教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/4 サイエンスZERO「食虫植物&命を救うタラ 進化の秘密に迫る!」

 今回のテーマは植物でありながら、まるで動物のように虫などを補食する食虫植物と、極寒い海で棲息していろいろな利用法のあるタラの2つ。過酷な環境に適応した「進化の秘密」という形で括っているように見えるが、その実は関係なくて、今回は単独だと30分の番組1本にはキツいという小ネタを2本立てで紹介したというのが現実である。

 

ゲノム解析で分かった食虫植物の進化の秘密

 まずは食虫植物であるが、有名なハエトリソウなどを始めとしてウツボカズラにモウセンゴケなど多様な種類が存在し、それぞれがあの手この手で虫を補食する。この変わった生物には進化論のダーウィンも魅せられ、晩年は温室まで作って食虫植物の研究に打ち込んだという。

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ハエトリソウ

 基礎生物学研究所で食虫植物の研究をしている「現在のダーウィン」長谷部光泰教授によると食虫植物にはまだ分からないところが多いという。研究のために遺伝子を改変して刺激を受けると葉っぱが光るハエトリソウなどを作り、その謎に迫ろうとしている。

 ゲノム解析の結果、食虫植物の進化の秘密の一部が明らかになったという。食虫植物の食虫遺伝子は実は普通の植物にある耐病性遺伝子と類似しているのだという。耐病性遺伝子は葉っぱにカビなどがついて病気になった時に、このカビを酵素で分解するための遺伝子なのだが、食虫植物ではこれが葉っぱに付いた虫を酵素で分解して栄養にするというように変化したのだという。

 ただ耐病性遺伝子が変化してしまうと、食虫植物は耐病性を失ってしまう。しかし食虫植物は進化の過程でゲノムが2倍になるという現象が起こっており、そのおかげで耐病性を保ったまま食虫性を獲得できたのだという。

 日本で多くの食虫植物が棲息する地域が千葉の九十九里平野にあるが、ここはかつて海底だったために、砂の層の表層に非常に薄い腐葉土の層が存在する植物には過酷な環境となっている。そのために食虫植物の生存に適しているのだという。普通に栄養豊富な環境では、食虫植物は光合成の効率が悪いために普通の植物に駆逐されてしまうという。

 なお食虫植物は神経がないのに刺激が伝達するシステムが未だに不明だが、長谷部氏はどうやらある仮説を持っているようだが「秘密」とのこと。恐らく裏付けを得てから論文発表する予定なんだろう。私は細胞のイオンチャンネルの類いが絡んでいるような気がする。

 

極寒の環境のタラから生まれた医療用接着剤

 後半は極寒の海に棲息するスケソウダラ。このタラのゼラチンを使用して人の命を守る技術が開発されようとしているのだという。

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スケソウダラ

 それは医療用接着剤。内蔵などの傷による出血を、接着剤で封止することで止めるのだという。しかし従来の接着剤は接着力が弱くて後ではがれることが多い問題があった。しかしタラのゼラチンを使用すると従来の3倍以上の接着力がある接着剤が開発できるのだという。

 この画期的な接着剤を開発したのは物質・材料研究機構の田口哲志グループリーダー。田口氏によるとこの接着剤の接着力のポイントは伸縮性が高いことによるという。まだ開発途上なのだが、医師からの引き合いが多数殺到しているという。それだけ社会に待ち望まれていた剤であるということである。

 また従来の接着剤は献血の血液から作られているためにウイルスによる感染の危険性が否定できないのだが、この接着剤は廃棄物であるタラの皮を加熱して使用しているので、殺菌がされているのだという。

 タラのゼラチンを使用することのポイントは、タラのゼラチンが常温で液体であることだという。ゼラチンのコラーゲンにPEG系架橋剤を混合して固化させるのであるが、この際に液体であると混合しやすいので非常に使いやすい(混ぜて5秒ぐらいで固化するので、混合しながら吹き付けるらしい)。生物のコラーゲンの変性温度はその生物の環境などで異なっており、極寒の地で棲息するタラは柔軟性の高いコラーゲンになっているという(冬用のエンジンオイルの粘性が低いようなものか)。


 小ネタ2本立てだが、どらもなかなかに面白かった。ダラダラと1つのネタを引っ張るよりも、複数のネタをこのようにトピック的に扱う方がポイントが分かりやすくて番組構成としてはかえって良いかもしれない。以前よりこの番組は、研究分野の最新トピックを扱う時の方が面白いことが多いし。

 

忙しい方のための今回の要点

・食虫植物のゲノム解析の結果、耐病性遺伝子が食虫性遺伝子に変異したことが判明した。
・しかしそのままだと食虫植物は耐病性を失うことになるが、この時にゲノムが倍増するという変異が起こったために、耐病性を失わずに食虫性を獲得することが出来た。
・食虫植物は栄養が貧困なとちでは生存に優位であるが、栄養の少ない土地では光合成効率が通常の植物よりも低いために駆逐されてしまう。
・極寒で棲息するスケソウダラのゼラチンから医療用接着剤の開発が行われている。
・この接着剤は従来のものよりも伸縮性に富むことから、接着力が3倍以上も高く、手術後にはがれる心配がないことから既に多くの医師からの引き合いが来ているという。
・タラのゼラチンが伸縮性に富むのは、含まれるコラーゲンが低温に対応して柔軟性の高いものであるからだという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・地味なネタですがなかなかに面白かったです。こういう内容こそこの番組の真髄ですね。正直なところ、先週やっていた575なんてくだらなすぎて見る気さえしなかった。

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