教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/4 所さんの目がテン!「意外としらない?接着剤の正しい使い方」

現代社会のあらゆる場面で使用されている接着剤

 現代ではあらゆる場面で接着剤が使用されている。東京スカイツリーの表面タイルは接着剤で貼られているし、飛行機の製造にも接着剤が使われる。表面などにリベットの代わりに接着剤を使用することで、軽量化と空力抵抗の減少の効果が出ているのだという。ちなみに9/29は「くっつく」と読んで接着の日なのだとか。全く今は何の日でもある。

 接着剤はブレーキのブレードを固定するのにも使用されている。強い衝撃を受ける上に高温になるので接着剤が良いのだとのこと。またヴァイリオンの名器ストラディヴァリウスも膠を接着剤として使用させているが、膠は何度でもはがして張り直せるので、修理をすることが可能であり、これが数百年前の名器が今でも健在で奏でられる理由だという。

 しかし接着剤には着きやすいものと着きにくいものがある。この違いは何かであるが、それは濡れ性が影響するという。濡れやすい素材ほど接着がしやすいのだとか。だから濡れやすい金属は接着剤で着けやすいが、濡れにくいポリプロピレンなどは接着しにくいという(接触角が問題となってくる)。

 ただし濡れただけだとズレてしまうので、さらに固化するのが重要。さらに固化する際に表面の微細な穴などに入り込んで固まることでより接着力を増すことになり、これをアンカー効果というらしい。

 

用途別の接着剤の選択

 接着剤はその選択も重要である。ここで「接着剤マニア」という神戸芸術工科大学教員の野口僚氏が登場する。100種の接着剤を使い分けると言うから確かにマニアである。

 まずははがれた皮靴底の接着から。一般的にはボンドなどを使うところだが、野口氏が選んだのはセメダインスーパーXゴールド。ボンドは合成ゴム系の接着剤だが、野口氏の選んだのは変性シリコーン系接着剤で、こちらの方がショックや水に強いのだという。

     
野口氏の使用したセメダインスーパーXゴールド

 接着の仕方としては、この場合は両面に塗るのがポイント。さらに接着剤が空気中の水分に反応して固まるので、貼り合わせる前に1分ほど放置してから貼り合わせる。そして接着剤のもう一つのポイントが「接着剤には2つの硬化時間がある」ということ。1つは手で押しても動かなくなる時間で、通常パッケージなどに記載されている接着時間はこれ。しかし実は「使用に十分な強度を持つ時間」というのが別にあり、これは大体どの接着剤でも24時間ぐらいだという。つまりは接着してからすぐに使わずに1日放置しろということ。

 次は折れたファスナーの接着だが、これには瞬間接着剤を使う。瞬間接着剤は付けすぎないことと、塗るとすぐに貼り合わせることがポイント。使用量は10円玉の面積でわずか1滴とのこと。金属素材は濡れやすいので狭い接着面積でも十分な接着力を確保できるという。

     

野口氏の使った「液量をコントロールできる瞬間接着剤」

 最後に割れた花瓶の修理だが、ここで用いるのは2液混合型のエポキシ接着剤。この接着剤は陶器と相性が良く水にも強いので水を入れても漏れない(そもそもエポキシ接着剤は「水中ボンド」と呼ぶ)。

   
そしてエポキシ系接着剤

 

木工用ボンドだけで椅子を作る

 最後は木工用ボンドだけで椅子を作ろうという話。この場合にポイントになるのは、まず接着面にやすりをかけて清掃すると共に細かい傷を入れることで接着力を上げるのだという。しっかりと接着剤を塗って貼り合わせると、圧着して乾燥させるのがポイント。木工用ボンドの酢酸ビニル樹脂は半分以上水分を含んでいるので、乾燥すると小さな隙間が出来る肉ヤセという状態になるので、圧着することでそれを防ぐのだという。

     
木工ボンドと言えば、やはりこれがベストセラー

 実際にこれをするのとしないのとで接着強度を比較すると、普通に貼っただけだと800キロで接着面がはがれたのに対し、これらの処理をしたものは1220キロで接着面でなくて木材が割れた。


 木工において強度を出すのは接着剤であって、釘やネジは接着するまで動かないようにするだけのものというのは木工の常識でもある。そもそも接着剤を否定することは合板を否定するのと同じである(合板は薄い板を接着剤で貼り合わせたもの)。だから合板を使いながら「釘を使わないと強度が不安」というのはナンセンスである。

 私は接着剤マニアでないが、かつてスピーカー自作などをしょっちゅうやっていた経験から、木工用ボンドとエポキシ接着剤には馴染みがある。特にエポキシ接着剤は非常に固いために、単に接着剤としてだけでなく、パテとしても使用していた。

 とにかく樹脂開発技術の進歩によって接着剤の性能は飛躍的に向上している。飛行機用の接着剤などは氷点下から200度以上まで対応可能というのだから、これは驚くばかり。ただ最近は建材に接着剤を多用するせいで、その溶剤が原因となった化学物質過敏症(シックハウス症候群)が問題となっている。そのために最近ではデンプン糊を使って製造した合板なんてものもあるとか。

 

忙しい方のための今回の要点

・接着剤は現在では飛行機やタイヤのブレーキなどあらゆる過酷な環境でも使用されている。
・接着のポイントになるのは素材の濡れ性。濡れやすいものほど引っ付きやすくなる。
・接着剤は2つの面の間を塗らして引っ付け、さらに微細な穴に入り込んで固化するアンカー効果で強力に接着する。
・接着剤を使用する場合は、動かなくなる固化時間でなく、十分な強度の出る固化時間(どんな接着剤でも24時間ぐらいとか)まで置くことが重要である。
・靴底の接着には変性シリコーン系接着剤、ファスナーなどには瞬間接着剤、壊れた花瓶などにはエポキシ接着剤など、素材と使用環境に合わせた最適の接着剤が存在する。
・木工用ボンドを使用する時は、接着面に軽く紙やすりをかけておくことと、貼り合わせてから圧着して放置することが重要。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・私は不器用なために釘をなかなか真っ直ぐに打つことが出来なかったので、木工を始めた当初はよく接着剤だけで作ってました。ただこの場合に問題になるのは、固まる前に接着面がずれることが多いこと。そのためにガムテープで固定するなんてことをよくやってましたね。後に私が釘を真っ直ぐに打てないのは使用していた金槌が軽すぎることが原因だったことが判明し、重めの金槌を購入して、細かくコツコツ叩かずに数回でガンガンガンと釘を打ち込めばズレも曲がりもしないことが分かってからは、釘を使用するようになりましたが。

次回の目がテン

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