教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

"太平洋戦争の分水嶺となったガダルカナル敗戦の真相" (8/12 NHK 歴史秘話ヒストリア「ガダルカナル 大敗北の真相」から)

太平洋の小島を巡っての日米両軍の激突

 太平洋の小島の空港を巡って日米両軍が衝突し、結果として日本は1万5千もの将兵が死亡するという大敗北を喫したガダルカナルの戦い。その経緯をアメリカ側の資料をも交え検証、その敗北の原因を調べるという内容。実は昨年のこの時期にもガダルカナルについてはNHKスペシャルで放送されており、その内容とかなり被る。

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 まずガダルカナルの戦いであるが、最初はこの島に空港を建設しようとしたのは日本軍である。目的はオーストラリアを支援するアメリカのハワイからの航路を分断しようという考えであった。日本軍は現地民を動員して滑走路の建設を始める。

 しかし米軍がそれに対して動きを開始する。米軍は海兵隊員1万人を動員して空港を占拠、ただちに機械力を動員して空港を完成させる。この空港の奪取が日本にとっても重要な課題となることになる。

 

陸海軍連携しての奪還作戦が計画されるが

 大本営では飛行場建設を進めていた海軍が、空港奪還のために陸軍に部隊の派遣を要請する。こうして太平洋で初の陸海軍協同作戦が実行されることになった。

 まず連合艦隊に出撃命令が下り、三川軍一中将率いる艦隊が夜陰に紛れてガダルカナル沖のアメリカ艦隊に接近して奇襲をかける。この攻撃にアメリカ軍は大混乱に陥る。この第一次ソロモン海戦は日本側の大勝利に終わり、アメリカ艦隊はガダルカナルから撤退し、島の海兵隊は置き去りにされることになる。

 そこでさらに日本側は空港占領のための部隊を送り込むことになるのだが、そこで間違いが生じる。島に残存するアメリカ軍の兵力を読み誤ったのである。大本営は偵察機による「米艦隊が撤退した」という報から、上陸軍も大半が撤退したと判断し、敵兵力は2000程度と推測していた。ここまでの連戦連勝で楽観論に拍車がかかっていたのだという。

 現地の司令部では二見秋三郎参謀長がこの読みに危険を感じる。彼の読みではまだ米軍の過半の7~8千は島に残っていると読んでいた(結果的には彼のこの読みが実際の兵力と一番近い)。しかし彼の考えは弱腰として批判され、精神論の前にかき消されることとなる。

 

二度にわたっての攻撃は失敗に終わる

 こうして1000人に満たない一木支隊が派遣されるのだが、米軍の圧倒的な十字砲火の前に進行を阻まれ、さらには背後に回り込んだ戦車によって殲滅される。916人中777人が死亡するという事実上の全滅をする。

 この報告に大本営は衝撃を受けるが、失敗の原因を反省することはなかった。なおこの番組では触れていないが、軍は攻撃の失敗を全て前線指揮官の一木大佐に被せて責任逃れをしたらしい。

 大本営は次は6000人の大部隊である川口支隊を投入する。指揮官の川口清健少将はジャグル戦に通じた知将で知られていた。彼の作戦は東西両方面から空港を攻撃、しかしこれは陽動作戦で、その間に南部のムカデ高地から部隊が敵基地に接近して手薄な司令部を落とすというものだった。実際に南からの部隊は敵司令部の目前まで迫ったという。この時に司令部を落とすことに成功していたら、米軍は大混乱に陥ってガダルカナルの奪取は可能であったという。またここでガダルカナルを失うという痛手を蒙れば、太平洋方面で米軍が戦闘を続ける意欲自体を失った可能性もあるとアメリカの戦史研究家は言っている。

 しかし敵司令部を目前にして日本軍の進行は停止してしまう。圧倒的な米軍の火力に進行を阻まれてしまったのだ。米軍は大量の兵器を動員していたのに対し、日本側は十分な補給を得ることが出来ないでいた。武器を運ぶ輸送船を海軍が出し渋ったのが原因とのことだが、この頃になると海軍の輸送船の被害もかなり出ていたようなので、海軍としてもホイホイと補給に応じられる状況でなかったのだろう。結局は川口支隊は633人の犠牲者を出して敗北する。その最期の舞台だったムカデ高地は「ブラッディリッジ(血染めの丘)」と呼ばれることになったという(なんか「ハンバーガーヒル」を連想させる)。

 

戦闘は泥沼化して日本兵はジャングルの中で餓死

 十分な補給によって戦力を充実させていく米軍に対し、日本軍は追加の兵員を送り込むものの、制空権を奪われたことで補給船が米軍の攻撃を受けて十分に物資の輸送が出来ず、その攻撃は米軍によって退けられることとなる。敗北した兵達は再起を期してジャングルに潜むことになるが、ここからが地獄となる。ジャングル内の日本兵は敵と戦う前に飢えとの戦いに苦しめられることとなる。当時捕虜になった日本兵の映像が残っているが、20代の若者とは思えないガリガリの衰弱ぶりであり、最早戦闘どころか生き抜くことさえが困難になっていたことが覗われる。補給が途絶えた状態で2万の日本兵が取り残されていた

 この事態に大本営ではガダルカナル島放棄もやむなしということになるが、海軍も陸軍も共にメンツにこだわってそれを提案できずに無駄に時間を費やすことになった。その間にもジャングルの中で1万5千もの日本兵が次々と病や飢えで命を落としていた。現地には日本軍の墓が今も残っているという。今でも花を供えている現地民がいるという。悲惨な境遇に置かれた日本兵達は、原住民や米兵の目から見てさえ「哀れ」であったようである。

 そして1942年12月31日にようやく日本軍の撤退が決定される。生き残った兵士は脱出をする。

 

 以上、ガダルカナルの状況ですが、「根拠のない楽観論に基づいた甘い戦略」「失敗時に責任逃ればかりする上層部」「泥沼の状況になって機敏な戦略変更が出来ず、さらに傷口を広げてしまう」などという典型的な日本型組織の失敗の構造が端的に現れており、それは今回のコロナ騒動に関する日本政府の対応そのもの「オリンピックまでには終息するだろうという根拠ない楽観論に基づいて対策を怠り」「明らかな初動での失敗も誰もその責任を取らずに逃げ回り」「検査をしないという方針が間違っているのが明らかになっても、それを変えることが出来ずに対策を打てない」とまあ、ここまで見事に大日本帝国の悪習を踏襲するとは呆れる限り。

 なお今回の番組では触れていませんでしたが、ガダルカナル敗北の全責任を負わされることになった一木大佐の長女は、亡国の軍人の娘とみられることを恐れて父のことはずっと隠していたという。コロナ感染を患者や感染を出した店などのせいにして叩いている今日の状況というのもこれまたあまり変わっていない。

 

忙しい方のための今回の要点

・ガダルカナル島に日本軍が米軍のオーストラリアへの航路を妨害するための空港の建設を始めるが、建設途中で米軍の攻撃を受けて占領される。
・大本営は空港奪還のための陸海軍協同作戦を実施することにする。海軍はガダルカナルの米艦隊に夜襲をかけて大勝利する。
・この時に米艦隊が撤退したことから、大本営はアメリカの残存兵力は2000程度と推測して1000人ほどの一木支隊を送り込む。現地の参謀長はその甘い観測に疑問を呈したのだが、弱腰の意見と退けられる。しかし一木支隊は待ち構えていた1万の海兵隊による猛攻撃の前に全滅する。
・これに驚いた大本営はさらに6000の川口隊を派遣。川口隊は米軍の司令部の目前にまで迫るものの、米軍の火力の前に敗退してしまう。
・日本はその後も2万の兵を送るが基地の奪取に失敗。ジャングルに潜んで再起を期すことになるが、補給が滞る中で日本軍は1万5千もの兵が飢餓や病気で命を落とすことになる。
・陸海軍共にメンツにこだわった結果、撤退の判断は大幅に遅れる。ようやく撤退が決定したものの、多くの日本兵が犠牲となった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・本当に、第二次大戦の記録を見ていると日本のダメダメさには嫌気がさしてくる。ネトウヨさんのように「日本はすごかった」「日本は立派だった」という妄想戦史に逃げたくなる気持ちも分からないではない。だけど過去の反省をまともにしたなかった結果が今のダメダメ政府だから、やはり救いのない過去は直視の必要がある。

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