿を建設するには大勢が力を合わせる必要がある。

 この遺跡では巨大な石の器のようなものが発見されており、これを使用して麦からビールのような酒を醸造していたらしいことが分かっているという。実はこの神殿の周辺には異なる部族が住み着いていた。発見された遺骨の中には争いで殺害されたと見られる遺骨も存在するという。そんな彼らを結びつけたのが実は酒なのだという。人間の脳の表層部は理性を司る部分で、ここは同時に他人に対する警戒心なども司っている。しかし人間は少量でもアルコールを摂取するとこの脳の表層部の働きが低下することが分かっているという。すると警戒心など薄まり、初めての相手に対しても開放的な気分になってつきあいやすくなるわけである。つまりはアルコールを使用した飲みニケーションで部族同士の争いを防いで協力できる体制を作ったと考えられるとのこと。

 

アルコールに支配された人類

 しかしエジプトの時代になると状況は変わってくる。ピラミッド建設の労働者にはビールも賃金として支給されていたという。そしてこの頃からよりアルコール度数の高いワインなども製造されるようになる。すると酔うことを目的としての飲酒の習慣が広まっていく。当時の貴族などは吐くまで飲んでいたのだとか。アルコールは脳の血管をすり抜けて脳細胞に直接働きかけ、快楽物質であるドーパミンの分泌を促す。人類はアルコールによる快楽の虜になり始めたのである。そして効率よく酔うためのよりアルコール度数の高い酒の製造も研究され、ついにはウォッカなどの蒸留酒が登場することになる。

 

突然にアルコールに弱い人種が出現

 こうしてアルコールと永らくつきあってきた人類だが、その後に奇妙な事件が起こる。現在日本・中国・朝鮮などの一部のアジア人にアルコールに弱い者が存在することが知られているが、これは大昔にあえて酒に弱くなる変化がこの地域の人に起こったのだという。

 酒に弱いというのはアルコールの分解の過程で生成するアルデヒドを分解する酵素の働きが弱いということである。このような人が登場したのは6000年以上前だと考えられるという。そしてその酵素の働きが弱い人の分布を調査した頃、それが稲作の広がりと非常に一致した。つまりは稲作の広がりとアルデヒド分解古層の働きが弱い人の登場が相関していると考えられるのだが、その理由は未だに明らかではない。ただ一つ興味深い仮説が存在するという。

 それは稲作を行うことによって人は水辺の細菌の多い環境で生活することになる(稲は湿地の作物である)。それは必然的に体内に諸々の細菌を取り込むことになり、いろいろな病気の原因となり得る。しかしアルデヒド分解酵素の働きが弱い人は、酒を飲むと体内でアルデヒド濃度が上がるので、それが体内の殺菌に対して除菌剤として働いたのではないかという説である。結果として酒に弱い人の方が病気にかかりにくくなって生存に有利になったということらしい。ホンマかいなという気もするが、面白い説である。

 ただアルデヒドは毒であるので、本来は速やかに処理されるのが好ましい。衛生状態の良くなって現在ではアルデヒドの分解能力が低いというのはガンになる確率を上げることになるらしい。日本人の4割はアルコールに弱いタイプの遺伝子型を持つと言うことなので、日本人は酒に注意した方が良いようだ。

 

ノンアルコールビールでも酔える!?

 アルデヒドは体に毒だが、脳はアルコールを求める。このジレンマを解決するべく最近開発が進んでいるのがノンアルコールビールである。ビールが水が割なんて言われているドイツでは400種類ぐらいの製品が乱立しているらしい。最近は味は本当のビールと変わらないようなものまで登場していると言うが、最近の研究によると、このようなノンアルコールのビールを飲んでも人はリラックスして酔っ払うということが分かってきたとか。アルコールを飲んで酔っ払った記憶から、同じ味のものを飲んだ時に脳が同じ反応をするのだとか・・・ということは私のようにアルコールを飲んで酔っ払ったという記憶が脳にほとんどない人間には反応は出ないと言うことか? ちなみに私は宴会に行くと、ウーロン茶でも酔います(笑)。


 以上、人間を魅了し続けている(私は魅了されていないが)アルコールについてのお話。脳内でドーパミンを分泌させるというのはいわゆる麻薬などにも共通する特性なので、これがアルコールの依存症がある理由であると納得できる。要は人間は快楽物質であるドーパミンを追究するので、それを分泌させる方法がアルコールだったり、麻薬だったり、ギャンブルだったり、エッチだったりなど人によって様々であるが、結果は同じということである。その内に頭に電極をブスッと刺して、直接電気刺激でドーパミンを分泌させるようになるような気がする。ワイヤードの世界でまさにSFそのものなのだが、頭に電極を刺してうつろな目でボンヤリしている人間を想像したら、世も末という気持ちも強くなるが。

 

忙しい方のための今回の要点

・人類の祖先がアルコール分解遺伝子を持つようになったのは1200万年前。寒冷化による食糧事情の悪化のため、落ちて発酵してしまった果実などを食べるのに都合が良かったのだと推測されている。
・アルコールは脳の理性を弱めて開放的な気分にするので、1万2千年前に飲みニケーションで部族間の争いを防いでいたらしき遺跡が残っている。
・しかし段々と人類は酔うことを目的に酒を飲むようになり、それと共にアルコール度数の高い酒が次々と開発されていった。
・一方、6000年以上前にアジアではアルコールに弱い人種が登場。稲作の広がりと関係していると見られるが原因不明。ただ体内のアルデヒド濃度が高くなることで、体内に入った細菌を殺菌できたのではという仮説が存在する。
・現在、ノンアルコールビールが多数登場しているが、研究の結果によるとノンアルコールビールでも人間はアルコールを摂った時と同じ反応が出ることが分かってきた。

 

忙しくない方のためのどうでも良い点

・私はアルコールが全くの人間なのですが、正直なところアルコールを飲めたらな・・・と思うことはあります。今の世の中、素面で渡っていくのは非常に辛いところがあります。飲まずにやってられるかというような気分になることが多々。
・で、次回は最終回で「美食」だそうですが、その前に再編集版を放送するようですね。TOKIOのグダグダを抜いてくれるんなら、その方が分かりやすいですが。

 

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